第36話 お守り
## 第36話 お守り
部屋に戻って、ソファに座る。
私は、膝を抱えていた。
今夜。
あの人が来る。
守屋直哉。
いや、森直人。
何をされるんだろう。
りおが受けたような。
ひどいことを。
体が、震える。
怖い。
本当に、怖い。
でも、決めたんだ。
りおと、一緒に戦うって。
「のぞみちゃん」
りおの声。
顔を上げると、りおが心配そうに見ている。
「大丈夫?」
「は、はい…」
嘘だ。
全然、大丈夫じゃない。
りおが、私の隣に座る。
そして、私の顔を覗き込んできた。
「不安だよね」
「はい…」
正直に答える。
りおの表情が、柔らかい。
昨日までとは、違う。
優しい。
本当に、優しい表情。
「私にしてあげられること」
りおが、私の手を取る。
「何かないかな…のぞみちゃん」
その言葉が、胸に染みる。
「りおさんが、そばにいてくれるだけで」
「十分です」
「でも」
りおが、立ち上がる。
「それだけじゃ、足りない気がする」
そう言って、りおは寝室に行く。
何かを探している音。
そして、戻ってくる。
手に、何かを持っている。
小さな、布。
「これ」
りおが、私の前に座る。
そして、手を広げる。
そこには。
小さく丸まった、パンツ。
淡いピンク色。
レース付き。
「お守り代わりに…」
りおが、恥ずかしそうに言う。
「これ、初めてライブした時から」
「頑張りたい時に、身につけてたの」
「デビューライブの時も」
「大きな会場でのライブの時も」
「いつも、これを履いてた」
りおが、私の手にそれを置く。
温かい。
りおの体温が、まだ残っている。
「だから…」
りおが、私の目を見る。
「一緒に戦ってくれるなら」
「これを、のぞみちゃんに」
「お守りとして、持っていてほしい」
私は、それを見つめた。
りおの、大切なもの。
りおが、ずっと身につけていたもの。
「でも、これ…」
「いいの」
りおが、にっこりと笑う。
「のぞみちゃんの方が、必要だから」
「今夜、怖かったら」
「それを握りしめて」
「そうすれば」
りおが、私の頬に手を当てる。
「私が、そばにいるって」
「思い出せるから」
涙が出そうになった。
りおの優しさ。
りおの気持ち。
「ありがとう…ございます…」
「どういたしまして」
りおが、私を抱きしめる。
「一緒に、頑張ろうね」
「はい」
私は、そのパンツを大切に握りしめた。
柔らかい。
そして、りおの香りがする。
甘い香り。
これが、お守り。
りおと一緒に戦うための。
「のぞみちゃん」
「はい」
「今夜、もし耐えられなくなったら」
りおが、真剣な顔で言う。
「すぐに言って」
「我慢しなくていいから」
「無理しないで」
「約束」
私は、頷いた。
「約束します」
でも、心の中では思う。
できるだけ、耐えよう。
りおのために。
証拠を集めるために。
あと少し。
あと数時間で。
夜が来る。
そして、試練が始まる。
でも、私は一人じゃない。
りおが、一緒にいる。
このお守りが、一緒にいる。
だから。
きっと、大丈夫。
そう、自分に言い聞かせた。
窓の外では、太陽がゆっくりと傾き始めていた。
夜が、近づいている。
私は、りおのパンツを胸に抱きしめながら。
その時を、待った。
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