第25話 第3問



お腹の痛みが、少しずつ引いていく。


でも、心の痛みは、消えない。


屈辱。


惨めさ。


これが、あと何度繰り返されるんだろう。


ソファに座りながら、考える。


逃げられないか。


どこかに、隙はないか。


りおが寝ている間。


トイレに行っている間。


何かしている間。


その時に、部屋を抜け出せば。


7階だけど、非常階段がある。


そこから、1階まで。


ロビーに行けば、スタッフがいる。


助けを呼べる。


そうだ。


そうすれば。


解放される。


元に戻れる。


「ねえ、のぞみちゃん」


りおの声。


「はい…」


「今、何考えてた?」


「え…」


心臓が、跳ね上がる。


「別に…何も…」


「嘘」


りおが、私の目を見つめる。


その目が、冷たい。


「逃げようとしてたでしょ」


「そんな…」


「顔に書いてあるよ」


りおが、私の顎を掴む。


強く。


「私が寝てる間とか、トイレ行ってる間とか、考えてたでしょ?」


バレてる。


全部、バレてる。


「違います…」


「嘘つかないで」


りおの声が、低くなる。


「のぞみちゃん、わかってる?」


「何が…」


「ここから逃げても、無駄だよ」


りおが、にっこりと笑う。


でも、その笑顔は、恐ろしい。


「だって、のぞみちゃん、女の子でしょ?」


「それは…」


「女の子の姿で、この建物から出て、どこに行くの?」


その通りだ。


私は、女だ。


服も、女の子の服。


下着も、女の子の下着。


体も、完全に女。


「警察?誰かに助けを求める?」


りおが、クスクス笑う。


「でも、誰が信じる?」


「信じ…」


「『アイドルに誘拐されて、女の子にされました』って?」


りおの言葉が、胸に刺さる。


「誰も信じないよ。むしろ、のぞみちゃんが変な人だと思われる」


その通りだ。


誰が信じる。


こんな話。


「それに」


りおが、私の耳元で囁く。


「3日後には、元に戻るって約束したでしょ?」


「はい…」


「でも、逃げたら」


りおの手が、私の首に触れる。


「戻してあげない」


「え…」


「ずっと、女の子のまま」


りおが、にっこりと笑う。


「それでもいいの?」


ダメだ。


絶対にダメだ。


元に戻らなきゃ。


男に、戻らなきゃ。


「わかり…ました…」


「よし、いい子」


りおが、私の頭を撫でる。


「でもね」


「はい…」


「逃げようとしたこと、許さないよ」


りおの声が、冷たい。


「罰ゲーム」


「罰ゲーム…」


「うん。次の問題、難しくしてあげる」


りおが、楽しそうに笑う。


「それに、間違えたら」


りおが、私の唇に指を当てる。


「さっきよりも、ひどい罰があるからね」


ひどい罰。


何をされるんだろう。


考えたくない。


「じゃあ、第3問」


りおが、真剣な顔になる。


「これは、ちょっと難しいよ」


難しい。


罰ゲームだから、難しい。


「心して、聞いてね」


りおが、にっこりと笑う。


私は、息を止めて、次の問題を待った。


逃げようとした、罰。


それが、今から始まる。


間違えられない。


絶対に。


でも、難しい問題。


プレッシャーが、胸を押し潰す。


りおの口が、開いた。


次の問題が、私の運命を決める。

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