第6話「設計にない鼓動」
――クルウ
風は、嘘をつかない。
夜の上昇気流に乗りながら、
クルウは翼をわずかに傾けた。
鷺の都市。白く、整いすぎた構造。
弱い。だが、厄介だ。
「……見つけたな」
あの鷺兵。動きが、
個ではなく、流れを読んでいた。
遺物でもない。純粋な力でもない。
それなのに、生き残る。
クルウは、人間の遺物をいくつも見てきた。
本物も、壊れかけも。
だが――
あの反応は、違う。
「模造品のくせに」
それでも、呼吸が合った。
あれは道具じゃない。少なくとも、もう。
「面白い」
そう呟き、闇に溶けた。
――鷺都市・中央制御区画
「問題は、ここです」
光の卓上に、戦闘ログが展開される。
擬似遺物・型番A-17。
使用者:前線防衛部隊所属。
「反応速度、予測補正、同調率」
「いずれも、設計上限を超えています」
重い沈黙。
「暴走は?」
「確認されていません」
「……それが問題だ」
誰かが、低く言った。
擬似遺物は、超えてはいけない。
超えないから、“擬似”なのだ。
「この個体、過去に研究区画へ出入りしていますね」
「……あの事件の?」
名前は出なかった。出す必要も、なかった。
「共鳴事故の生存者」
そう呼ばれた。
――前線居住区画
目が覚めた時、胸が苦しかった。
息が、浅い。レプリカを外そうとして、手が止まる。外すのが、怖かった。
理由は分からない。
だが、外した瞬間、
何かが離れてしまう気がした。
「……おかしいだろ」
独り言が、部屋に落ちる。
端末を起動する。
装備ログ。
異常なし。
常に、異常なし。
それなのに、体は正直だ。
鼓動が、レプリカと合っている。
翌日、呼び出しがかかった。
中央制御区画。
研究員。
監査官。
軍属。
顔ぶれが、重すぎる。
「君の装備について、いくつか確認したい」
柔らかい口調。
だが、拒否権はない。
「擬似遺物の使用感は?」
「……問題ありません」
「本当に?」
一瞬、セツナの顔が浮かぶ。
問題なかったはずのもの。
管理されていたはずのもの。
「……多少、反応が早い気はします」
空気が、わずかに動いた。
「それは、君の適応が高いだけだ」
即座に、そう言われた。
まるで、その答えを待っていたかのように。
部屋を出た後、背中に視線を感じた。
監視。
守りか。
疑いか。
分からない。
ただ一つ、確かなことがある。
鷺陣営は、
俺を“兵”としてではなく、
“事例”として見始めている。
夜、再び夢を見る。
白い光。揺れる空間。
今度は、はっきりと声が聞こえた。
「……まだ、終わってない」
セツナの声。目を覚ました瞬間、
レプリカの表示が一度だけ、変わった。
《同調率:記録不能》
すぐに、通常表示へ戻る。
だが、確かに見た。
この時、俺はまだ知らなかった。
レプリカの設計に
“人間の遺物の思想”が混ざっていること
そしてそれが、セツナの消失と無関係ではないこと。何よりクルウが、再び俺を狙う理由が、
もう一つ増えたことを
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