12話 天使という名の悪魔

 保健室で坂野が話した、大沢知也が小林に勝ったあの試合。その後、大沢は全国大会で準優勝を成し遂げた。だが、彼はボクシングをやめようとしていた。


 唐海中等部にて。


「河合先生……僕には、もう無理です」

「そんな、あれだけの成績を収めたんだぞ。もう少し続けてみろ」

「すみません。僕はボクシングが嫌いです」


 ……


「お前が大沢か」


 後ろを振り向くと男が立っていた。大沢にはこの男に後光が差している気がした。


「……あなたは誰ですか?」

「高校大会チャンピオンの吹野英だ。通称モグラ。大沢知也、俺が貴様の全てを手解きしてやる」


 何かの力が働いた。導かれる様に、大沢は喉の渇きを訴えた。この人なら、僕の欲しい力をなんでも与えてくれる。すがる様にしゃがれた声を出していた。


「あなたは、僕の救世主ですか?」


 笑った。吹野英が笑った。それを見て大沢も安堵の笑みを見せた。僕は解放される。真理からも、正しさからも。吹野は丁寧に大沢の気持ちを紐解いていく。いや、何かを作り上げていった。


「大沢。憎しみに勝る感情はない。そしてボクシングで得た憎しみは、ボクシングでしか晴らせない。お前は望んでいるはずだ。人を殴りたいとな」

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