27話 僕は逃げ出した

「ぐわああ! 真理、目を覚ましてくれ!」

「このまま真理が明日も布団にいたら『いいかげん起きろ』って言ってしまうだろうな」

「っ! ここは……僕は……」


 ベッドに横たわる真理は、笑顔のままだった。


 全国大会、準優勝となったその翌年。中学2年生となった僕は、大会で小林に負けた。

 同日、連絡を受けて、僕は病院へ駆けつけた。息をすることのない真理を見て、僕と隆のおじさんは、虚しい気持ちでいっぱいだった。


 時間があったのだろう。普段吸わないタバコにむせながら、おじさんはやるせない目で笑った。


「なんか思い出話でもしてくれよ」

「……昨日の事です。電話が掛かってきました」


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「知也くんはいますか? 高田真理です」

「ん? ああ、真理か……どうしたの?」

「あ、なんだ。電話に出たの、知也くんだったんだね」


 すると、久しぶりに真理が言ったんです。昔みたいに。


「知也くん、二人で遊びに行かない?」

「う、うん……」

「やったあ! ね、どこにする?」


 僕は少しでも、真理とは一緒にいたくありませんでした。軽はずみで心のない言葉……それは気持ちが悪いほど、僕の口から簡単に出ました。


「公園にしよう。公園でいいよね?」

「えっ、公園? 公園じゃなきゃダメ……?」


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「ね、おしゃれしてきたよ。真理、かわいい?」

「うん。かわいいよ」

「本当かなあ?」


 彼女は分かっていたのでしょう。僕が真理をどう思っているか。二人で缶コーラを飲んでいると、突然、真理は僕に聞きました。


「ねえ『真理ちゃん』はいつになったら『真理さん』になるの? 真理はこれ以上、大人になれないのかな? 分数の計算ができたら、大人なのかな?」


 僕は生半可な気持ちで言いました。僕の考えはくだらなかった。適当に言えばいい。それで彼女も納得する。そんな程度でした。


「真理はそのままでいいよ」

「本当!? ありがとう!」


 ここで眠っている真理と変わらない。純粋な笑顔でした……今、亡くなった真理に申し訳なく思います。


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「真理、ブランコに乗ろうか」

「うん。遊ぼう、遊ぼう!」


 そう言って、真理がブランコに手を掛けた時でした。


「真理は中学生だよ。ブランコなんかで遊ばないよ」


 一瞬、何が起きたか分からなかった。真理は泣き出したんです。今思えば、真理は幼稚園の頃から、一回も泣いたことはありませんでした。本当は僕なんかより、強くて美しい方だった。彼女の叫びは、意味の理解に苦しみました。


「真理はブランコ楽しいよ。これ以上難しい遊び、真理には無理だよ。ババ抜きより難しい遊びも分かんないよ!」


 その女の子は、僕が初めて出会った女の子でした。拒絶反応が止まらない僕に、彼女はとどめを刺しました。


「知也くん。私の足がガラスの靴にピッタリだったら、知也くんはどう思うの?」

「あ、あはは。真理はそういう話が、相変わらず好きだよね」

「そうじゃない! ブランコ遊びをするような女の人が、お姫様だったらどうするか聞いているんだよ!」

「……真理、もう1本コーラ買ってあげようか」

「ごまかさないで!」


 僕には分かりませんでした。今すぐ、この場で、答えを出さなければいけない。でも、僕は逃げ出しました。卑怯だと思いました。でも、逃げることしか出来なかった!


「真理、ごめん。今日は帰るよ」

「真理って言わないで! 私のことは真理さんって言って! 認めてよ! 『真理さん』って認めてよ!」




[オマエは・認められない・好きな人が……高田真理はバカだ。殴ってみろ!]




「いたいっ!」

「あ・あああ!」

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 おじさんはその場を後にした。

「よく真理の顔を見ておけ」

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