15話目:俺TUEEEタイムリミット
さて……色々な問題はあったが当初の目的は果たせたと思う。
あれ……なんだっけ、最初の目的って………?
「おーい、忘れるなー! 装備をどうにかしようって話だっただろー!?」
「せやった、せやった。なんかもう色々ありすぎて自分でも何してるか分からなくなってた」
トゥラのおかげでようやく思い出せた。
サブクエ進めてたらメインクエを完全放置して、父親が出てきても「だれ……?」になる症候群になってたわ。
「ちなみに俺がドッタンバッタンジョッキンされてる間、三人は装備揃えられた?」
「ジョッキンって何されたのさ……まぁそれは置いといて、全然ダメだったよ。やっぱりもうちょっと強いダンジョンじゃないとお金稼げないや」
「身体を使っても稼げなかったと……」
「言い方がやらしいっ!」
「失礼な! 頭の中もだッ!」
「威張って言うことじゃないってば!」
だって他に自信満々に言えるようなことないし。
だからこそ、いやらしさなら負けないぞ!
パーティゲームやると必ず最初に集中砲火されるいやらしさがムンムンだぜ!
もっと、こう、フェロモン的ないやらしさが欲しかったな……。
「まぁいいや、整理ついでに良い装備あったら持ってっていいよ」
「やったー! ありがと、ヒビキー!」
「ハッハッハ! トゥラは甘えん坊さんだなぁ!」
手を広げてこちらに駆け寄るトゥラを迎えるように、こちらも手を広げる。
しかし、彼女は横を通り過ぎて装備の方へとダイブしてしまった。
手持無沙汰になった腕をどうしようか迷っていると、ホルンとヨグさんと目が合った。
「……カモーン!」
「えぇっ!?」
「ァゥッ!?」
二人とも真っ赤になりながら、何度もお互いに顔を見合わせる。
そうして覚悟を決めたのか、真っ赤になりながらこちらへやってきた。
「ヘイ、二名様ご案内!」
羞恥のあまり目をつぶって歩いてきた二人を躱し、装備の方へと押しやる。
流石にこれで抱き着いてクンカクンカしようものなら、金と物で女を釣るゲスになるからね。
そういうのは少年法に守られる限界ギリギリになってからやることにしてるんだ。
からかわれたと思ったのか、ヨグさんがポカポカと叩いてくるが可愛いものだ。
あ、ホルンさんはちょっと待ってくださいあなたの筋力だとちょっとシャレになら……ギャー!
……といった感じのトラブルがありながらも、装備の品評会が始まった。
「ウオォ! 見てくれ! この弦楽器、弓にもなるんだってよ!」
「ヘー、凄いじゃん! ちょっと使って見なよ!」
「フンッ! フヌヌヌヌ!!……引けねぇよチクショウ!!」
「ちょっと貸してみてください。ンンッ! ちょっと力が要りますね」
≪ホーンズ≫クラスの筋力が必要な弓楽器とか使えねぇよ!
つうか楽器を武器として使うんじゃねぇよ!
え? ロックでギター使って殴るのはいいのか?
あ、あれは演奏パフォーマンスだから……。
ギターピックを指で弾いて目を潰すのも、一応パフォーマンスってことで……。
「おっ? これすげー! スケスケじゃん、スケスケ! エッチッチだよこれ!」
「軽そうな装備ですね。トゥラさんにちょうどいいのではないですか?」
「あ~、ゴメン……ぼく、あんまり肌が見えたりするのはちょっと……」
「そうだったんですか!? ごめんなさい、知りませんでした!」
そういえばトゥラっていつも長袖というか、肌が見えない感じの服装よな。
「ま、俺はなんでそんな恰好してるか知ってるけどね!」
「………………え」
「昔の男友達だと思ってた子が! 実は女の子だった! だけどボーイッシュな服装で中身は変わってないと思ってたら! 実は体つきが女の子だっていうシチュが最――――」
「ちっがーう!」
「ゴファ!?」
わりと強めにツッコミを入れられてしまった。
この感じだと水着とかもNGになるっぽいな。
全裸を含めた露出はダメっと……いや全裸は最初からダメだろ、常識的に考えて。
「そうなると、これを着るのは……」
チラりとヨグさんの方を見ると、顔を真っ赤にしながらブンブンと顔を振っていた。
「ほな、ワイか……」
「!?!?」
流石に冗談である。
未成年というだけでご飯三杯はイケルという犯罪者でも残すオカズ、それが俺だ。
だからヨグさん、手で顔を覆いながら隙間からちょっと見るのは止めてね?
誰も得しないからね?
そんな感じで、一式とまではいかないが全員分の装備がグレードアップした。
「ヨーシ! これで一人ブレーメンできるぞぉ!」
「いやいやいや、流石にそんな何個も楽器を持って行くのは無理だって」
「ギター弾きながら口でハーモニカ吹いて足でカスタネット叩くのが無理だって言いたいのか!?」
「無理だよ、どう考えても」
そうかな、そうかも……。
騒音を鳴らすだけの壊れた猿のオモチャよりも怖いもん。
「ってかさ、そんなジャンジャン鳴らされてもホルンがステップ踏めないよ~?」
「ステップってなんですか?」
「あれ、気づいてないの? いつも演奏を楽しんでるみたいに、踊って戦ってる感じだよ」
「え? えぇ!? そ、そうでしたか!?」
正確には俺が勝手にテンポを調節して動きに合わせているのだが、無意識でも嬉しそうにしてるのなら本望である。
「ん? 踊り……踊り……あっ! その手があった!」
先ほどの装備の山の中から、金属製のブーツを取り出す。
「どうしたんですか? それ、前衛の人が着ける装備ですけど」
「そう! 俺、最強の前衛になる!」
そうして俺達はさっそくダンジョンに潜った。
「戦える! 俺も戦えるぞおおおおぉぉ!」
まさかと思って試してみたが、本当に効果があるとは思わなかった!
そう……タップダンス!
本来なら靴に金属を仕込むが、異世界なら防具で代用できる!
しかもタップダンスなら両手が自由に使えるので、演奏しながら攻撃することができる!
まぁ元のフィジカルが雑魚だが、装備の性能と演奏バフのおかげで戦えてる!
やべぇ! 超楽しい! 俺TUEEEってこんな気分なんだ!
「凄いです、ヒビキさん! これならワタシと一緒に前で戦えますよ!」
今までは前衛ホルンに残り三人が中衛・後衛でバランスが最悪だったのだが、これでようやくバランスの取れたパーティーになれる。
しかも!
前衛の吟遊詩人という前代未聞の戦い方……これはモテる!
いろんなパーティーから引っ張りだこになって、人気者になること間違いなし!
……だというのに、トゥラはそんなに嬉しくなさそうだ。
あー……もしかして俺がゴミクズから卒業するからか?
ちょっと駄目な子だったあの子が、成長して羽ばたいていくのを見送る。
ふと、こみ上げる一抹の寂しさ……とかそんな感じのやつだな、きっと。
「もー、大丈夫だってトゥラちゃま♪ 俺がペンギンから不死鳥の鳳凰デスフェニックスに進化したとしても、皆といつまでも……仲間だよっ!」
思い切りサムズアップするが、気まずい顔をされてしまった。
やはりデスフェニックスはアカンかったか。
世界喰らいの金色八咫烏とかそんな感じのやつにすればよかった。
「まぁ見ていなって……俺のワンマンステージ、独壇場ってやつをさっ!」
そして数分後……俺はどんな名曲だろうと、必ず終わりが来るということを思い出した。
「コヒュッ……コヒュー…………ォェッ……」
「あぁ~、やっぱりねぇ。ヒビキ、強くなったのは分かるけど体力はどうしようもないって」
「ファー……ブルスコ……ふぁー」
そんなことないと言いたいが、言葉が全然出てこない。
おかしい……カラオケで三十分はマイクを離さず歌い続けて奪い合いまで発展したことある俺が……息切れだとぉ!?
「あ~もぉ、足とかプルップルじゃん。ほら、お水飲みなよ」
「ごぼぁ、がぼがぼ、ごぼあぁ」
「うん。喋らなくていいから、ゆっくり飲んで」
優しく水を飲ませてくれるトゥラを思わずママと呼びそうになった。
危なかった、後戻りできない性癖が起き上がったが、上からロードローラーを叩き落としたおかげでなんとか目が半開きになる程度で済んだ。
それにしても……よくよく考えればその通りだ。
歌って踊るアイドルだって体力トレーニングをしているのだ、適当に歌って演奏してる時と違って体力の消耗はダンチである。
しかも戦闘しながらだぞ!?
ちょっと休むとか楽なポーズとかも取れねえ!
体力が上がるとか疲れにくくなる曲もあるにはあるが、そうなると敵を倒すのに時間がかかる。
自然、結果的にその方が疲れることになる。
「あ~……いい線いってると思ったのになぁ」
「ねぇねぇ、そんなに無理しなくてもいいよ? ヒビキが頼りになるって、ぼくらが一番知ってるんだからさ」
「ハイ。ヒビキくんのおかげで進級できたんです、今度はワタシ達が頑張る番ですっ!」
二人に同意するように、ヨグさんも勢いよく頷いてくれている。
うぅ、優しさが身体の奥からスーって効いてくる。
「ちなみに、夏休み前にある課題……今のままで達成できると思う?」
三人共、目を伏せてしまった。
そうよな、課題の内容も分からないし不安よな。
こんな良い子の達の為にも、ワシがどげんかせんといかん!
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