第18話 火照る



お湯から上がると、体が火照っていた。


冬の冷たい空気が、熱くなった肌に触れる。


でも、不快じゃない。


むしろ、気持ちいい。


鏡を見る。


知らない女の子が映っている。


色白の肌。


でも、お湯に浸かっていたところだけ、ピンク色に染まっている。


脚、腕、首、顔。


全部、ピンク色。


そして、ツルツルの肌。


本当に、女の子だ。


「のぞみちゃん、可愛い」


りおが、後ろから覗き込む。


「さ、着替えよう」


着替え。


そうだ。


カゴに入れていた浴衣を取ろうとする。


でも。


ない。


カゴの中が、空だ。


「え…」


「どうしたの?」


りおが、不思議そうに聞く。


「浴衣が…ない…」


「あ、大丈夫だよ」


りおは、あっさりと言う。


「全部、洗濯してるから」


「え…」


「お風呂に入ってる間に、お願いしといたの」


いつの間に。


誰に。


「嬉しいでしょ?」


りおが、にっこりと笑う。


嬉しい、じゃない。


困る。


着るものがない。


「あの…じゃあ、何を…」


「大丈夫。ちゃんと用意してあるから」


りおが、脱衣所の棚を開ける。


そこには、見たことのない服が畳まれていた。


「はい、これ」


りおが手渡してくる。


白い布。


レースがついている。


広げてみる。


下着だ。


ブラジャーとパンツ。


でも、さっきの淡い紫色のものとは違う。


真っ白。


そして、レースがふんだんに使われている。


「これ…」


「可愛いでしょ?のぞみちゃんに似合うと思って」


りおが、楽しそうに言う。


「さ、着て」


「あ…はい…」


私は、震える手で、下着を身につけた。


ブラジャー。


ホックを止める。


慣れない動作。


何度か失敗する。


「手伝おうか?」


「だ、大丈夫です…」


ようやく、止められた。


胸が、ブラジャーに収まる。


レースの感触が、肌に触れる。


次に、パンツ。


足を通して、引き上げる。


ぴったりと、体にフィットする。


レースが、太ももに食い込む感じ。


恥ずかしい。


でも、着るしかない。


「次は、これ」


りおが、別の服を手渡す。


ワンピース。


薄いピンク色。


ふわっとしたデザイン。


袖は半袖。


スカート部分は、膝上丈。


「これを…着るんですか…」


「うん。可愛いよ」


私は、ワンピースを頭から被る。


するりと、体に沿って落ちてくる。


軽い。


柔らかい。


鏡を見る。


そこには。


完全に、女の子がいた。


ピンクのワンピース。


ツルツルの肌。


色白で、火照ったピンク色の頬。


「可愛い!」


りおが、拍手する。


「のぞみちゃん、めちゃくちゃ可愛い!」


「あ…ありがとう…ございます…」


私は、鏡の中の自分を見つめた。


これが、私。


信一じゃない。


のぞみ。


「じゃあ、部屋に戻ろう」


りおが、私の手を取る。


リビングに戻る。


りおも、すでに着替えていた。


白いTシャツに、デニムのショートパンツ。


カジュアルで、でもすごく可愛い。


「座って」


ソファを指される。


私は、座る。


スカートが、太ももに張り付く。


脚が、露わになる。


恥ずかしい。


でも、これが、女の子の服。


りおが、向かいに座る。


「ねえ、のぞみちゃん」


「はい…」


「お腹空いてない?」


そう言われて、気づく。


そういえば、朝から何も食べていない。


サービスエリアのチョコレートだけ。


あの、呪われたチョコレート。


「少し…空いてます…」


「じゃあ、ご飯食べよう」


りおが立ち上がる。


「ルームサービス、頼んであるから」


いつの間に。


その時、ドアがノックされた。


「ルームサービスです」


「はーい」


りおが、ドアを開ける。


スタッフが、ワゴンを押して入ってくる。


料理が、いくつも並んでいる。


「こちら、お二人様分です」


「ありがとうございます」


りおが、にこやかに対応する。


スタッフが去る。


「さ、食べよう」


テーブルに、料理が並べられる。


サラダ、パスタ、肉料理、デザート。


豪華だ。


「いただきます」


りおが、箸を取る。


私も、フォークを取る。


でも、手が震える。


体が、まだ火照っている。


お風呂の熱だけじゃない。


この状況の異常さに。


体が、反応している。


「のぞみちゃん、食べないの?」


「あ…はい…」


私は、震える手で、フォークを口に運んだ。


これから、どうなるんだろう。


りおは、何をするつもりなんだろう。


不安と恐怖が、胸の中で渦巻いていた。


でも、逃げ場はない。


私は、ただ、りおの言うことを聞くしかなかった。

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