15話 恋の研究室 タイトルだけで期待する方が悪い

 休み明けの月曜日。夕方、その時刻は迫っていた。


「高田先生。会議がありますから、それまでにテストの採点を終えてくださいね」


 ダメだ。僕の力では、会議が始まるまでの30分で採点を終えられない。


 この「先生はおバカさん!」がドキュメンタリー番組になるなら……そして、このテストの採点というプロジェクトをドキュメンタリーにするなら……そう。ここが最大の山場である。みんな何処へ行った。見守られることもなく

(ちなみに、その番組はこのラノベの一年後に放送開始で、やや辻褄が合わないが)


 しかし、この修羅場を乗り越えられなければ、視聴率は見込めない。頼れる人は……


「小場加山先生、手伝ってもらえませんか?」


 高田隆、渾身のお願いは、クロスワードパズルをする、小場と加山に届かなかった。例によっていつも通りである。通常回である。


「割に合いません。この懸賞に応募して、2千円が当たるかもしれないのに」


 タテのカギもヨコのカギも、全然当てはまらん。隆は、これまたいつも通り疲れてきた。


「それよりは、僕に借りを作った方が割に合うと思いますよ? ダメですか?」


 しばし考えて、小場加山は切り出した。とても合理的と言わんばかりに。


「では、2千円で手を打ちましょう。それなら、手伝ってあげてもいいですが」


 激しい言い争い。魂を込めた【小場加山 VS 隆】のぶつかり合い。詰まる所、100円単位で値下げ交渉をしたのだが「激しい言い争い。魂を込めたぶつかり合い」には25分要した。




ナレーション「時間は過ぎた。だが、隆は意地を見せた。その執念は己を超えた」




 ドキュメンタリーにしたら、こんな感じだろうか。この激しい言い争いをノーカットでお送りする場合、番組の尺としては大問題である。

 しかし、既に無慈悲なエンディングの時間。最初からそう言えばいいものを、小場は「結局、そこだよな」という核心に迫った。


「決めてください。2千円を諦めるか、テストを諦めるか」




ナレーション「高田隆は潔かった。迷いも、未練もない。彼は決断を下した」




「と、とりあえず、そのままにしておきます……」

「潔さのカケラない、迷いも未練もある決断ですね。高田先生のそういうとこ、嫌いじゃないですが」


 その時、名探偵タカシは引っかかりを覚えた。そうだ。最初からおかしいと思っていた。


「あの。ところで小場加山先生は、会議、行かないんですか?」


 すると、二人は顔を見合わせ口をそろえた。ぶっちゃけ、このラノベで一番面白いのは、ここだけといっていい。


「何も黙っているつもりはなかったんですが、私たち用務員なので」


🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵


 その日の上原校長は、過去最高にとんでもなかった。


「来年度、となりの唐海高校と合併、いや吸収、いやいや買収してやるのだ!」


 教師一同が驚く。理由は次の通り。そんなトコだろうとは思ったが。


「唐海の校長、下原さんが妻の道子に別れを告げられた。下原さんに毎日イヤミを言うべく、唐海高校を買収する!」


 教師全員で止めにかかるが、どんどん上原はヒートアップしていく。今日はユーロビートでヒップホップな曲でキメてきた。見苦しいダンスも披露してくれた。聞いて驚け! 上原邦夫ニューシングル「センチメンタル・ラブ・ラボラトリー」


上原【想い人の離婚Ohイェイ! 道子の悲しみTIME、もう少しで終わる、安心しろよ。オレは愛して電話をかける。なぜ離婚しても電話に出てくれない? 焦らしのテクも、オレには愛しい セリフ:離婚届も、オレにはラブレター】


 一般的なドラマにもありがちだが「先生はおバカさん! 主題歌&キャラソン集」には未収録の名曲である。しかし、そんな校長を止められるのは、やはり同じ才能を持つ者である。


「上原校長、それでは天海高校に勝ち目がなくなります」


 みな、隅っこにいる隆に視線を投げた。会議に間に合わなかったという意味で、ヒーローは遅れてやって来る。ヒーローこと、隆は続ける。


「天海高校と唐海高校は、重きを置いている部分が違うのです。ここで合併しては、生徒に混乱を招きます。それぞれの人生があるんです。なにより、勝ち目がなくなります」


 今日の隆はどこかオーラをまとっている。スピーカーのボリュームを下げて、上原はカンネンした。人徳者、上原邦夫の想いも、生徒の命には代えられない。


「高田クン、君の言う通りかもしれん。勝ち目がなくなるな」

「はい、校長。勝ち目がなくなるのです」


 高田隆、教師としての株が上がった。これは本当の話だが、ちょっとだけ「おお!」という歓声も上がった。いける。来年度は一気に教頭になれるかも。ひょっとすると上原を差し置いて、校長に大抜擢? しかし、三日天下だった。


「……ちょっと失礼。なくなるのは、自分の勝ち目でしょう?」


 例によって小場と加山が茶々を入れにきた。この二人に限って呼んでいないが、ヒーローは遅れてやって来る。小場の説明は、とても腑に落ちた。


「男子の数が圧倒的に多くなり、女子生徒の競争に置いて高田先生の勝ち目がなくなる。そういうことでしょう?」

「なんじゃと! ふしだらな理由で、その様なことを言っておったのか!」


 そんな権利ないのに怒る上原を適当にごまかし、隆は小場加山を外に追い出す。が、二人はプリントの束を差し出した。


「テストの採点をしておきました。2千円はまだですか?」

「ええ! 勝手なことしないでくださいよ……あっ」


「高田先生、用務員の小場加山さんに大事なテストの採点を? しかも、お金で解決したんですか?

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