第8話 部屋番号



封筒の中をもう一度確認した。


『新しい物語』という謎めいた文章の下に、小さく数字が書かれていた。


**701**


これは何だろう。


「あ、皆様」


スタッフが再びマイクを持つ。


「くじの下に書かれている数字、見えますか?」


「はい!」


みんなが答える。


「その数字は、今夜宿泊していただく部屋番号です」


部屋番号。


そうか、そういうことか。


「302だ」


「私は205」


「私、401!」


周りで女性たちが口々に言い合っている。


「リゾートは全部で7階建てになっています。お部屋は全て個室で、快適に過ごしていただけるようになっています」


個室。よかった。


正直、相部屋だったらどうしようと思っていた。俺以外全員女性なのに、相部屋だったら気まずすぎる。


「そして、くじにはQRコードもついていますね?」


封筒を見る。確かに、小さなQRコードが印刷されている。


「そちらがルームキーになります。スマホで読み取って、登録をお願いします」


みんな、一斉にスマホを取り出す。


俺も慌ててスマホを出して、QRコードを読み取る。


画面に表示が出る。


『ルームキー登録完了

部屋番号:701

チェックイン可能時間:14:00〜』


登録完了の通知が出た。


「皆様、登録できましたか?」


「はい!」


「大丈夫です!」


みんなが答える。


佐々木さんが隣で言った。


「私、302なんですよ。田中さんは?」


「701です」


「わー、7階!最上階じゃないですか!いいなあ」


最上階。


そうなのか。特別な意味があるのかな。


それとも、ただの偶然?


「ちなみに」


スタッフが続ける。


「お部屋の階数や位置に、特に意味はありません。完全にランダムですので、ご安心ください」


ランダムか。


じゃあ、俺が7階になったのもただの偶然だ。


「部屋、どんな感じなんだろうね」


「楽しみ!」


「オーシャンビューとか?」


「ここ山だから、マウンテンビューじゃない?」


女性たちが楽しそうに話している。


俺も少し楽しみになってきた。


個室。自分だけの空間。


ちゃんと休める場所があるなら、少しは気が楽だ。


窓の外を見ると、景色がどんどん変わっている。


ビルが減って、木が増えてきた。


空気も、さっきより澄んでいる気がする。


「もうすぐ到着しますよ」


スタッフが言う。


「到着したら、まずロビーで簡単なオリエンテーションを行います。その後、各自お部屋にチェックインしていただいて、14時からメインイベントが始まります」


14時。


あと、2時間くらいか。


「メインイベントでは、i.sのメンバーと直接交流していただきます」


車内がざわめく。


「やった!」


「ついに会える!」


みんな、テンションが上がっている。


俺も、胸が高鳴る。


りおに会える。


ついに、本物のりおに。


でも、その前に。


くじの内容。


『新しい物語』


これは、何を意味するんだろう。


他のみんなは、グループ写真とか、夕食とか、具体的な内容だった。


でも俺のだけ、抽象的すぎる。


不安と期待が入り混じって、胸がざわざわする。


バスが減速する。


「到着です」


スタッフが言う。


窓の外を見ると、立派な建物が見えた。


白い壁。大きなガラス窓。周りは木々に囲まれている。


高原リゾート。


ここが、俺の人生が変わる場所。


バスが停車する。


エアブレーキの音。


ドアが開く。


「それでは、皆様、お降りください」


一人ずつ、バスから降りていく。


俺も立ち上がって、荷物を持つ。


深呼吸。


大丈夫。


きっと、大丈夫。


外に出ると、冷たい空気が肌を刺す。


でも、空は晴れている。


目の前には、リゾートホテルの入り口。


その向こうに、俺の運命が待っている。


701号室。


そして、『新しい物語』。


一体、何が待っているんだろう。


俺は荷物を握りしめて、ホテルの入り口へと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る