第9話 オリエンテーション



ロビーに全員集まった。


広々とした空間。天井が高くて、大きな窓から木々の緑が見える。


スタッフが前に立って、説明を始める。


「それでは、簡単にオリエンテーションを行います」


みんな、静かに聞いている。


「まず、館内の設備についてですが」


スタッフがパネルを指さす。


「レストランは1階、大浴場は地下1階にあります。ご自由にご利用ください」


「そして、万が一の避難経路についてです」


館内の地図が映し出される。


「各階に非常階段があります。火災報知器が鳴った場合は、エレベーターは使わず、階段で1階ロビーまでお越しください」


淡々とした説明が続く。


避難経路、消火器の場所、緊急連絡先。


正直、頭に入ってこない。


早く部屋に行きたい。早くりおに会いたい。


「以上で、オリエンテーションを終わります」


ようやく終わった。


「それでは、14時までお部屋でお寛ぎください。14時になりましたら、各お部屋で特別企画が始まります」


特別企画。


やっぱり、部屋で何かあるのか。


「それでは、解散です」


みんな、バラバラに動き出す。


「じゃあ、また後で!」


佐々木さんが手を振って、エレベーターに向かう。


他の女性たちも、それぞれの階に向かっていく。


俺もエレベーターに乗る。


ボタンを押す。7階。


ゆっくりと上昇する。


一人だけの空間。


ようやく、少し落ち着ける。


7階に到着。


ドアが開く。


廊下は静かだ。誰もいない。


701。


一番奥の部屋らしい。


廊下を歩く。自分の足音だけが響く。


701。


ドアの前に立つ。


スマホを取り出して、QRコードを読み取る。


カチャ。


鍵が開く音。


ドアを開ける。


「うわ…」


思わず声が出た。


広い。


めちゃくちゃ広い。


リビングルーム、寝室、そしてバスルーム。


窓からは、山の景色が一望できる。


「すごいな」


荷物を置いて、部屋を見て回る。


ベッドはキングサイズ。ふかふかだ。


リビングには大きなソファとテレビ。


そして、バスルーム。


「え、マジか」


客室専用の露天風呂まである。


その隣にはサウナまで。


こんな豪華な部屋、初めてだ。


一泊いくらするんだろう。


窓際に立って、景色を眺める。


木々に囲まれた静かな空間。


都会の喧騒とは別世界だ。


時計を見る。13時55分。


もうすぐ14時だ。


特別企画。


何が始まるんだろう。


その時だった。


コンコン。


ドアをノックする音。


え?


誰だ?


もしかして、スタッフ?


覗き穴から外を見る。


そして、固まった。


え。


え?


え!!!!!


そこには。


りおが立っていた。


星咲りお。


本物の。


心臓が止まるかと思った。


手が震える。


でも、ドアを開けなきゃ。


ゆっくりと、ドアを開ける。


そこに、りおがいた。


テレビで見た。YouTubeで見た。ライブで遠くから見た。


あの、りお。


目の前に。


実物。


小柄だ。でも、画面で見るより存在感がある。


そして。


スタイルがいい。


小柄なのに、出るところは出ている。


思わず目が行きそうになって、慌てて視線を上げる。


りおが微笑んだ。


「はじめまして」


声が。


りおの声が。


イヤホン越しじゃない。


スピーカー越しでもない。


生の声。


「あ、あの…」


何か言わなきゃ。


でも、言葉が出てこない。


りおは、にこやかに続けた。


「3日間、同じ部屋になります。よろしくね」


は?


え?


3日間?


同じ部屋?


頭が真っ白になる。


「え、あの、3日間…って?」


「うん。今回の特別企画、そういう内容なの」


りおは当たり前のように言う。


「田中さん、だよね?くじで選ばれたの」


くじ。


そうか。


あの『新しい物語』って。


これのことか。


「よろしくね」


りおがもう一度微笑む。


俺は、ただ呆然と立ち尽くしていた。


これは、夢か?


いや、夢じゃない。


本物だ。


りおが、目の前にいる。


そして、3日間、同じ部屋。


俺の人生が、今、変わろうとしていた。

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