第41話 最終日
## 第41話 最終日
最終日の朝。
目が覚めると、体に違和感があった。
いや、違和感がない。
それが、違和感だった。
女の体に、慣れてきている。
3日間で。
こんなにも。
りおは、まだ眠っている。
穏やかな寝顔。
昨夜、遅くまで話していた。
これから、どうするべきか。
「証拠は、まだ足りない」
「でも、のぞみちゃんを危険な目に遭わせたくない」
「どうすれば…」
何度も、何度も。
同じ話を繰り返した。
でも、結論は出なかった。
時計を見る。
午前10時。
あと、数時間で。
薬の効果が切れる。
男に戻る。
信一に。
私は、ベッドから起き上がった。
リビングに行く。
窓の外の景色。
山。
木々。
静かな朝。
3日間。
色々なことがあった。
女になって。
りおと出会って。
真実を知って。
そして、決めた。
戦うことを。
でも。
「本当に、これでいいのか…」
自問自答する。
男に戻ったら。
全て、元通りなのか。
いや。
もう、元には戻れない。
知ってしまったから。
りおの痛み。
森の裏の顔。
業界の闇。
全部。
「おはよう」
りおの声。
振り返ると、りおが立っていた。
寝癖のついた髪。
でも、少し笑顔。
「おはよう、ございます」
「よく眠れた?」
「はい、りおさんは?」
「うん。のぞみちゃんが隣にいてくれたから」
りおが、私の隣に座る。
窓の外を見る。
「もうすぐ、戻るね」
「はい…」
「寂しくなるな」
りおが、小さく笑う。
「のぞみちゃんと、女の子同士で話せて」
「楽しかった」
「私も…です」
本心だった。
最初は、恐怖だけだった。
でも、りおと話して。
わかり合えて。
女の子として過ごした時間は。
辛かったけど。
貴重だった。
「ねえ、のぞみちゃん」
りおが、私を見る。
「戻った後、どうする?」
その質問。
昨夜から、ずっと考えていた。
「りおさん」
「うん」
「連絡先、教えてもらえますか?」
りおの目が、大きくなる。
「連絡先?」
「はい」
私は、りおの目を見た。
「男に戻っても、りおさんを助けたい」
「だから」
「繋がっていたいんです」
りおが、じっと私を見つめる。
「のぞみちゃん…」
「それと」
私は、続けた。
「のぞみとしても、生きたいです」
「え?」
「二重生活、します」
りおが、混乱した顔をする。
「二重生活って…」
「男の時は、信一として」
「m3+で、エンジニアとして働きます」
「でも、女の時は」
私は、りおの手を取った。
「のぞみとして、生きます」
「りおさんと、一緒に」
りおの目から、涙が溢れた。
「でも、どうやって…」
「薬、もらえませんか?」
「薬…」
「はい。女になる薬」
「半永久的に、飲み続けます」
「そうすれば」
私は、微笑んだ。
「信一とのぞみ、両方として生きられます」
「そして」
「森とのことが終わったら」
私は、窓の外を見た。
「アイドルになります」
「え…」
「ずっと、見ていた側でした」
「でも、これからは」
私は、りおを見つめた。
「ステージから、観客を見る側になります」
「りおさんと、一緒に」
りおが、声を震わせた。
「本気…?」
「本気です」
「でも、仕事は…」
「エンジニアは続けます」
「男として」
「でも、休日や夜は」
「のぞみとして、アイドル活動をします」
りおが、私を抱きしめた。
「ありがとう…」
「本当に、ありがとう…」
私も、りおを抱きしめ返した。
「一緒に、戦いましょう」
「証拠を集めて」
「森を、他のメンバーを」
「そして、システムそのものを」
「変えましょう」
りおが、頷いた。
「うん」
「一緒に」
二人で、抱き合いながら。
新しい決意をした。
これから、戦いが始まる。
長く、厳しい戦い。
でも、一人じゃない。
二人で、戦える。
時計を見る。
午後3時。
あと、数時間で。
薬の効果が切れる。
でも、これは終わりじゃない。
始まりだ。
新しい人生の。
新しい戦いの。
窓の外では、太陽が傾き始めていた。
最終日の、午後。
私たちの物語は、これから本当に始まる。
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