第3話、あかり x 騎士団

 翌日、第一王子も気になるし、王妃様たちの健康も気になっているのだけれど……。


 私の前を歩くのは、ウキウキの騎士団長さん。

 今日は、剣聖としての腕を見たいと朝イチから押しかけてきた騎士団長さんに騎士団の訓練場に連れて来られています。


 まぁ、騎士団と言えば。

 私からすればお宝の宝庫な訳ですよ、名作『騎士団長のエクスカリバーを俺の鞘に入れてみたい!』の、作中の名シーンや名セリフがもしかすると生でお目にかかれるかも知れないと思うと……滾ります。


 王城の裏手にある騎士団の訓練場、陸上競技場よりもずっと広い場所に、結構な人数の男の人達が集まって訓練をしていました。


「あっ少しだけど女性もいるのね」


 その呟きが聞こえたのか、騎士団長さんが「王妃様や王女様の護衛には、男だけでは護れない場所もあるからな」と教えてくれた。


 私が女性騎士さん達の視線を気にしていると。


「オーウェン、今日の予定の事なんだが」


 と、突然入ってきた声に驚いて声の主を見た。

「何この人! 書類で口元隠して何でそんなに騎士団長さんの顔のそばでヒソヒソ話してるの?!」「ちょっ、腰に手え回してない?!」「二人とも顔近いって!」


 まだ心の準備が整ってないタイミングでそれは私にもキツイです。


 騎士団長さんと話していたイケメンが私に気が付いた。


「今日、訓練に参加する『剣聖様』だ、でコイツはウチの副団長でマクシス」


 騎士団長さんに紹介されたマクシス副団長は「例の」とだけ呟いて、冷めた目線で私を見定めてる感じだった。

 分かりますよ、いきなり現れた小娘に騎士団長を取られやしないか内心ハラハラされているんですよね。


「今日は昼まで剣聖様にかかりきりになるから、それまでマクシスには世話を掛けるがよろしく頼むな」


 団長さんが、ポンと軽く胸の防具を叩いただけなのに、マクシス副団長のそのはにかんだ笑顔は何ですか!? 私は特等席で何を見せられているのですか。


(「団長のお世話なら何でも」

 見つめ合う二人

 「そうか、なら今度二人で」

 「団長、俺はいつでも心の準備……」)


 ――妄想が止まらない。

 オーウェンは強靭なアルファ、マクシスは忠誠心の強いオメガで、フェロモンの匂いが絡みつく禁断のペアリング……。

 騎士団の規律と本能の間で揺れる心理、互いの傷を癒す絆が、こんな日常に隠れてたら尊すぎる。


 訓練も開始されていないのに、私の脳内には変な汁が溢れています。


「まずは剣聖様のステータスを見せて貰おうかな」


「ステータス?」


「知らないか?」


 いや、知ってるも何も私が知っているのは小説の中の知識で、この世界のステータスが全く同じかは分からない訳だけど。


「いいから『ステータス・オープン』と言ってみな」


「ステータス・オープン」


 言った途端、軽い音がして目の前にはラノベにあるようなステータスの記された半透明のボードが出てきた。


「えっと、何々?」


 私も気になって見てみる……が。


「!! ちょっと何処まで書いてるのよ! ナシナシ! 消して! 消して! こら! 騎士団長見るな! わーーーーっ!!」


 慌ててボードを叩いたりするけれど消えてくれない。

 

 ステータスボードには、私の名前だけでなく、性別や年齢、身長体重などのプライベートな数値まで書かれていた。

 なんでこんな事まで書かれてるのよ、責任者出てきなさい! プライバシーの侵害よ!


「技能は剣聖で間違いない、と。魔法は防御魔法に回復魔法と身体強化だけか、攻撃魔法は使えないんだな」


 騎士団長は、私のプライバシーな部分に興味ないのか、剣聖やその他のステータスを興味深く見ていた。


「とりあえず試してみないと分からんか、ホレこいつを持って構えてみな」


 騎士団長さんに軽々と渡された鉄の剣だけど、私が持つとズッシリと重くて両手で持って構えるだけで精一杯でした。


 そんな私をニヤリと見た騎士団長さん。

 

「当たると痛いぞ!」


 ・

 ・

 ・


「こんなもんか? 凄いのかどうかよく分からんな」


 どうやらテストは終わったらしい、私は騎士団長の攻撃を受ける事なく全部弾いていた。ただそこに私の意思はなく、勝手に体が動いて対応していただけ。


 これが剣聖の効果なのかな?


「いたーい」


 勝手に体が動き回ったおかげでアチコチ痛みが走る。


「運動不足だな、剣聖様は先に体力作りが必要だな、あとは身体強化を覚えておけ」


「身体強化?」


「そうだ、効率よく体を動かして無駄な体力の消耗を防ぎ、力を効率的に出す事が出来るようになる。有力者になると二、三日は徹夜で剣を振っても疲れなくなるぞ」


 二、三日!? それって徹夜してBL読んでも疲れないって事? この頃歳のせいで徹夜が堪えるようになってきた私には最高の魔法じゃないですか!


 とりあえず身体強化のコツを教えてもらって、訓練場の周りを走らされる事になった。


 端の方を走っていると、所々で訓練をしている騎士の人達が目に入る。

 休憩中の人達の汗の湿ったタンクトップが肌に張り付いてる姿が……。

 

「あれ?」


 気がつくと、そこには昨日いた近衛騎士の二人。


 二人とも黒のズボンにタンクトップの肌着という薄着で、少しでも面識のある人のそういう姿は脳への刺激が強い。

 何を始めるのかと思い、足を止めて見ていると。


「カイル……いい加減諦めろ」

 

「今日こそはアルバラードに絶対勝つ!」


 そう言って睨み合っていた二人だったけど、アルバラードさんが私に気がつくと急に目を真っ赤にしてカイルさんに抱きついた!!


「え! え! え! こんな所で何やってるの!!」


「あれは徒手空拳だ、武器が使えなくなった場合に己の肉体だけで相手を押さえ込む為の訓練だな。特にあの二人の訓練は本気度が高いと有名だぞ」


 突然横に来ていた騎士団長さんが解説してくれたけど、(さっきのアレはそんなんじゃ無かったような?)そんな疑問も浮かんだのだけれど、すぐに私の脳内はそれどころでは無くなっていた。


「ぐっ……アル……」


(「ほら、どうした早く抜け出せよ」「くそっ! えっ、ちょっどこに手を回して」「カイルはココが硬いから抜けられないんだよ」「ダメだって、あ……」「何だ濡れてるじゃないか」)


 このまま一生壁になりたい……。


 その後、しばらく膠着した二人の姿を眺めているとアルバラードさんの力が抜けてカイルさんは掴まれた腕から抜け出した。

 アルバラードさんは立ち上がりながら私をみて。


「覗き見か? 趣味が悪いな」


「ちょっ! 覗き見なんてしてません! それより二人とも汗臭いですよ、はやくお風呂で流してきて下さい!」


「俺、汗臭いかカイル?」

 

 アルバラードさんがカイルさんに向かって顔を寄せる。


「いい匂い……だと、思う」


「だそうだ、剣聖様」


 そしてアルバラードさんは、カイルさんの腰に手を回したままお風呂へと向かって消えていった……。


 はぁー、騎士団箱推ししていいかな。


 私は、その後も身体強化を使いながら訓練場の周回を重ね、帰る頃には騎士団長から合格点を貰えた。


 ・

 ・

 ・


「クソッ」

 

 急に体をフラつかせてカイルと壁に寄りかかるアルバラード。

 

「大丈夫? 今日の発作は激しかったけど」

「済まない、アイツの顔を見た途端に嫌な事を思い出してしまった」

「嫌な事……それってあの日の」


 カイルの顔が沈む、それを見たアルバラードはギッと歯を食い縛り。

「俺は、もう二度とお前のあんな姿を見たくないんだ」

「僕だって、僕のために傷付くアルの姿は見たくない」

 

 お互いの気持ちが、相手を守りたいと言う思いですれ違っていた。

 

「さっき掴んだ場所は大丈夫か? かなり強く握ってしまっただろう」

 

 アルバラードを安心させようと笑顔で答えるカイル。

 

「さっき回復魔法を使ったからもう平気だよ」

 

 その言葉にさらに体を強張らせるアルバラード。

 

「済まない、またお前を傷つけてしまった」

 

「ううん、アルバラードにばかり頼ってアルバラードを傷付かせているのは僕だよ」

 

「俺は、絶対にこの忌々しい記憶を消してみせる」

 

「うん、アルバラードなら出来よ」

 

 ふっと表情を緩ませて、カイルの体に寄りかかるアルバラード。

 

「もう少しだけ、こうさせててくれ」


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 オーウェン騎士団長

オーウェン・バークモア(43歳)


第一騎士団団長、マクシス副団長は部下として信頼している。

料理長のマーブルとは仲が良くて、よく一緒にお酒を飲んでいる。



マクシス副団長

マクシス・リフシュタイン(39歳)


第一騎士団副団長、団長に絶対の信頼(もはや信仰)を寄せている。

団長の言う事は絶対、新人にも古参にも怖がられている。

暴走しすぎて団長でも怖がる事がある。



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お読み頂きありがとうございます。

本日の更新はここまでになります。


明日は、12:48、15:35、19:35に更新の予定となります。


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