第3話 俺に依存させてやる!
「おっ、このシチューおいしいな」
「えへへ、ありがとう」
休日の鬼苺家。俺は瀬野姉妹を家に上げて昼食をごちそうしてもらっていた。
不良の家庭環境というものはやはり劣悪で、鬼苺父は他所に女を作って帰ってこず、母親は弟を産んで死んでしまっている。
まあ簡単に言うとネグレクトというわけだ。
「それもこれも兄ちゃんがすみれちゃん助けたからだね。やっぱり兄ちゃんは最高のワルだ!」
「
「えー」
とはいえ、俺の魂が宿る前の
同じ環境で生まれた弟、
「いさな、すみれのおかわり多めでお願い」
「はーい、多めね」
俺とは違って甘いルックスの勇魚に無遠慮に頼み事をする葵の妹、菫。
なんと二人は同じ小学五年生であるだけでなく、同じクラスで隣同士らしい。よく一緒に遊んでいると聞いた。
しかも――
「すみれちゃん、あーんして」
「あー……ん。うまい。すみれもやる」
「え、あ、ありがと……」
どうやら
よく鬼苺家で一緒にご飯を食べるようになって一気に距離が縮まったらしい二人。
よかったな。
弟の恋が成就しそうでほっとする。
「じゃあ、私も……はい、あーん……」
「お、いいね」
俺の前に出されたシチューを口に含んだ。うん、美女の手料理は最高だな。
そう思っていると、葵はもじもじしだした。
「あの、じゃあ……今度はふーふーしようか?」
「最高だな!」
「……もういっそ口移し……」
「いや、それはちょっとやり過ぎじゃねえか?」
口にシチューを含もうとした葵をいったん落ち着かせる。
俺が怖くて従順になるのは結構だが、さすがに弟の前で恋人でもない人と愛し合うのはまずい。
弟には健全に生きてもらいたいのだ。
「むう……じゃあ食べ終わっちゃおうか」
なぜか残念そうに見える葵を横目に、俺は昼食を食べ始めた。
「……ごちそうさま」
食べるのが早い俺が完食したころになっても、食卓は騒々しい。
菫が食い意地を張って勇魚の皿を奪い、そのイチャイチャを葵がたしなめる。
ちょっと前まで男二人でカップ麺をもそもそ食ってたのが嘘みたいだ。
「これもなにも、俺が思うがままに悪事を働いたからだな……ククク」
俺が密かに笑っていると、急に葵が皿を置いてこちらを真剣な表情で見てくる。
「……ねえ、私さ。最近毎日が楽しくて仕方ないんだ」
「そうか」
「私の家が貧乏だって言ったら、おっくん……どうでもいいって笑い飛ばしてくれたよね。こっちは金はあるけど愛はねえぞって」
「ああ言ったな」
こいつの事情とか俺には何も関係ない。
どんなに貧乏で不幸だろうが、俺みたいな不良に脅されて奴隷にされる方が遙かに苦しいしな。
「それで、おっくんが『半分にしたらちょうどいいな』って提案してくれて……こうやって一緒に食事を取るようになって、家族みたいになって……幸せになれた」
それに、俺は奴隷をしっかりと管理するタイプだ。
健康で肉付きがよくないと、夜の運動についてこれないからな。反応が悪いのもいただけない。
それだけの理由だ。
「ずっとこんな風でいたいな……」
なのに俺をぼうっと見た葵は、そう小さくこぼした。
そのきれいな瞳に、何かの感情を宿して。
俺はハッと鼻を鳴らす。
ずっとこれがいい? なんとまあ物好きなもんだ。
葵の顔に両手を伸ばして、こちらを向かせた。
「――こんなんでいいんなら、お望み通りずっとこのままでいさせてやるよ」
「……」
俺がニヤリとして凄むと、その碧い瞳が揺れて――
「私、おっくんのこと――」
ブブッ。
「おねえちゃん、なんかきたよ」
「こ、こら! すみれちゃん、今は!」
「んー?」
「……また後でね」
通知音と年少組に邪魔された葵は何か言いかけたのをやめて、スマホを確認する。
それを一目見て、葵は急に立ち上がった。
「どうかしたか?」
「あ……ううん、大丈夫。私ちょっと用事思い出したから、出かけるね」
「……おう、そうか」
急ぎの用事らしい。
慌てているので、俺も近くにあった葵のバッグを取って渡してやる。
「ほらよ」
「ありがとう、行ってくるね」
駆け足で出て行った葵を見送り、俺はシチューを口に含む。
「……」
さて、何事もなければいいが。
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