第3話 哀れな被害者

盗賊を退治に来た冒険者と人を襲いものを奪う盗賊、もちろん世間的にも僕の転生前の死因的にも冒険者が勝てばバンザイなんだけど...


冒険者の持つ長い剣と頭領の持つカトラスのような反り返った剣がぶつかり、金属同士をぶつける甲高い音が頭に響く、その度に頭の中に充満していた纏まらない濃い霧のような思考が少しずつ形になっていくのを感じる。


「はっ!お前そこそこ名のある冒険者か!?悪ぃが世間に疎くてなぁ!!」


「そこまで有名って訳でもないさ、今の世界じゃこの位はゴロゴロいるぜ?洞窟に居すぎて世間知らずなんじゃねぇか?」


2人とも相手の攻撃を避けたり剣で弾いたり、素人目に見てもレベルの高い戦いに見える、前の世界で子供たちがやっていたチャンバラごっことは違う。


「へっ、流石にそこまで箱入りじゃねぇよ!」


「っ!そりゃ居るよな手下が!」


頭領が身を屈めた瞬間、その頭上を矢が飛来した。

咄嗟に剣で弾いたがその隙に頭領の太い足が冒険者の腹部目掛けて突き出される。


「どわっ!危ねぇ、魔法だと?」


もう少しで冒険者の腹部に足が突き刺さるところで今度は森側から何やら青いものが飛来し、頭領の攻撃を妨害した。


「全くもう、マックス!先走らないでって言ってるよね!?」


ぷりぷりと怒りながら姿を見せた女性はローブに革製の防具をつけたみたいな服を着ていて杖のようなものを構えている、何より特徴的なのは頭の三角帽子だろう。

うん、分かりやすく魔法使いってやつだ。


「女連れかよ、うちはデートにゃ向かんと思うがなぁ」


「残念だけど、そういう関係じゃないのよ」


軽口に叩いているうちに洞窟から盗賊がぞろぞろと出てくる。

その数合計7人...あれ?1人足りない気が...

纏まりつつある思考では盗賊はスー含め10人だった。

洞窟から出てきた7人、頭領とスーで9人だ、もう1人はどこに...?


そんなことを考えているうちに戦闘は激化していた。

頭領以外は冒険者と戦えば1人また1人と倒れていく、魔法使いを狙えば当然魔法も飛んでくるし、冒険者が横から攻撃してくる。


彼らはやはり凄腕冒険者らしい。

一般の盗賊では相手にならず、多かった数がどんどん減っていき、結局頭領だけが残った。

このままでは...

そう、余りに戦闘に集中していたからか、僕は後ろからやってくる人間がいたことに気が付かなかった。


「えっ!?ふあぁっ!?」


なんだ!?後ろから体を持ち上げられてる!?


「悪いな」


僕を持ち上げている誰かがそう呟く、あれこの人残りの盗賊の...?


「おいお前たち!こいつがどうなってもいいのか!?」


後ろの人はそう叫ぶと僕の首元にナイフを突きつけた。

すると冒険者も魔法使いも頭領もみんなが僕の方を向いた。


頭領は申し訳なさそうに、でもいてそれでいいと、そう言っているような笑顔をしていた。


「アイツは結構前に森で拾ってよォ...ちょうどいいんで憂さ晴らしの相手をしてもらってたんだよ」


「お前ッ!」


「おっといいのか?あんなガキ、簡単に首が飛ぶぜ?」


動きを止めた冒険者と魔法使いの方を見ながら頭領がゆっくりと歩いてくる。

僕の前にやってくると後ろから見えないような角度で僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。


「だめ、いやだよ...」


そう、口からこぼれた。

頭の中の思考が固まってはっきり物事がわかるようになってきた。

やっぱりスーにとって盗賊団は家族だった。

スーにとって頭領は親だった。


「こいつの命が惜しけりゃ武器を置け!そうすりゃこいつを離してやるよ!」


「くっ!」


頭領の言葉に冒険者と魔法使いが苦い顔をしながらそれぞれ武器を地面に落とす。

そしてそれを最後の1人の盗賊が蹴って飛ばした。


「いいだろう、ほら行け!」


「で、でも...」


「いいから早く行けってんだよ!!!」


頭領が今までで1番声を張り上げて怒鳴る。

体が自然と俯く、目から涙がこぼれる。

それでも...


「今までありがとう」


頭領の大きな足に1度だけぎゅっと抱きつき、言葉を口にする。

それからすぐに冒険者の方に向き直って走り出す。

僕は盗賊に捕まった哀れな被害者、スーになった。

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転生雑魚モブ盗賊は自由に生きたい 空色 @eruciel02

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