11話 ザコキャラの回

 すると、そこへ小林と坂野が。


「お! 貴様はこの前の練習試合で負けた、小林!」

「やあ、君はこの前の『ちゃんとした大会』で負けた、セコイくん」


 そんな勝った負けたを言う小林より、坂野が気になるセコイくん。ああ……これが初心恋(ときめき)というものなのか。大沢のことなど、どうでもよくなってしまったセコイくん。


「か、かわいい。可愛すぎる、結婚してください!」


 そう。男は問題アリの隆しか登場しないので分かりにくいが、坂野はかなりかわいい。このラノベを、彼女がヒロインの異世界ファンタジーにしたいくらいだ(しかも、猫のコスプレギャルが主役の)だが、小林はやれやれと呆れ顔を見せた。


「セコイくん。君にとって『名は体を表す』ほど、嫌いな言葉はないはずだ。そんなセコイ顔をしたヤツに、僕の坂野さんを渡すワケにはいかない」


 セコイはこれまた真っ赤になって、分かりやすく怒る。小林を殴ってしまおうかとも思ったが、女の子の前なのでぐっとこらえた。そして言語の壁の厚さを、恨み節の様に叫んだ。


「日本で『せこい』はだいぶ悪口のようだが、ダサイン王国では『太陽』って意味だから、覚えとけ!」


 それだけ言うと帰って行った。


「あ、ちなみに僕のアホンは『元気』って意味です」

「聞いてない。興味ない」


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「おねがいしまーす。道場破りでーす」


 似たようなセリフを言われても、今度はボクシング部全員が大盛り上がりだ。


「おお、小林翼だ!」


 小林は、マンガを顔に伏せて昼寝している大沢を叩き起こす。面倒くさいが、コイツのやる気を起こすのも、ナルシストの役目だ。小林が見たがっている本気。当たり前だが大沢と試合をするチャンスは、高校を卒業すればなくなってしまう。


 ちなみに小林の進路は東大の医学部。僕(=作者)はこんな男が大嫌いだ。本編に戻るが、医者の卵、小林は軽くマンガで大沢を殴る。


「君、ある種すごいな。汗でベタベタのまま寝られるのか」


 起こされた大沢は、小林と坂野が来ても、セコイの時とさほど変わらない。ここでたくさん寝ておかないと、深夜までテレビゲームをする体力がなくなってしまう。やや機嫌を悪くしながら小林を睨んだ。


「なんだよ。僕、そんなに人気者なのか?」


 すると小林は、部室にいる汗臭い野郎どもに向かって叫んだ。その一言で、ならず者がのさばる戦場に火が付いた。男子校で耐えているオレたちに比べて大沢は……その場にいる生徒諸君が抱えている思春期を、ズバリ、小林は言い当てた。


「こんなやる気のない大沢が、こんなカワイイ女の子に好かれている。腹立たしくはないか!」


 ん? 

 ……ん 

 ん! 


 続々とコンプレックスは燃え上がった。そう。共学だったら、僕らは毎日女子と合コンをして、連絡先を交換して、月イチでハネムーンをするはずなのだ。傷つけられたら牙をむけ!


「そう言われるとムカつくよなあ! 俺たち真面目にやっているのに、大沢は何もしなくとも結果がついてくる!」

「女の子までついてくる。俺たち唐海高校の敵だ!」


 男子は次々舞い踊った。我らに伝わる呪いの炎舞で、大沢をザコキャラにせよ! キャンプファイヤーを取り囲む野郎ども。そんなザコキャラである太郎くんや次郎くんの集まりを見ると「そこで!」と小林は拳を突き上げた。


「今から立候補者を募る。この坂野さんとデートしたいヤツは集まれ!」


 来るな、来るな! ……結局、僕も入れて14人。MC小林は、もはや他校のボクシング部を牛耳っていた。他校のダサい男子たちを利用するのって楽しいな。そんな失礼極まりない軽蔑をする小林は、大沢を立ち上がらせた。


「よし、大沢。15人抜きの勝負だ。お前が全員に勝てたら、坂野さんとのデートを許そう」


 可愛く舌を出す坂野を見て、大沢はポカンとしている。気が付いた時には、自分が呪われていた。気持ちは分からないでもない(だからといって、作者を呪わないでください)大沢は思った疑問を、とりあえずつぶやいてみた。


「今の状況をよく飲み込めない。なにが始まったんだ? それに僕、坂野さんが好きかといわれると、まだ分からないんだけど」


 小林は、そんな大沢をリングに無理やり上らせる。


「男に二言はない!」

「何も言ってないのに……」


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「一番手、石川俊。行きます!」


 周りがちょっとざわつく。ウオーミングじゃない感じで、アップしているが。面倒くさかったので、味噌カツさんと名付けた部員が、ポツリとつぶやく。


「石川が作者なんだから、そりゃあ石川が勝つだろ」


 30秒後


「ノックアウト! 石川、敗退! 敗退というか、反則負け。頭突きは禁止!」


 くそっ、俺のラノベを支配できない。裏設定で、人口の半分が宇宙怪人ビロローンだというのに(頭突きはダメというのは、オレ設定だが)その時、ふと数人が坂野を見た。おとなしくチョコンと座っているが……


「おい、あそこにいる女の子さん。なんで、意味の分からんコレを、黙って見守っているんだ?」

「もしかしてこの試合、仕組まれているのか?」


 すると小林はフッと笑った。基本的に人を下に見るのが趣味のようだ。悪趣味だが、ここにいるのは所詮、味噌カツさんとか、ゲーム大好きっ子などというザコキャラしかいない。ちゃんと名前がある小林翼は、誰でも見下すという趣味活動の内容を、ザコキャラたちに話してあげた。


「ま、先にこうなる事は伝えておいたよ。だが、ある種平等だろ。君たちが勝てば、それまでだ」


 しかし、大沢は14人全員を倒した。


1人目 石川俊

2人目 味噌カツさん

3人目 太郎くん

4人目 ゲーム大好きっ子

5人目 ウルフって呼ばれたい

6人目 早食いが趣味だよ

以下省略


 さすがに息が切れているようだが、そんな大沢に構わず、容赦なく小林はリングに上がる。


「おっす。15人目の挑戦者、小林翼です。よろしく」

「ま、待ってくれ。少し休憩してもいいか?」

「ダメダメ。僕も坂野さんが好きなんだから」


 ……面白くなってきた。そうだ。誰かを守るその力、少しは思い出せ。小林はそんなことを考えながら、ふらふらの大沢に適当なジャブを打って余裕を見せる。


「坂野さんは、お前が好きなんだぞ。彼女のために頑張れよ」

「酷だよ。15人目がお前じゃあ。そもそも、これは一体なんなんだよ」

「分かってないな。坂野さんの顔を見ろ」


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知也くん、二人で遊びに行かない?

う、うん……

やったあ! ね、どこ一緒に行こうか

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「っわあ!」


 大沢はダウンした。小林のローリングサンダーが決まったのだ。


「よそ見するのが悪い。で、どうなんだよ」


 小林に言われた大沢は……ゆっくり立ち上がった。すると小林は「どかーん」と言って自分から倒れこんだ。


「わー。ザコキャラの小林くん、気絶しちゃったー」


 空気が読めるのか、それとも空気が読めないのか微妙な小林。そして僕らはなぜたん瘤だらけにならなきゃダメだったんだと、やや腹が立つザコキャラ部員たち。

 そんな大勢に囲まれ、何がなんだか分からなくなった大沢も、ついに体力の限界がきて倒れこんだ。


「だ、大丈夫か!」


 指をくわえてボケーっと見ていた河合先生が、急いで大沢に駆け寄った。


「い、いかん! 誰か大沢を保健室に連れて行ってくれ!」


 すると、気絶したはずのザコキャラがしゃべった。ザコキャラにしては気が利く。味噌カツさんも、ここまで気配り出来たら出世も夢ではない。


「坂野さん、連れて行ってあげて」



【次回作:味噌カツさん、運命のダンジョン】



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 坂野は大沢の肩を組んで、なんとか保健室に連れて行った。ここは真面目に書いておくが、保健室は二人きりだった。


「あ、ありがとう。助かったよ、坂野さん」


 お礼を言う大沢に、坂野は微笑んだ。今日は坂野が、モノクロームのフイルムを語った。彼女もまた、忘れられない過去を持っていた。


「私の恋は、男の子を保健室に運んだときに、初めて実ったんだ。中学生のとき」


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「健太郎くん、大丈夫?」

「あ、ありがとう。助かったよ、緑ちゃん」


 その時、ずっと好きだった健太郎くんと「二人きり」って気が付いた。今しかない。よく考えもせず、勢いだけで唐突に声が出たの。


「け、健太郎くん。私ね、健太郎くんが大スキンだったの!」

「大スキンだったの?」

「い、いや! なんでもないスキン、なんてね……」

「ありがとう。僕も、緑ちゃんが大スキンだったんだ」

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 こうして書いていると微笑ましいが、あまり坂野は嬉しくなさそうだった。彼女もまた、変えたくても変えられない過去を持っている様だ。


 だがそれとは別に、大沢は不思議なことを毎日感じていた。少しの沈黙を破って、大沢は質問をした。


「坂野さんは、本当に知り合って1か月の僕が好きなのか? 説明の付かない事が多すぎる」


 坂野はちょっと考えてから答えた。大沢、坂野、真理、小林、健太郎。全てが一本の線で繋がる。時計の針は一瞬にして、数年前までさかのぼった。


「私、もっと前から大沢くんを知っていたよ。今日の朝、小林くんが思い出を話してくれたの。小林くんが大沢くんに負けた時の試合……実は、私もその試合を見ていた。中学1年生の時だよね」


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② 坂野が見た運命の一日

 そう。確かに中学1年の時だった。大沢くんと小林くんの試合、私は息をのんで見ていた。


「いいぞ、小林!」

「小林くん、ファイトーっ!」


 会場中の声援を受けた小林くんは、一回転する技で大沢くんを倒した。ローリングサンダーって名前だっけ。そして、その場の全員がカウントを数えた。


「ワン‼ ツー‼ スリー‼」


「やめてえっ!」


 その叫び声で、全てが静まり返った。


「死んじゃいや! 知也くん死なないで! 真理だけは応援しているよ!」


 あの女の子が、真理ちゃんだったんだね。リングにまで上がろうとしていたよね。


「……君は、いつ死ぬつもりなんだ。さあ、立ち上がれ!」


 小林くんがそう言ったのも、鮮明に思い出した。そうしたら大沢くんは立ち上がって、その場の雰囲気が変わった。私にも、なんていうか……見えない力が、大きく動くのを肌で感じたわ。


「がんばれ、いい試合してるぞ!」

「あの女の子のためにがんばれ!」


 健太郎くんのお兄さんが、ボクシングをやっていたから、たまたまその試合を見ていたの。その時、健太郎くんは私に言った。


「緑ちゃん。僕なんかより、ああいう女の子のために頑張れる男を、好きになった方がいいよ」

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 坂野は深呼吸をすると、まるで亡くなった真理が教えるように、大沢の目を見て断言した。


「真理ちゃんは絶対に自殺じゃない。私には分かる」


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「僕のバカバカバカ!」

「と、知也くんそんなに泣かないで……」

「だって、真理のお誕生日会もう終わってた! 間に合わなかった……」

「遅いなんてことないよ! 真理、もう一回知也くんと一緒に、お誕生日会やりたい! えへへ。真理は今日お誕生日だから、どんなワガママ言ってもいいんだよ!」

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「坂野さん。今度、どこか遊びに行こうよ。それが一番いいと思う」

「ホント!? ありがとう! ね、どこにする?」


 大沢は何気なくその質問に答えた。よく考えもせず……よく考えもせず? どこかでこんな事があったような……何か失いそうな気がしたのは一瞬だった。


「映画にしよう。映画でいいよね?」


 そして次の瞬間。坂野の言葉を聞いて、大沢に再び酔いが襲った。


「えっ、映画? 映画じゃなきゃダメ?」

「……!?」

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