第2話 へっぽこ盗賊 スー

目を覚ましてから、なぜだか体が覚えている通りに支度...と言っても荷物を持ってすぐナイフを抜けるように用意するだけだけど、を済ませて見張りを交代した。


いまどんな状況なのか分からないけど、とにかく僕であるスーという少女は盗賊らしい。

外見は分からないけど身長はかなり低そう。

そしてあの謎の情報板を信じるとまだ犯罪は犯していないらしい。よかった。


そしてあの謎の情報板だけど見覚えがあるんだよね、生前...転生前?に最後にプレイしていたゲーム、「風雲ふぁんたじあ」でスキル「アナライズ」を使用すると見られる情報はあんな感じのウィンドウで表示されていた。

そうするとこの洞窟も見覚えがある気がする...


もしかしてここって「風雲ふぁんたじあ」の世界なのか...?


「おーい、スー!」


自分の状況について考え込んでいると、洞窟の中から低い男の声で名前を呼ばれた。


「おぉ、なんか様子がおかしいってんで見に来たが大丈夫か?」


「...えっと」


さっきの盗賊の男よりさらに大柄な男、見るからにボスっぽい男に心配されている。

でもまずい、とてもまずい。

僕はスーになったけど、スーの話し方なんて知らない。

怪しまれたら最悪また命の危機だ...!


「どうしたスー?」


「...なんでもない」


かなり素っ気ない返事をしてしまった...!

どうせならあのアナライズ情報に性格とか書いてくれてたら良かったのに!

正解が分からないから、様子を伺うしかない。

ドキドキ心臓が脈打つのを感じながら大男のリアクションを待つ。


「そうかぁ?まぁどうせ昼間の失敗を引きずってるんだろ?盗賊の癖して商人の荷車を止められもせず転んで逆に世話されて帰ってくるなんてな!ガッハッハ!!」


わぁすごい、思ってたよりかなりスーはポンコツらしい。

頭をバシバシ叩きながら頭を撫でられる...ちょっと痛い。

そしてこの話し方であっているみたいだ、ダウナー系ポンコツ...?なんだか悲しくなってきた。


「まぁ気にすんなよ!おめぇはまだガキだからな!!ガッハッハ!!...ん?」


頭をバシバシ叩いて慰めてくる大男が不意に静かになる。

気になって顔を見ると何やら真剣な顔で洞窟の前に広がる森を見つめている。


「おい、スー」


大男はじっと森を見つめたと思うと真剣な顔のまま口を開いた。


「...なに?」


「お前、そこの草むらに隠れて、俺が呼ぶまで隠れてろ」


「え?なんで?」


「いいから早くしろ!」


「...わかった」


こわっ!

突然自分の倍くらいの身長の大男に怒鳴られるとすごい圧だ。

わけがわからないがとにかく言われた通り、少し離れたところにある草むらに隠れ様子を伺う。

すると洞窟の正面にある森の中からザクザクと草木をかき分け何かが歩いてくる音が聞こえた。


「あった、ここが...っておい、なんで入口に頭領が居るんだ?」


そう言いながらやってきたのは少し赤っぽい髪をした青年だった。

盗賊達よりちょっとだけ綺麗な防具を身につけていて手には体の半分ほどの長さの剣を持っていた。


冒険者だ...!

どこかから依頼を受けて盗賊を駆逐しに来たんだ!


「なんで俺がここに居るかだと?そんなもん俺の勝手だろうが、それにてめぇみたいな調子に乗ったやつを潰すんなら俺が直々にやるのが一番早いだろ?」


やっぱりあの大男は盗賊の頭領だったみたいだ。

そして今から冒険者と盗賊の戦いが始まるんだ...!


僕は怖いし、頭領に言われた通り草むらから応援していよう。

...どっちを応援したらいいんだ...?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る