第9話




 ……ふわり、と白い光を見た気がした。



 ふふ……。



 声が、聞こえた。


『きこえる? リュティス?』


 不愉快な声だ。

 だが、胸は清々としている。


星喰いの竜シャーン・ドラゴン】に打ち倒された時も、こんな胸の内だった。


 今回は随分手ひどくやられたわね……アミアカルバは笑っていた。


『でも私は、あいつに感謝してるわよ。

 貴方って、強くて強くて……メルドラン王が亡くなってから、

 誰も貴方を叱れなくなってしまった。

 誰も貴方を叱ってやれなくなってしまったから。

 グインは叱るとか、苦手だしね』



 だから感謝してるの……。

 女はそう言った。


『さすが我が国が世に誇る炎の賢者様じゃない? やるわね』


 次に見かけたら殺す。


 明るい笑い声が響いた。


『やめなさいよ。

 二度返り討ちにされたらさすがにあんたが惨めで可哀想になるわ。

 ……ねえ、リュティス。

 聞こえてる?』


 うるさい。

 話しかけるな。



『第一の生で、貴方には感謝してる。

 サンゴールの人間達を、貴方は憎みながらも許して守ってくれた。

 私のこともね。

 ありがとうリュティス。見守ってくれて。

 貴方は最初から最後まで、……立派な人だったわ』


 ……うるさい。


『もう肩の荷を下ろしていいのよ。

 もう――誰も傷つけなくていい。

 それが貴方の、【願い】なんでしょう?』



 女の声が遠ざかる。


 光の気配は強くなった。


 少し眠って……。



 心をやすめて。



 最後の方の声は、ただの音に聞こえた。


 ただの静かな、音に。



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