第5話

「『刺月ピ・クー』」


ゴーレムの周囲には逃げ場を無くす様に無数の有刺鉄線を展開すると、彼女のスロットに組み込まれた特殊能力〈刺月〉を発動すると、有刺鉄線のトゲが伸び始める。


トゲの部分を肥大化し、射出される大杭の如く、鋼の肉体で出来たゴーレムの隙間に深く突き刺さる。

本来ならば、この攻撃だけではゴーレムの肉体を貫通する事は不可能だったろうが、ボクが彼女の鍛錬ちょうきょうの為にゴーレムに攻撃をした事で、鋼の皮膚の耐久性が著しく低下していたのだ。


その隙を突いた事により、ゴーレムの肉体にトゲが深々と食い込むと言う結果となった。


「『種蝕プラ・パラ』」


そして、次の特殊能力を使役すると、トゲの先端から鋼の一部がゴーレムの肉体に植え込まれる。


「TOOOOOOOOOOKYOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!」


違和感を覚えたゴーレムは激しく動き回りながら有刺鉄線から逃れようとするが。

大きく動き回ればその分、有刺鉄線が食い込んでいくし、どれ程、暴れた所で『種蝕』は体内に植え込んだのだ。


ゴーレムはそれでも破壊から逃れる為に、有刺鉄線を操作するボクの方に接近。

鋼の拳を振り上げて最後の抵抗を行おうとするが、それが振り下ろされるよりも早く、ボクの行動は終わる。


「咲け」


その言葉を最後に、ゴーレムの動きが止まる。

『蝕種』の刻印は、対象の体内に種を遺す特殊能力だ。

その付属効果は、体内で創造妃の武装形態時の一部を体内で展開させる。

即ち……ゴーレムの内側から、無数のトゲが体内を突き破り核を破壊する。


「TOOOOOOO……KYOoooooooooo……」


物悲しい声を漏らしながら……ゴーレムは破壊された。

ゴーレムの弱点は、肉体に刻まれた『刻印』を傷付ける事だ。

刻印によって活動するゴーレムは刻印に何らかの損傷が出ると、魂を維持する事が出来ずに活動を停止する。

次第に、肉体と化していた鋼の器も、時間の経過と共に塵と成す。

ボクは有刺鉄線の鞭を操作しながら、広間の奥へと進んでいく。


先述も申した通り、この旧東京タワーも同様に移動要塞型のゴーレムだ。

この大きな広間は、そのゴーレムが動く心臓部であり、奥側には魂の刻印が刻まれている。


「旧東京タワー・バベルよ、その魂は、ボクが貰い受ける」


魂の刻印に鍛冶師の槌で傷を付ける。

すると、魂の刻印は鍛冶師の槌へと乗り移り……旧東京タワーに宿る刻印がボクのものとなる。

この刻印は、神代鍛冶師は使役する事が出来ない、創造妃に付加する事で真価を発揮する、強化素材であった。


「……旧東京タワー・バベルの攻略、完了」


賑やかなお祭りが終わった様な静けさともの悲しさを感じながら、それでもボクは神代鍛冶師としての達成感を抱きながら息を吐く。


もう戦う理由も無いので、ぐったりとしているスリサズ・ソニアの武装化を解除しようと鍛冶師の槌から魔力の供給を止めようとした時だった。


「お前ぇええ!!」


叫びながらボクの方に迫って来る大柄の男性。

安い染髪薬で染めた様な鈍い黄金の色を帯びた髪をライオンの様にワックスで尖らせた髪型。

獅子斑くんの髪型は何時見ても、名前に敗けないくらいのツンツンヘアーだな、とボクは思った。

ボクの方に助走をつけて走ったかと思えば、硬く握り締めた拳でボクに向けて殴打を放とうとした。

まだ、ロザリオさんを装備しているボクは、彼の攻撃なんて簡単に回避出来る。

けれど、ボクは敢えてその拳を受け入れる事にした。

鈍い痛みを覚えながら、ボクは口元が切れて、鉄の味が口の中に広がる。


「俺の武器おんなを勝手に使いやがってッ!!誰のモノを使ってんのか、分かってんのか?!」


怒濤の憤慨を見せながらボクの胸倉を掴む獅子斑くんに、冷めた視線を浴びせる。


「キミの元じゃ、彼女は幸せになれないよ、神代鍛冶師としての矜持があるのなら、早急に彼女を手放すべきだ」


武器として研磨も鍛錬も起こさない神代鍛冶師と一緒になった所で、彼女の運命は薄汚れた埃を被り続ける様な暗翳めいた未来しかない。

彼女の幸せは武器として扱う事だ、飾り物の様に傍に置くだけでは意味がない。


「ざけんじゃねぇ、俺のモノに手ぇ出したんだッ、殺してやる、先ずはマジでボコしてやる、そんで社会的に殺してやるッ、死んだ方がマシだってくらいに追い詰めてやるからなァ!!」


「……そんな台詞を吐く事よりも、彼女の心配をしないのかい?」


何処までも自分勝手な事を言う獅子斑くんは、其処で自分がロザリオさんに対して心配していない事に気付いたらしい。


「ッ、寄越せッ!!」


そして、ボクの手からスリサズ・ソニアを奪い取ろうとした時、ロザリオさんに供給していた魔力が切れた。

これにより、武器化していたロザリオさんが人型の姿に戻ると、彼女は俯きながら静かに、ボクの隣で腕を掴んでいた。


「おい、ロザリオ、悪かったな、戻って来いよ」


へへ、と笑いながらロザリオさんに話し掛ける獅子斑さんは、彼女の身を案じていると言うよりも、彼女のクイーンの称号と地位に対しての肩書に執着しているようだった。

当然、俯瞰した立場から見つめているロザリオさんは、そんな下卑た思考回路を見抜く事が出来る良い機会となっていた。

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女性が武器化出来る世界で彼女達を鍛える事が出来る鍛冶師の中でも主人公は武器の性能を極限にまで引き上げる天才だった。極限にまで性能を引き出されたヒロインは好感度すら極限にまで引き出される、武器娘ハーレム 三流木青二斎無一門 @itisyou

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