第17話 儀式1



りおが、先に湯船から上がった。


お湯が滴る体。


湯気の向こうで、シルエットが揺れる。


私は、お湯の中で固まっていた。


りおは、テラスの端に置いてあったバスケットに手を伸ばす。


え?


あんなところに、何かあったの?


気づかなかった。


いや、最初からそこにあったのか。


それとも、事前に準備していたのか。


りおが、バスケットの中から次々と取り出す。


T字カミソリ。


シェービングジェル。


そして、電動シェーバー。


それらを、テラスの縁に並べる。


「さあ」


りおが、振り返る。


笑顔。


でも、その目は、真剣だ。


「のぞみちゃん、綺麗にしてあげる」


「え…」


綺麗に?


何を?


りおが、手招きする。


「おいで」


「あ、あの…」


「大丈夫。痛くしないから」


その言葉が、逆に怖い。


何をするつもりなんだ。


でも、逆らえない。


私は、ゆっくりと湯船から出た。


冷たい空気が、濡れた肌に触れる。


震える。


寒さで。


恐怖で。


りおの前に立つ。


全裸で。


「はい、ここに座って」


りおが、テラスの縁を指す。


私は、言われるままに座った。


冷たい。


でも、すぐに体が温まる。


りおが、シェービングジェルを手に取る。


「何を…するんですか…」


「ん?見ればわかるよ」


りおが、にっこりと笑う。


そして、私の脚を見る。


「女の子なのに、ちょっとだけ、産毛があるでしょ?」


脚?


見下ろす。


確かに、薄く、産毛が生えている。


男の時より、ずっと薄いけど。


「これを、綺麗にしてあげるの」


りおが、私の脚にジェルを塗り始める。


冷たい。


でも、りおの手が、優しく肌に触れる。


「脚だけじゃないよ」


りおが、私の体を見渡す。


「腕も。脇も。それから…」


りおの視線が、下に向く。


「え…」


「全部、綺麗にしてあげる」


りおが、楽しそうに言う。


「女の子は、ツルツルじゃないとね」


カミソリを手に取る。


「動かないでね」


そう言って、りおは私の脚にカミソリを滑らせた。


ジェルと一緒に、産毛が剃られていく。


音。


感覚。


初めての体験。


りおの手が、丁寧に、私の脚を剃っていく。


「ほら、綺麗になってきた」


確かに。


カミソリが通った後は、ツルツルだ。


光っている。


「次、こっち」


りおが、もう片方の脚に移る。


同じように、ジェルを塗って。


カミソリで剃る。


丁寧に。


優しく。


でも、確実に。


「腕も、ね」


次は、腕。


両腕を、りおが剃っていく。


私は、ただ座っていることしかできない。


人形みたいに。


「はい、次は脇」


「わ、脇…」


「うん。腕上げて」


私は、腕を上げる。


恥ずかしい。


でも、逆らえない。


りおが、脇にジェルを塗る。


くすぐったい。


そして、カミソリ。


慎重に。


丁寧に。


「よし、片方終わり。もう片方」


同じことを繰り返す。


そして。


「最後は…」


りおが、私の股間を見る。


「え…あ…」


「大丈夫。ちゃんとやってあげるから」


りおが、電動シェーバーを手に取る。


「ちょっと、こうして」


私の脚を開かせる。


「り、りおさん…」


「シーッ。動いちゃダメだよ」


シェーバーの音。


そして、感覚。


デリケートな部分に、刃が触れる。


怖い。


恥ずかしい。


でも。


りおの手つきは、プロみたいに慣れている。


まるで、何度もやったことがあるみたいに。


「ほら、綺麗」


りおが、満足そうに言う。


私の体は、もう、完全にツルツルだった。


産毛一つない。


「じゃあ、もう一回お風呂入って、ジェル流そうか」


りおが、私の手を引く。


また、湯船に入る。


お湯が、剃ったばかりの肌に染みる。


でも、不思議と、気持ちいい。


肌が、敏感になっている。


「綺麗になったね、のぞみちゃん」


りおが、隣で微笑む。


「これで、本当の女の子みたい」


本当の、女の子。


私は、湯船の中で、自分の体を見下ろした。


ツルツルの肌。


柔らかい体。


胸。


もう、男の痕跡は、どこにもなかった。


りおの儀式は、まだ始まったばかりだった。

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