16話 後編 第2ヒロイン

 ついに大沢知也、坂野緑は高校3年生。変わらぬ学校。変わらぬ教室。高田隆は、その日も授業をしていた。


「えーと。ここまでについて、質問がある生徒はいますか?」

「はい、先生。平面上の曲線についてですけど」


 ……質問があるかと言っておきながら、隆はその生徒に聞き返した。


「君は唐海高校のボクシング部、石川くんだよね?」

「そうですけど」

「ここ、女子高。なんで君がいるの?」


 まあコイツのせいでもあるのだが、石川は呆れた。


「先生、まだ現実を受け入れられないんですか?」


 その時、教室の隅にいる生徒を隆は指差した。


「そこ! 授業中にイチャイチャするな!」


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 あれから新年度になり、天海高校の上原校長は、本当に唐海高校を買収してしまった。あのまま話は流れるかと思いきや、なんと離婚した下原さんの妻、道子は上原と結婚した。というワケで(?)ここは天唐高校となったのだ。

 純愛と、くだらなさが融合する恋愛小説。山場を迎えております。


「いやー。ゆかい、ゆかい。どーしたんですか? 唐海高校の校長先生、下原さん。あ、いえいえ。今は天唐高校、教頭先生の下原さん。校長のワシ、上原に文句でもあるのかな?」


 女子高と男子校いう、思春期を押さえつけられた生徒たち。あっという間にカップルが山の様にうまれた。そして作者にも遂に彼女が!(思うがまま)右を見ても左を見てもアベック。文字通りの異常事態だ。


「どうしたの、大沢くん」

「うおっ! 誰だ!」


 大沢もこの通り。正直、女子に呼ばれただけでも動揺を隠せない。ましてや、この人に声をかけられたのなら。


「誰だ! って、失礼ね。坂野緑ですけど」


 二人とも3年2組の生徒になった。だが、坂野と大沢はマトモな方だ。挙動不審の生徒など山ほどいる。しかし、二人の関係にも変化が。知らない面を知ってしまえば、冷める事もいろいろとある。そのひとつがコレ。


「もう、掃除サボらないでよ。ほんっと、大沢くんだらしない」


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 だが、全体的な大沢の人気はすごかった。ペンライトがキラキラと眩しい。そこはライブ会場と化していた。


「キャーっ! 大沢くん!」

「カッコいい、こっち向いて!」


 作中ではあまり触れられていない大沢のイケメンぶりにより、ボクシング部の窓には大勢の女子が。先行予約チケットの順に座る女の子たち。ただでさえ狭いのに、吹奏楽部まで来ている……あの。このラノベ、どう思いますか? 


 ファンクラブの名前は「O・サワーズ」しかし、大沢が目当てとはいえ、男子たちもこんなに女子がくれば悪い気はしない。


「なんかすごいコトになったね。練習どころじゃないよ」


 一応、帰国を免れたダサイン王国のアホンはボヤく。彼の言う通り、あまり練習できる雰囲気ではない。ご想像の通り……いや、この無茶苦茶ぶりを、ちゃんと想像できる方はいるだろうか。少なくとも、作者は想像できていない。


 だが、そこはボクシング部顧問、河合先生直々の出番である。


「こらあ、女子! 生半可な気持ちで、ボクシング部に来るんじゃない!」


 それを聞き「大沢・命」のハチマキをした女子が口答えした。会員番号・2番!


「私たち本気です! じゃあ、どうすればいいんですか!?」


 襲い掛かる恐怖の女子軍団! ところが、河合はニヤケ面を見せた。当然、いや「当然」なんて言葉で片付けていいのか分からないが、旧唐海高校の教師も、生徒同様なのである。


「全員ボクシング部の女子マネージャーになれ! あ、試合を解説する、女子アナウンサーなんかもたまらんなぁ」


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「はい! 今、すごく痛そうなパンチが、アホンくんに当たりました! えーと多分、大沢くんの勝ちです!」


 やっと部活が終わると、後片付けもせず、男子も女子も散り散りに帰って行った。このイルミネーションみたいなの邪魔……


 ひとりぼっちでモップ掛けするアホンの元へ、大沢が戻ってきた。


「あれ、大沢くん。どうしたの?」

「僕の方こそ聞きたいよ。どうなっているんだ」


 二人はスパーリングを始める。アホンは大沢のパンチを避けながら、ふと思い出した。


「今日の大沢ファンの中に、坂野さんがいなかったね」


 素早いステップを大沢は踏む。そうでなくとも主人公なのだが、

(今日の僕は主人公だったぜ。しかし、本当に好きな女の子は……)

 少し誇らしげに反論した。


「坂野さんは、あんなタイプじゃないよ」


 ……


「ふーん。じゃあ坂野さんって、どんなタイプなのかしら」


 びっくりした。声がする方を振り向いたアホンと大沢は、動きが止まった。


「か、かわいい……」


 めちゃくちゃ美人な女子生徒が一人、部室の入り口に立っていた。彼女はリングに近づき、サンドバッグから、ちょこんと顔を覗かせる。こうしてみるとサンドバッグも汗臭くない。ドギマギする大沢に、女子生徒は胸キュンなセリフを投げかける。


「ごめんなさい。さっきまで私、みんなと大沢くんを見ていました。さすがにハチマキは遠慮しといたけど……ところで、坂野さんってどなたですか? 大沢くんの恋人なの?」


 大沢は少し困ってしまった。半分本当だから、半分この女子にはゴマかしたいから、テキトーな言葉が口走った。高田から分家となった大沢一家だが、遠いご先祖様、高田権左衛門と全く同じイイワケだった。


知也  「いや! 全然、恋人じゃない! 『こんにちは』って言うと『こんにちは』

    って言うだけの仲なんだ!」

権左衛門【いえ! 全然、恋人じゃない! 『近う寄れ』って言うと『オイタが過ぎ

     ます』と言うだけの仲なんだ!】


「相変わらずね、下心ある時のバカっぷり。どうせ幼馴染より、その女の方が好きなんでしょう?」


 200年の時が経ったというのに、熊さん家のおみつと同じやり方でペシャンコにされた。


 ただ、当然アホンは「?」という顔をする。この女の子、さっきから妙に思わせぶりだ。何か裏がある。アホンに罪はないのだが、彼は状況を悪化させてしまった。次の一言、いらんことをしたというのは明白だった。


「幼馴染って、よくみんなが話している『高田真理』のこと?」


 すると、その女子は絹のような髪をヘアゴムで止めた。う、美しい! 女優をしながら学業にも励んでます、なんて言われても全く違和感がなかった。わざとらしくはにかみ、自己紹介をしてくれた。


「この髪形と、小泉未美という名前を聞いても、まだ思い出せませんか?」


 大沢はしりもちをついて叫んだ。平成でもビックリするほど、昭和的リアクションで分かりやすい。脳内の回線はバチバチと音を立て、一瞬にしてこの女子生徒を解析した。


「お前、小泉なのか!? 色っぽくなっていたから、分からなかったぞ‼」


 ……


「とどのつまり、誰なの小泉さんって」


 再び罪のない発言で、ズバリと核心に迫るアホン。大沢は渋々答えた。大丈夫。なんとかなる。坂野さんはいないのだから。


「そのう……幼馴染だ」


 その時、部室の入り口でカバンを落とす音が。なんとかなるはずもなかった。ボクシング部は修羅場と化した。


「信じらんない。女の子の幼馴染が、真理ちゃん以外にいたなんて」


 ベストなタイミングで現れた坂野だった。頭に巻くのがためらわれたのか、ハチマキを握りしめている。「O・サワーズ」の会員カードも持っているし、番号も1番だった。


 が、そんな彼女を見ると、小泉は素知らぬふりで火に油を注ぐ。ただの楽しい思い出だったのあの頃が、10年ほどかけて大爆発した。


「大沢くんったら、右手で真理の手を握り、左手で私の手を握っていたなあ。懐かしいわ」


 ……


「びぎゃあ‼」


 坂野のビンタが大沢に決まった。彼女は走って行ってしまった。


 思わず追いかける大沢を、小泉は強烈な足払いで止めた。ああ、僕は何も悪くないのに……しょぼくれる大沢。小泉は勝ち誇ったように、分かりきっていることを聞いてあげた。


「どうしたの? あの方が坂野さん?」


 これまた昭和のたん瘤が、大沢の額に浮かび上がった。とはいえ、聞かれてしまえば「まあ、そうだけど」と答えるしかない。最後に小泉はなかなかのぶりっ子を見せた。


「久しぶり、大沢くん。また会えて、私すごく嬉しい! 天海と唐海の合併、バンザイ!」


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「ふうん。この喫茶店で、たまにその坂野さんとお勉強を」

「た、たまにだよ。数学が分からない時とか……ラノベの都合上とか……坂野さんに会いたい時とか」


 やっぱり、小泉をヒロインにしようかなぁ。その場合、主人公も石川に変更して、舞台をハワイにして……え? ネットにアップせず、一人で満足しろ? そんなの虚しいじゃないか! 


 ともかく、久しぶりに会った大沢を、いたずらっぽく小泉はからかう。


「どうしたの? 色っぽくなった昔の友達に会えて、照れちゃうの?」

「ば、バカ言え。そんなワケないだろ」


 しばし考えて、大沢は小泉の顔を覗いた。どこか隆の血筋を感じる。


「そういえば、なんで未美……じゃなかった、小泉は僕と話さなくなったんだ? 小学生の頃は結構仲良かったのに。『二人三脚、一緒に走ろうよ』って、言ってくれたじゃん……あれ? それって僕が言ったんだっけ?」


 小泉は「うふふ」と笑うだけだ。いわゆるアザとい微笑みを見せる。


 気が付いた時には手遅れ。だけど、何も後悔することはないでしょう? こういう手口が小泉の十八番だった。が、男は夢と想いと過去を捨て(時にはお金も捨て)小泉と一緒になってしまうのだ。というワケで、まずはぼんやりと大沢をたぶらかした。


「ま、こんなに毎日会うとなれば、話したくなった。そんなところかな?」


 こんな感じで本心をはぐらかすと、小泉は、向かいのテーブルで丸まっている人物に声を掛ける。ロックオンした相手を叩きのめすまで、小泉の鋭い嗅覚はそれを見逃さない。というか坂野を最初に見た瞬間から、こうなるだろうと予測していた。


「そこに隠れていないで、出ていらっしゃいな」


 すると、メニュー表で顔を隠していた坂野が出てきた。アザとい対決において小泉未実、一枚上手のようである。長いこと男女が共に学校生活を送ると、恋愛上手になる様だ。


 もちろん、共学であった作者も例外ではない。わざと消しゴムを落としてみたり、大きな声で先生に返事をしたり。が、そんなショーモナイ作者と違い、小泉は余裕を見せる。


「案外、ヤキモチやさんなのね」

「たまたま居合わせただけよ」


 見栄をはる坂野を放って、小泉は「お先に」と席を立った。3000円を置いて帰るようだ。このお釣りをどうするか、大沢を試しているのだろう。

 誰と誰の組み合わせでしょう? なぞなぞを出す様に、店員にパフェを2つ頼んで去って行った。


「本当に高田真理を一回り大きくしたようね。いいお話をしてあげる」


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 あれは三人がまだ小学生だった頃の話よ。真理と私、そして大沢くんは、同級生で家も近かったからよく一緒に下校していた。あ、ちなみに、今でも家は近いから覚悟なさい。


 でも、ちょっとあなたも気が付いたでしょう? この男、結構イイカゲンなのよ。その日、いつまでたっても大沢くん来ないから、真理と二人で帰ることにしたの。


「未美ちゃんは知也くん、好き?」


 真理が突然聞いてきた。その答えなんて明白だったけど、心の準備は出来ていなかった。私は何か考える余裕もなかったわ。


「べ、別に好きじゃないよ」

「ふーん。そうなんだ」


 すると、真理は飛び切りの笑顔を見せたわ。今でもよく覚えてる。


「私はね、知也くんが大好き。大きくなったら、知也くんのお嫁さんになりたいんだ!」


 思ったわ。真理は夢、私は恋。反射的にひどい事を言ってしまった。


「真理ちゃんは勉強も運動も、なんにも一人で出来ないじゃん! 知也くんのお嫁さんになんて、なれないよ!」


 それを聞き、真理は少しうつむいたけど、やっぱり笑っていた。作り笑いしかできなくなった私には、眩しいほどだった。


「そっか。そうだね。真理はなんにもできないから、お嫁さんになれないね」


 敵わないなぁって思っていると、大沢くんが遅れてやって来た。真理は無邪気に聞いたわ。


「知也くん! 知也くんは未美ちゃんと真理、どっちが好き?」

「ど、どうしたの、急に……どっちも友達だから大好きだよ」

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「でも、坂野さん。これだけは言っておくわ。天海と唐海が合併して、あなたとも大沢くんとも毎日顔を合わせる以上、色々と目を離さない事ね」

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