10話 中吉大好きビロローン

「うーん。あんまり唐海高校行って、ベタベタ関わるのも嫌われちゃうかなあ」


 坂野緑は、唐海高校の近くにある神社で迷っていた。もう、構わずボクシング部に顔を出すのだが、部員たちは「また来たのか」という感じ。また来たのか、くらいならまだいいが、また来たなら誰か紹介して、という顔をされるのもイヤだった。


「よし。おみくじを引いて中吉が出たら行くことにしよう。小吉でも大吉でもなく、ジャスト中吉」


 どうもこの坂野緑は、自分勝手で半端なものが好きらしい。その割には、賽銭箱に100円を入れている。一度、思い切って5000円を入れてみたら、10円ガムが500回連続で当たった。それより、おみくじの結果は……


「大吉かぁ」


 しばし、呆然としてしまった。すると。


「おみくじ引いておいて、なんで大吉がダメなの?」


 うわっ、と驚き横を見ると小林翼だった。この前の試合を見ていたので、坂野は小林を知っていたが、当然、小林は大吉ガールを知らない。


「僕は中吉だったよ。君と交換してほしいくらいだ」


🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵


「なるほど。君は大沢知也のファンなのか」

「べ、別に。そんなんじゃないけど」


 見栄を張る坂野に、小林はチッチッと指を振り、妙な忠告をした。


「僕、まあまあイケメンだろ。10段階評価でいうと、12ってところ」


 ムカついたが……


「そうね。10段階評価で、12は言い過ぎだけど、11なら許す」

「君、さっき言っていた77点とか中吉とか、基準が曖昧過ぎる。僕の12は、ちゃんと根拠があるんだ。週に12回。何の事か分かる?」


 よく分からないので、坂野は素直に「?」という顔をしていると、小林は髪をかき上げた。言っている事は、小林のイケメンぶりが、ある種証拠となっていた。


「1週間に告白される回数だよ。まあ、ノリだけの人もいるけど」


 悔しい。僕(=作者)はこんな男が大嫌いだ。毎日、あのインチキ占い師に1万4千円払ったのが虚しくなる。しかし、小林の12という数字は、スピリチュアルに頼らぬ実力を示していた様だ。坂野もさすがに驚いた。


「す、すごいね。1日1回以上のペースか」

「分かってないな。学校には休日というものも……あるんやで、ビロローン」


 ざまあみろ。作者の手にかかれば、こいつをダサくもできるんだい。だが、小林は予定通りに話を進める。そもそも、彼が自慢したいのか謙遜したいのか、それもよく分からん。あくまで上品にアクビをすると、唐海へ坂野をエスコートした。


「ま、共学だったら、大沢も一週間で6回だな。あとは、髪型を変えて、普段の心掛けを良くして、テストの成績を上げ、僕みたいにユーモアがあれば、文句なし」


 小林翼、少々ナルシストのようである。所詮、お前のユーモアなど「ビロローン」程度だ。それより、気になっていることを坂野は口にした。


「なんでノンキに、おみくじ引いてたの?」

「君と同じ理由。マメに生存確認しないと、大沢くん、ボクシングやめちゃうからね」


🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵


 その頃、唐海高校ボクシング部にて。


「頼もう! 道場破りです!」


 全員が振り返ると、どデカい外国人が仁王立ちしていた。コイツ、岩の塊みたいな男だ。まさかとは思うが、高校生なのか? 部室中がザワザワする。


「ああ、これはどうもご丁寧に。道場破りですか」


 そんなボクシング部顧問、河合先生を無視してその外国人は叫んだ。


「大沢トモアキはいるか!」

「……」


 みんな視線を送るが、大沢はマンガを読むのをやめない。表情ひとつ変化なし。


 マンガを読んじゃダメっていうなら、ボクシング部やめちゃうもんねーだ。河合先生にそんなコト言う大沢知也、失礼極まりない。

 しかし、全国大会優勝者を輩出し、テレビの取材が来て、美人アナウンサーと結婚したいという願望があるため、河合は渋々許している。


 そんな唐海ボクシング部のだらしなさに構わず、外国人は容赦なく大沢に近づく。


「お前か! かつて全国準優勝を誇った大沢トモアキってヤツは! 情報通りだ。やる気がない。強そうではない。それほどでもない」


 少し気に障ったのか、アホンはまるで自分が侮辱されたかのように反論した。


「本当に『それほどでもない』かは、勝負しないと分からないぞ」


 このアホンくん、なんていうか……1-1で出会うキャラって感じ。いや、学年とかクラスの話じゃなく、ザコキャラという意味で。だが、1-1の一言はやぶへびだった。


「……という事は、やっぱりコイツが大沢トモアキだな」

「違います。僕は宇宙怪人ビロローンです」


 それを聞いた瞬間、その外国人は乱雑に大沢のマンガを取り上げた。下手すりゃ噛み付きかねない。みんな面白くなさそうな顔で見ている……


 いや! 僕(=作者)がラノベを書いているのに、それは困る。これは面白い展開だ! 抱腹絶倒なお話だ! とにかく、アホンはその外国人の名前を聞いた。というか、聞いてあげた。


「あの、すいません。名前、なんていうんですか?」

「いい質問だ、そこのデブ。では、自己紹介をしよう……俺はダサイン王国のセコイだ!」


↓視線↓視線↓視線

「し、知らないよ。ダサイン王国には、4兆人も住んでいるんだから」

↑視線↑視線↑視線


「……そもそもだけど。なんなんだよ、ダサイン王国って」


 そんな不可思議な国、ダサイン王国のセコイは、周りなど気にせず大沢にケンカを売る。人が人の胸ぐらを掴むなんて、久しぶりに見た。


「お前を刺激するために来たのだ」

「宇宙怪人ビロローンより面白い話で頼むぜ」

「いいだろう。俺はチャンピオン、小林翼に練習試合で勝った!」


 その場が冷めた感じを「しーん」って表現することあるけど、実際に「しーん」って音、聞こえないよねえ。責任者、大沢トモアキ……いや、知也がセコイを軽くなだめた。


「あのさ、あくまで練習試合でしょ?」

「そりゃそうだ。ちゃんとした大会では、小林が優勝しているんだから。あ、コラ。大沢逃げるな」


 お願いだから、ダサイン王国がこんな人ばかりだと誤解しないでください。地の果てから聞こえる、ウッカリン大臣の声も虚しく、セコイは眼をギラギラさせる。


「大沢よ。貴様は小林に勝った、唯一の人間なんだろ? しかも、ちゃんとした大会で」

「もう何年も前の話だよ。僕だって、この前の『ちゃんとした大会』で、小林に負けたんだけど」


 ……


「お願いします。ルールを変えるから勝負してください」


 うーん。僕が書いたラノベの割には、セコイって実直なヤツだったのか。って、アレ。


「ちょっと待った! それは困る!」


 石川を出さねば。そりゃそうだ。


「そもそも、僕はボクシングのルールが分からないんだぞ。これ以上、このラノベに試合の場面を増やすな!」


 ちなみに彼(=作者)もボクシングを習った事はある。3年かけて、縄跳びだけは上手くなった。試合はしたことない……いいじゃないか別に! 進歩がなくても、3年続けるってスゴイじゃないか!


 というワケで、大沢VSセコイは



掟 1回でもダウンしたら負け。片膝でもついたら負け

以上 精進あるのみ



🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵

 

 成り行き上、大沢とセコイは試合をすることになった。だが、展開は一方的だ。


「そんなにやる気が無いのか?」


 大沢はどんどんリングの端に、追い詰められていく。セコイの勢いは半端じゃない。この男、ボクシングというか、勢いよくぶつかっているだけだ。でも、転んだら負け。掟は掟なのでこれでも勝てるか。だが、1年以上の付き合いがあるアホンは分かっていた。


「大沢くんのことだ。やる気がないなら、さっさと自分から倒れるよ」


 それもそうだ。どうせ大沢くんは、部活とマンガなら、断然マンガなのだから。さらによく観察すると……


「セコイのラッシュが、一発も大沢に当たってない」


 その通りだった。次々にパンチを打つセコイだが、かすりもしない。大振りで避けやすいとはいえ、全て見切って大沢はかわしている。疲れたのか、それとも情けないのか、息切れしながらセコイは怒り狂った。


「テメエ、いいかげんにしろ! 早く例のアッパーカットを見せやがれ!」

「出せないの、僕。アッパーカットのコマンド」


 大沢は変な腕組みをした。ちょいちょい90年代的なネタを入れるのは、作者の個人的趣味である。分かる人には分かるはず。このネタはZ世代もピンとくる人、多いかな?


「→↓↘Pのコマンド。↓↘→Pと↓↙←Kは出せるんだけどね」

「う、うるせえ! アニメ化したら、そこはどうするつもりなんだ!」

「アニメ化か。夢がありますなあ。じゃあ、セコイくん。派手なエフェクト入りのパンチを、はいどうぞ」


 多分、体力的に次の一発がセコイくんの限界だろう。沸き上がる格闘家の想いを胸に、セコイは🔥👊😡なパンチを勢いよく放った。しかし


「あ」

「はい転んだね。はい片膝ついたね」


🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵🍵


「うわさ以上の実力。才能の塊だな、大沢ってヤツは」


 部室の外で、ダサイン王国の二人は反省会をした。セコイは、ただただ感心するばかりだ。「ヤツこそ本当の旅人(ふうらいにん)だ」とか、ワケわからんこと言っている。無茶な当て字により、アニメ化がどんどん遠ざかっていく。すると、彼は帰り支度をしてアホンに尋ねた。


「もうひとつ知りたい。モグラって誰だ。というか何だ」

「……帰り支度したなら、帰ってよ」


 マンガを読み終えたのか、大胆に昼寝をする大沢。彼を見ながら、アホンはウワサを話した。この大沢という男がなぜ強いか。その真実の核心に少し迫る物語だった。大沢に一言断ろうかとも思ったが、アホンは取り敢えず話してしまった。


「交換留学で唐海高校に来たから、僕はあまり知らない。でも聞いたところによると、中等部1年の時、小林くんに勝ったあと、大沢くんはボクシングをやめようとした」

「え? 勝ったのにやめようとしたの?」

「うん。あまり話したがらないんだけどね。その時、大沢くんを引き止めて、プロでも通用するレベルにまで育て上げたのが、そのモグラらしい。かつて学生大会チャンピオンの栄光を手にした、唐海高校出身のプロボクサー、吹野英。通称モグラ。その由来は、何度でも沸き上がってくるモグラ叩き」


 それだけ聞くと、セコイは去ってゆく。まるで、そう。旅人のように。


【ふうらいにん】は旅人と書かず、普通に【風来人】と書けばいいのでは。そんなことを考えていたアホン。それほど知りたいワケではないが、一応最後に聞いてみた。


「セコイくんは、どこの生徒なの?」

「俺は旅人(さすらいびと)の高校生だ」

「当て字は一本化しようよ……で、どういう意味?」


 飲み終えた缶ジュースを、セコイはゴミ箱に放り投げる。大きく投げた空っぽの缶は、見事なほど、ゴミ箱を大きく外れた。このセコイという男もまた、1-2くらいの魅力しかないといった感じ。彼は早々と去って行った。


「退学になったんだ。説明したくもない理不尽な事情でね。ダサイン王国に帰る前に、アイツと勝負してみたかったんだ。うまくやれよ。いろんな意味でさ」

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