14話目:楽してズルして丸儲けヒビキ!

「ヒビキ様、こちらお持ちいたしました」

「…………はぇ?」


 翌朝、寮で寝てたらいきなりたたき起こされたと思ったら≪ドルイド≫の人がでっかい荷物を持ってきた。


「……え? 引っ越し?」

「違います。エメト様からの付け届けになります」

「……あぁ! そういうことね! わがっだ!」


 ビックリした、いきなり追放モノでも始まるのかと。

 昨日、対価が云々の話をしていたが、どうやらビキニアーマー同等のものを持ってきてくれたわけか。

 ……ビキニアーマーと同等のものってなんだよ。

 馬鹿には見えない魔法の鎧とかそういうやつか?

 ほぼ全裸を変わらんやんけ!


「まぁなんでもいいや、じゃあ指輪は返しますんで――――」

「いえ、そちらは引き続きお預かりください」

「じゃあコレ・イズ・ナニ?」

「付け届けですので、ご自由に」


 付け届けってなんだよ漬物の親戚か?

 実家からの仕送りでもこんな大量の漬物きたら嫌がらせ以外のなにものでもねぇぞ。


「うん、分かった。もう送らなくてもいいって言っといて。こんなの何度もあったら部屋が埋まるから」

「かしこまりました。それでは」


 そう言ってシャランシャランと優美に去っていく≪ドルイド≫さんを見送り、気付いた。


「なんで男子寮に女子が来てんだよ!?」


 逆だったら許されねぇのにおかしいだろ!!

 教えはどうなってんだよ教えは!!


 ≪ドルイド≫じゃ男の寝床に入っても良いって教育されてんのか!?

 チクショウ素晴らしい教育方針だ!

 こんな事態じゃなかったらもろ手を挙げて万歳三唱人間賛歌を謳ってたのに!


 まぁいいや、取りあえず送られてきたものでも見よう。


「――――で、送られてきたものがこちらになります」

「うわぁ……マジか~……」


 いつもの三人組であるトゥラ、ホルン、ヨグの三人に送られてきた装備を見せると、全員が顔を抑えてしまった。


「なぁなぁ、これぜ~んぶ女物じゃん。ヒビキってば、そういう趣味でもあるの?」

「俺に女装趣味はねぇよ! あいつらが勝手に押し付けてきたんだよ!」


 これ絶対アイツの嫌がらせだろ!

 善意で送ってきたとしたら、そっちの方がキツイぞ!?


「う~ん……ワタシが使えそうなものはなさそうですね」

「そう? なんか凄そうな防具とかあるけど」

「その……サイズが……あはは」

「あぁ……なるほどね?」

「こ、腰とかもそうですけど! もっと大事なところがですね!?」


 あぁ、うん……≪ドルイド≫さんらはスラっとしたモデル体型だもんね。

 豊満な≪ホーンズ≫だとキツイか。

 三十路の学生服くらいのキツさだったらむしろ大歓迎なのだが、生死に直結するダンジョンではそういう趣味は横に置いておこう。


「ァゥ……ァゥ……」

「同じ理由でヨグさんもダメか」

「ぼくも同じ~」

「いや、きみぁ同じ理由じゃないでしょ?」


 むしろブカブカじゃあないか。

 ……という言葉は飲み込んだのに、ポカポカと叩いてくる。

 可愛いね、キミに≪ドルイド≫装備は似合わないよ。

 もっとちゃんとしたのを用意してあげるからね。

 スモッグとかでいいかな?


 同年代に園児用のスモッグ着せて喜ぶとか終わってるな。

 詫び石ならぬ詫び装備でも探してきてあげよう。


「それで、今日はダンジョンに行くのか?」

「行きたいけど、先にこの産廃を処理しないとアカンねん」

「別に後でもいいんじゃないか? 部屋に置いとけばいいんだし」

「バカバカ! 女物装備を抱えてるド変態って噂されちゃうでしょ! あと……」

「あと?」

「こう……魔が差すっていうか……魔が性癖をぶっ刺して、ちょっと着てみようかな? とか思うようになったら、終わりだと思うから……」


 そう冗談を言って三人と別れた。

 彼女達のなんとも言えない顔を思い出すと、本格的に自分がどう思われてるのか怖くなってきた。


 たぶんまだ見捨てられないラインのはずだ。

 ちょっとアウトのラインで反復横跳びしてるだけなのでまだ戻れるはずだ。

 いざとなればゴールラインをずらす。

 サッカー漫画でもやってたし許されるだろう。


 そうして女性モノ……ではなく、装備をどう処分しようか迷っていたところ、ある一つのアイディアを思いついた。


「せや、これを報酬にして別のクエスト納品アイテムを持ってきてもらえばええんや!」


 箇条書きにすると簡単な話だ。

 1:装備アイテムを報酬に二年生に上級素材を集めてもらう

 2:それを必要としている三年生に渡して再び素材か装備を貰う

 3:先ほどよりも良い報酬のものを見つけて今度は三年生に集めてもらう


 無論、こんなポンポンと簡単にはいかないだろうがこの作戦のメリットは俺が一切ダンジョンに潜らなくていいことだ。

 要は食堂かどこかで情報をひたすら集め、人を働かせて物資を集積して、それを右へ左へ流すだけでいい。

 なんなら俺が使える装備を集めなくたっていい。

 お気持ちのマージン料を稼いでいけば、いずれ自分で買うことだってできるんだからな!


 ゲーッハッハッハ!

 せどり、転売が禁止されてねぇこの異世界ならやりたい放題だぜ!


 さぁ……今から俺の、貧乏からの大富豪成り上がり学園生活が始まりだァ……!


 ……

 …………

 ………………


 それから一週間後―――――。


「個人間での依頼および取引に制限を設けることになった!」

『えええええぇぇぇぇ!!』


 学園生のほとんどが集められた広場において、不平不満が合わさった声が響いた。

 それを意に介さず、エトルリア先生は話を進める。


「あー……不満を言いたい気持ちも分かる。では、ここで被害者となった者の声に耳傾けるがよい」


 そうして登壇した人物がマイクのようなモノを持ち、声高らかに吼えた。


「お前らのせいで俺ぁ一週間一度もダンジョンに潜れてねぇんだよ!!!!!」


 はい、俺です。

 楽してズルして儲けられると思ったんです。

 現実は全然甘くありませんでした。


 個人間の依頼をまとめてたら、色々な問題があった。

 例えば≪ドルイド≫が良い依頼を持っていても、避けられそうということで話すのができなかった男子の為に俺が交渉役になった。

 他にも怖い先輩の依頼を受けたいから俺が交渉役に――――

 あの種族が嫌いだから俺が交渉―――

 気になるあの子とパーティー組みたいから俺が――――――

 告白したいから俺―――――


「関係ない俺を巻き込んで青春イチャラブしてんじゃねぇ!! 殺すぞ!!!!」


 わりとマジでガチの咆哮だったが、何人かの男女は深く頷いて理解を示してくれていた。

 ちょっとだけ心が救われた気がする。


「他にも怖いとか不安とか理由であっちこっち連れまわされて迷惑してんの! 分かる!?」


(えぇ~、でもなぁ)

(やっぱ種族としての相性もあるし……)

(そうそう、間に入ってもらうだけでスムーズに話進むし)


「ッスゥー…………年上ならァ!! 少しは自分でコミュしろォ!! 新入生に頼るなバカ!!!!」


 マジでずっと俺がやってたらこの人らのコミュニケーション能力が一切成長しなくなる。

 だから俺は先生に黄金の回転による土下座で頼み込んだのだ。


 とにかく声帯がブチ切れるレベルで言いたいことを全部言えたので、エトルリア先生にバトンタッチする。


「まぁそういうわけだ。対人関係が苦手だとか色々あるだろうが、それを我慢したりどうにかするのも勉学の一つである。少なくとも、下級生に丸投げする方法を学ぶ場では……ない! おのおの、しっかりとするように!」


 ところどころから「え~!」「マジかー」みたいな声は聞こえてくるものの、納得はされたようで無事に解散……お開きになった。

 最悪の場面の想定として実力行使という手札が来た時の対策としてエトルリア先生に頼んだのだが、何も起こらなくてよかった、マジでよかった。


 ……とにかく! これで俺は明日から自由の身だ!


「ヒビキさん、ちょっといいですか~☆」


 アウルムという名の悪魔のささやき声が聞こえてくる。

 購買店という領地に封印されていたはずなのに、どうして……。


「いやはや、一癖も二癖もある生徒達をまとめて依頼を消化する手管、感服です☆」

「あなたが手放しに誉めるってことが、もう怖いんですけど……」

「<探索者>を辞めて、ギルドマスターになるのは如何ですか? お店の隣に専用ロビーとかお作りしますよ☆」


 ハハッ、ナイスジョーク!


「謹んでお断りをいたします」

「エェー☆ マージン料だけでガッポガッポですよ? 一緒に稼ぎましょうよー☆」

「死んでも嫌だね!!!!」


 俺は……俺は<探索者>なんだ!

 誰がなんと言おうと<探索者>なんだ!

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