17話 未熟な男の子
「猪俣さん、これ焼きそばパンだよ!」
「あら、うれしい」
「猪俣さん、これ珍しい色の『ひよこっち』だよ!」
「おお、ありがとね」
「猪俣さん、これスマートフォン。なんか、スマトって略すらしいよ!」
共学になって、大沢は男子の中で人気ナンバーワン。そして女子の人気ナンバーワンは、猪俣蚕だった。
「……猪俣さん、ボールペンだよ」
ダサイン王国のアホンもプレゼントを持ってきた。だが、周りの男子は好戦的だ。
「なんだ、テメエは」
「アホ面下げて何の用だ」
「中身もアホらしいな」
「そんなダサい男が猪俣さんに近づくな、アホ!」
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「そっか。蚕ってそんなにモテるんだ」
お昼休みに坂野はぼやいた。ガツガツ唐揚げ弁当をほおばる猪俣は、その言葉を適当に受け流す。ねちっこい男子が隙間から覗く度、石を投げているのだが、そろそろヤツらも懲りたらしい。やっと昼食にありつけたから、坂野の事なんかより唐揚げ弁当である。
「正体も知らずどんどん声かけるよねえ。淫らな男は、ご存じの通りシバいているけど」
猪俣から譲ってもらった焼きそばパン。「高橋より」と書いてある。坂野はそれをゴミ箱に捨てながら、申し訳なさそうに口を開いた。
「小泉未美って知ってる?」
「さあ。知らないね」
「大沢くんの幼馴染らしいの。ねえ、依頼するから調べてくれない?」
この天海、唐海の合併により、二人の付き合いは若干悪くなったようだ。猪俣はきっぱりと断った。
「緑って奥手になったよねえ。1年前はあのバカ教師にだって、遠慮なくアタックしてたクセに。堂々と言えばいいじゃん。大沢くんが好きですって」
猪俣は食べ終えたのか、その場を後にする。二つ目のロースカツ弁当は後で食べよう。このローカツ弁当には「横井より、愛を込めて」と書いてある。昼食代が浮くので、横井は少したぶらかしてある。あと、内海。
とりあえず坂野を放っておいて、猪俣は次の依頼をチェックする。
「もう十分でしょ? 大沢くんはクラスメイトなんだから、チャンスはいくらでもある。それに今、元天海の女子から依頼が多いのよ……ん? 叫び声が聞こえる。これだから仕事が絶えないのよね」
【発明とは、旺盛な好奇心による副産物である by 石川俊】
「どこでもクナイ~」
「説明しよう。このクナイは、どんな固いコンクリートでも刺せるのダ! これを2本駆使して、校舎の壁を登るのダ! 今、3階の教室は『銀河もびっくりパラダイス』のはずなのダ! よし、金田。このクナイで3階へ登り、カメラで現場を押さえるのダ!」
金田は本物の忍者のように登ってゆく。旺盛な好奇心が抑えられないでゴザル。というのも、3階では。
「なんかさあ、唐海と合併して、体育が多くなった気がしない? それに、学校指定の体操着が、ちょっと短くなった気もするんだけど」
すると、窓に男が。片手にはカメラ。
エラーが発生しました。 コンプライアンスを確認してください。
金田、ミッションコンプリートである。しかし、その時トラブルが。どこでもクナイなどというテキトーな物である以上、作者もイマイチ分かっていないが、致命傷のトラブルだった。
「あれ? どこでもクナイが抜けなくなっちゃった……マズい、降りられないでゴザル!」
下を見る。が、騒ぎになってしまったからか、味方は一人もいない。完全に孤立無援となった。オレたち、一生悪友だぜ……! あの絆はなんだったんだ。っていうか、それ昨日の話なのだが。まさか、騙された!?
「おい。大丈夫か?」
まだ壁にぶら下がっている金田に、猪俣が声を掛けた。ちょっと落ちそう。いや、落とされそう。でも、ここまで来た以上、僕は勇者なのだ。なのだが……
【悪魔 ぐははは! 覗きたいんだろう? たった1回懸垂をすれば、もう見えてし
まうぞ!】
【天使 ピロリン! ダメよ! あなたは清廉潔白。完全無罪なのよ! そういう本
なら、家にいくらでもあるじゃない。それに、あなたはまだ一年生。またチ
ャンスが巡ってくるわ!】
頭の中はこんな感じ。悪魔が言っていることも、天使が言っていることも、とどのつまりスケベではある。しかし、どう考えても、金田はこう言うべきダ。したがって、こう言ったのダ。
「あ、あなたはサカナ屋さん! お願いです、先生にバレない様に助けてください!」
「誰がサカナ屋だ、このバカ。条件つきで助けてもらえると思ったか。とりあえずそのカメラよこしな」
金田は急いでそれを渡す。フイルムだけは……ダメですか。そうですか。
「はいはい。確かに。ありがと」
「ちょ、ちょっとサカナ屋さん! 僕を助けるって話は!」
「ん? ああ、忘れてた。3枚におろしたうえで、3階から落としてみるね」
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「あらあら、バカだねえ。この位置とこの角度なら、そんな無茶しなくても見えるのに」
とある場所で、大沢は双眼鏡片手につぶやいた。ピントくっきり。笑顔もくっきり。もし、僕が寿命を迎えて死ぬとすれば、この風景を走馬灯の様に見るであろう。2回見られてお得♡ すると。
「何しているの? 大沢くん!」
かなりの至近距離。小泉未美だ。「大沢はマトモな方」などと書いたことを、僕(=作者)は後悔している。え、僕? 僕はもちろんマトモですよ! それはともかく、大沢にイイワケさせねば。
「いや! なんでもない、なんでもない!」
「なんでもないなら、どうして美術室になんかいるのよ。しかも、椅子二つも重ねて。それより私ね、ボクシング部のマネージャーになったの」
いらん話だけど、なんで美術室の椅子って背もたれないの? それはともかく大沢は「ごめんな」と椅子から降りた。急にシリアスな本題に戻っても説得力はないが、大沢は未熟さと曖昧さが拭いきれていなかった。
「今日、退部しようと思う。だらだらボクシングを続けてもダメだから」
二人しかいない美術室。時を経て再会した二人には、誰かが足りなかった。
すると、小泉は変顔をした。その顔を見て笑ったのは遠い昔。切なく、面白い顔だった。彼女は一瞬にして、大沢をあの頃にタイムスリップさせた。小泉は穏やかに話す。
「この顔をすれば、いつでも真理は笑ったよね。小学校を卒業する時のこと、覚えてる?」
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「三人とも中学がバラバラなの、真理やっぱりヤダなあ」
真理は市の中学。私は私立のガリ勉中学へ。大沢くんはボクシングを頑張るために、唐海中等部へ。その時の大沢くんの失言、覚えてるんだぞ。
「僕、野球もやってみようかなあ」
そうしたら真理、びっくりして泣き始めたね。きっと今までの我慢が、抑えきれなかったのよ。
「真理が行く中学は、野球部あるよ。野球をやるなら、真理と同じ中学に来て!」
「ば、バカ言うなよ! 今さら変えられないだろ」
「じゃあ、一生野球なんかしちゃダメ!」
「ええっ! そんなこと言われても……」
「じゃあ私がボクシングするから、私が唐海中等部行くーっ!」
あの時、私はなんて言えばよかったの? 真理みたいに無邪気な顔して「だったら、私も唐海中等部に行く」なんて言えばいいの? でも、私は濁りきっていた。同じセリフを言っても、私はそんなこと無理だって、知っていた。真理の叫びは純粋の結晶だったね。
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小泉は一呼吸置くと、今までとは違う、誰かを思いやる表情で大沢を見つめた。少し目を背けてしまったが、大沢も小泉が言っていることは分かっていた。でも、大沢が口にした言葉は、やはり未熟そのものだった。
「僕は真理を追い詰めた。あの人の言う通り……」
「モグラのことね」
大沢は驚いた。
「知っているのか?」
「……私を甘く見ないで」
……
「大沢くん。それにしても、がっかりするよ」
「だから! 僕にはもう無理だ!」
そして小泉は一呼吸置くと、今までとは違う、鬼の形相で彼が隠していた双眼鏡を奪い取った。あまりこの手の女子に隠し事をしない方がいい。たとえそれが、ラノベの主人公だったとしても。
「結局、何にも小学生の時と変わってない! このスケベ!」
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