エピローグ 完
午後6時。
体に、変化が起きた。
温かい感覚。
いや、熱い。
体の中から、何かが変わっていく。
「のぞみちゃん!」
りおが、私を支える。
ベッドに横たわる。
胸が、小さくなっていく。
体つきが、変わっていく。
筋肉が、戻ってくる。
そして。
股間に、感覚が戻る。
「あ…」
声が、低くなる。
男の声に。
数分間の、激しい変化。
そして。
全てが、終わった。
鏡を見る。
そこには。
田中信一がいた。
26歳。
IT企業のエンジニア。
i.sのファン。
元の姿。
「信一さん…」
りおが、恐る恐る呼ぶ。
私は、振り返った。
「りおさん」
男の声で。
でも、心は変わっていない。
「まだ、約束、覚えてますか?」
「もちろん」
私は、りおの手を取った。
「二重生活」
「のぞみとして、また会います」
「そして、一緒に戦います」
りおが、涙を流した。
「ありがとう…」
「本当に、ありがとう…」
私は、りおを抱きしめた。
男として。
でも、気持ちは同じ。
「薬、用意しておきます」
りおが、震える声で言う。
「次に会う時は」
「のぞみちゃんとして」
「はい」
私は、頷いた。
そして、荷物をまとめた。
部屋を出る時間。
ロビーで、他の「参加者」たちと会った。
佐々木さん。
高橋さん。
みんな、事務所の人間。
演技をしていた人たち。
でも、今は。
本当の顔を見せている。
「お疲れ様でした」
佐々木さんが、声をかけてくる。
「はい」
「また、会えますか?」
「多分」
私は、微笑んだ。
「今度は、違う形で」
バスに乗る。
りおは、見送りに来なかった。
それでいい。
今は、まだ。
アイドルとファン。
その関係を、壊すわけにはいかない。
バスが動き出す。
山を降りていく。
新宿に戻る。
いつもの日常に。
でも、もう。
何もかもが、違う。
---
**数週間後**
私は、会社で働いていた。
いつも通り。
コードを書いて。
会議に出て。
上司、守屋直哉と話す。
「田中、この案件頼めるか?」
「はい、わかりました」
表面上は、何も変わっていない。
でも、私は知っている。
この人の、裏の顔を。
そして、準備を進めている。
証拠を集めるための。
夜。
アパートに戻る。
鏡の前に立つ。
引き出しから、小さな瓶を取り出す。
りおから送られてきた、薬。
一粒、飲む。
そして。
変化が始まる。
数分後。
鏡には、のぞみがいた。
スマホを取り出す。
りおからのメッセージ。
『今夜、練習あるよ。来れる?』
『はい、行きます』
返信する。
のぞみとして。
そして、家を出る。
二重生活。
昼は信一。
夜は、のぞみ。
疲れる。
大変だ。
でも、これが。
私が選んだ道。
---
**数ヶ月後**
i.sに、新メンバーが加わった。
『のぞみ』
デビューライブ。
ステージに立つ。
照明が、眩しい。
観客の歓声が、聞こえる。
隣には、りお。
一緒に、歌う。
一緒に、踊る。
客席を見る。
たくさんの笑顔。
ペンライトの光。
ずっと、見ていた景色。
でも、今は。
見る側から、見られる側に。
そして、これは。
戦いの始まり。
証拠を集めるための。
内部からの、潜入。
歌いながら、思う。
もうすぐだ。
もうすぐ、全てが明らかになる。
森の罪。
業界の闇。
全て。
りおと、目が合う。
二人で、頷き合う。
一緒に、戦おう。
最後まで。
歌が、終わる。
大きな拍手。
「ありがとうございました!」
のぞみとして、叫ぶ。
でも、心の中では。
信一として、誓う。
必ず、正義を。
必ず、りおを救う。
そして、この業界を変える。
ステージの照明が、消える。
でも、私たちの戦いは。
これから、本当に始まる。
**【完】**
ラッキースター あさき のぞみ @ASAKInozomi
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