13話目:価値と呪いの押し付け合い
一味を引き連れてダンジョンに向かう≪ドルイド≫のグループに声をかける。
「げへへへ……そこのお姉さん方、ちょいと耳よりな話があるんでゲスがちょいとお時間を――――」
しかし、一瞥だけされてさっさと立ち去ろうとしていた。
「あー! 勿体ないなー! 四年生の先輩も舌を巻くくらい良い装備があるから交換しようかなって思ってたのになー!」
それを聞き、戦闘を歩いていたエリート様であるエメトの足が止まった。
「……それは事実ですか?」
「マジ、マジ! ワタシ、ウソ、イワナイアル!」
舌を巻くというか飲み込んで何も言えなくなるくらい叡智な装備なのだが、まぁ嘘ではないからヨシ!
「エメト様、戯言を真に受けられては……」
「いいえ、事実でしょう。顔を見れば分かります」
えっ……僕が本当のことを言ってるか、顔を見れば分かるくらい見ているってこと……?
そ、そんな……ちょっとキュンってしちゃう♡
「あの人を上から見下そうとする表情。素人目であろうとも理解できるほどの逸品である可能性があります」
キュンってしたのはハートじゃなくて心臓でした。
たぶん不整脈とかそういうやつだと思う。
「しかし、我々にはもう先任の皆様から十分な支援と装備を頂いておりますが」
「……あれ、そうなの? 装備の調達とか困ってない感じ?」
下級生全員の悩みかと思いきや、どうやら違うらしい。
ず~っと同じ面子だから仲が良い≪ドルイド≫パーティーだと思っていたのだが、どうやら予想よりも仲間意識が高く、学年を超えて協力している感じか。
なんかよく見たらちょっと光ってる装備もあるし。
あれか、ゲーミングアーマーとかソードとかあるのか?
光ればいいってもんじゃねぇぞ、薄毛の人に謝れ。
「装備に困ってないならいいや。お邪魔しやっしたー!」
「待ちなさい。そちら声をかけておいて、何処へ行くつもりですか?」
さっさと退散しようと思ったが、止められてしまう。
パジャマパーティーのお誘いだったら嬉しいのだが。
「四年生すら舌を巻く装備をお持ちなのでしょう? 見せてください。それとも虚栄の大旗でも振りましたか? それなら失礼しました。あなたはそういう方だったということで」
「はあああぁぁ!! 嘘じゃありませんけどおおおぉ!? あのアラブスのパイセンお墨付きなんですがああぁぁ!?」
その名前を聞き、取り巻きの人達がざわつき始めた。
「あの≪獣骨の狂戦士≫が認めるほどのものを……!?」
「いったい、どんなモノなんでしょう……」
やっべ、パイセンの名前言っちゃった。
でもいいや、死なばもろともって言うし。
ここに漢の旗を立てる!
ビキニアーマー被害者の会、参る!
「そうら御覧じろ! これが! ワイの! 最強の手札や!」
そうして取り出すは輝けるビキニアーマー。
誰もが目を奪われるビキニアーマー。
言葉も奪われ誰も何も言えなくなるビキニアーマー。
嗚呼、ビキニアーマー……ビキニアーマー…………。
「………じゃ、ぼく帰るから」
やるべきことはやった。
やるべきじゃないことをやらかしたともいう。
「待ちなさい。まだ私は評価を下していません」
だというのに、このエリート様は帰してくれません。
「なんだよ何が評価だよ! 変態ってあだ名がド変態になるかドドド変態になるかくらいしか違わないやろ!?」
「あなたはいったい何を言っているのですか?」
ちくしょう、なんて羞恥プレイだ!
ウチの業界だとご褒美でもあり拷問でもあるぞ!?
「なるほど……逸らしの加護がついていますね。鎧部分の頑強性も、我々が持つ装備よりも遥かに優れている。これは上級生の方でも唸る逸品」
でもビキニアーマーなんだぜ!?
どんだけSSRであったとしても、ビキニアーマーという一点で全てのメリットを叩き潰す呪いの装備なんだぜ!?
「しかし、困りましたね」
「そりゃ困るでしょうよ。困らねぇ方が困るよ」
「これに見合うだけのモノを、こちらで用意できるかどうか」
…………はい?
「エメト様、本気ですか!?」
「あんた本気でこれ着る気なの!? 正気に戻りなさいよ!」
あまりの衝撃に、思わずお付きの人と一緒にツッコミを入れてしまう。
いやダンジョンガチ勢だとは思ってたけど、ここまで人として大事なもの捨ててたら心配になるよ!?
「見て! よく見てこれ! 肌面積計算が八割占めちゃってる! オセロだったら負け確レベルの肌色よ!?」
「それが何か?」
「何か? じゃないの! こんなの来てたら痴女だって―――――」
「ロングケープを羽織るなり、クロースを身体に巻くなりして隠せばよいのでは?」
………………あっ!
「そ、その手があったかあああああぁぁぁ!!!!!」
「っ!?」
バカバカ! ワイのバカ!
そうだよビキニアーマーしか着ちゃいけないってルールなんてなかった!
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した!
これならホルンに渡せばよかった!
そうしたら最強の前衛が誕生したのに!!
いや、それでもビキニアーマーを渡すのは難易度が高いな?
というか布か何かを身体に巻いて隠すにしても……それ、逆にエドくないか?
身体のラインとかくっきり出るし……その……豊満なところが……ねぇ?
それならトゥラならどうだ!?
あの幼児体型だったら……ダメだ、児ポ法で捕まる。
あれは海を越えるどころか異世界の境界も超えてやってくる可能性が高い。
結論、俺は間違ってなかった。
酸っぱい葡萄理論かもしれないが、これで納得しよう。
「はぁ……まぁいっか。じゃ、ワシはこの辺で……」
「待ちなさい。アナタにまだ対価を渡していません」
「いや、いいよ適当で」
もうオジサン疲れた。
今日はもうさっさとご飯食べて寝たい。
「待ちなさいと言っているでしょう」
「ほわぁっ!?」
だというのに、この高飛車お嬢様はガチ恋距離まで詰めてきてこちらを掴んできた。
「まさか、何も受け取らないつもりですか?」
「別にそれでもいいけど? ぶっちゃけ期待してないし」
さっさと帰りたいという気持ちばかりが先行しまったせいか、地雷を踏んでしまったらしい。
彼女の表情は変わらないが、その代わりに目と目が合わさるほどまで詰めてきた。
「若輩者ゆえ、私はまだ家名を名乗れません。ですが、それでも私は与える者の一族……数が多いだけの種族に施されるなど……あってはならないことです」
め……めんどくせぇ……すこぶるめんどくさいぞ、このオナゴ!?
ゲームだとこういう子が大好きだけどさぁ!
実際にコミュるとなると厄介なことこの上ないよ!?
「じゃ~……貸しでいいよ! なんかあとで返してくれればいいから!」
「私は誰かに借りを作らない主義です」
「じゃあ丁度いいじゃん? 俺は借りを作ることができない人に貸しを作ることができた……うん、対価として十分じゃない!?」
「それで、納得しろとでも?」
「そっちの主義が安っぽい建前なら納得できないだろうね」
家格が高く、誇りもある人物の主義を曲げるのだ。
意味と価値としては破格のものだろう。
少なくとも、それを言っている本人が異を唱えるなんてできないだろうがな!
キサマの敗因は! クソ真面目で! プライドがクソ高いことだ!
ガハハハハ!
「じゃ、僕ちんはこれで……」
「待ちなさい」
「まだあんの!? もう帰らせてよぉ!!」
「この借りを作ってもらいながら手ぶらで帰らせては沽券に関わります。いずれこの借りを返すまで、これを預けておきましょう」
そう言って、彼女は指にはめてある十の指輪の内の一つを俺の指にはめてきた。
「構いません。その指は一度だけですが、どんな攻撃も防ぎます。ただし防いだら壊れ、ダンジョンから戻るまで直らないでしょう」
「へぇ~、聞く感じまぁまぁ便利そう。でもいいの? これボスの攻撃も防げるってことでしょ? 強くない?」
「あなたは最奥に行くまで、一度も攻撃されないのですか?」
あー、一度しか防げないといっても道中で攻撃されるからスグ壊れるのか。
ちょっとした保険みたいなもんか。
「エメト様、その指輪は―――――」
「構いません。私が良いと言っているのです」
お付きの人が心配そうにしているが、彼女はそれをたしなめている。
どうも性能だけじゃなくて、他にもなんか意味とか価値がありそうな指輪っぽい。
「この指輪、ほんとに俺が持ってていいの? なんか重い理由とかあるなら教えてほしいんだけど」
「……教えません」
「あー! そんなこと言っちゃうんだー!? 貸しのある男子が聞いてるのに教えないんだー!?」
自分でもムカつくような顔をして煽ってみるが、彼女は余裕しゃくしゃくの表情をしている。
「ええ、教えません。先ほど、その男子に意地悪されたのでお返しです」
そう言って≪ドルイド≫パーティーの面々と一緒に去って行ってしまった。
「……くそぅ、負けた!」
貸しを作って一方的におねだりしたりアゴで使ったりしようと思ったのに、めっちゃ意味ありそうな指輪を渡すことで、それ以上の価値を押し付けてきやがった!
五分五分に見えて完全に首輪をはめにきたぞアイツ!?
「これだから女ってやつぁよぉ!!」
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