2話 どうでもいい物語の原点
「うおおお! ついに内定が決まったぞ!」
それから数年後。時は平成11年。高田隆(たかだ たかし)は女子高の先生になる事が決まった。夢にまで見た、女子生徒に囲まれる日々。学生時代、根暗で女子から無視された過去にサヨナラを告げる、人生二度目の誕生日……
【先生! おはようございます! 先生の今日の髪型、私は好きだなあ】
【やめてよ、美穂! 私と先生の邪魔をしないで!】
教師としての未来が頭を駆け巡る。このシチュエーションの場合は「ダメだぞ。先生にもプライベートがあるんだから」とか言って……
だが、お気づきのことと思うが、もっぱら周りにはこう噂をされている。
「あの高田さん。そこんじょそこらのバカとは、桁が違うくらいバカらしいですよ」
「女好きという、ドスケベ、ハレンチ、淫らな理由で志望したとか。まさにバカ」
「あと1点でもダメなら不合格だったそうよ。まさにバカ」
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【私が全部守ってあげるよ。守ってあげる!】
「……このセリフを生徒から引き出せば、模範的なんだな。もう一回、巻き戻そう」
その晩。隆は90年代に一世を風靡した、女子高生と教師が二人、禁断の関係になるドラマを見ていた。一話目にして、こんな危険な香りがする展開か……悪くない(このラノベは、Z世代にオススメとなっております)そこへ。
「隆! 何を見ておるんだ!」
隆の父、丈三(タケゾウ)が帰って来た。男・65歳。不適切にも……というか、ただの不適切オヤジである。髪の毛の「波」が「平」になっており、頭皮は薄い。
そんなことより、このままでは修羅場直行だ。隆は慌ててテレビを消そうとする。が、一歩遅かった。
【私が全部守ってあげるよ。守ってあげる!】
丈三は、ほぼその通りの事を言い当てた。
「……まさかとは思うが、隆。女子高の天海(あまみ)高校に、内定が決まったのではないだろうな?」
顔を近づける丈三に、隆は姿勢を正し、背筋を伸ばす。僕は競馬で借金を作った身なので、ここでメシを食わせてもらっている。衣食住(とテレビゲーム)の確保、そして女子生徒に囲まれる日々。この両立を図るためには、この父親に逆らってはいけない。
「いえ、父上! 内定したのは、男子校の唐海(からみ)高校です!」
なぜ、この様な現象が起きるのか説明しよう。この父親は、ある時からいい歳をした息子に「女性」という存在を、一切絶たせてきたのだ。逆効果とも知らず。
惜しいところまで進めた、恋愛ゲームのバッドエンドを見せる。この厳しい修業を、一日一回、隆に叩き込んでいる。丈三は今日も頭ごなしに怒りを爆発させた。
「分かっておるのか!? お前の母の様な悪女しか、この世にはおらん! 母さんと別れるまで、父さんは死ぬほどこき使われた。隆、我が高田家の掟は?」
隆は胴着に着替えて、三つの家訓を述べた。金科玉条(キンカギョクジョウ)それは、破ることなど許されない絶対、という意味。美しい四字熟語である。
「ひとつ。女性の半径10メートル以内に、近づいてはならない」
「よろしい」
「ひとつ。女は鬼か悪魔である」
「最後は」
「……かといって、男もバカである」
隆がそう言うと、丈三は満足そのものの笑顔を見せた。これらの家訓は、別に高田の伝統的なものではい。丈三の代から作った、いわばインスタントラーメンの様な家訓である。
「そうだ。男もバカである、という点が大事なのだ。そこで、隆にぴったりの嫁を見つけた。もう父さん、何も思い残すことはない。優美はチョベリグギャルな自慢の義娘だ」
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やってきました、天海女子高校の新学期。それっぽいネクタイも締めてみた。体育館の全校集会で、他の先生に交じりパイプ椅子に座る隆。正直……教師陣は目も当てられないな。やはり本来の目的を忘れてはいけない。美穂という生徒を探すタイミングは、きっとやってくる。
先にお伝えしておくと「美穂」という生徒は天海高校にいなかった。だから、どうということもないが……
それより書かなければならないのは、校長先生、上原邦夫の全校生徒に熱く語る感動である。少々音量を下げて読んでいただきたい。
「よいか! この女子高で、恋愛は一切禁止とする! 特に男子校の唐海高校とは、絶対にイチャイチャしてはならん! ちなみに……」
と、言って振り返る。一応説得力のある、隆のガラス玉みたいな目。それを見ると上原は不満気だが納得したようで、再び正面を向き生徒に釘を刺した。
「言っておくが、教師と付き合うなどはもってのほか。即刻退学で末代まで呪うぞ!」
厳正なる校則の原因は、もちろん分かり切っている。そしてお決まりのリサイタルの時間となった。聞いて驚け! 作詞作曲、上原邦夫「別れと男と、辛き道しるべ」
上原【想い人はケッコンしたが、それでも愛して電話をかける。出てくれなくても一日七回。明日は向こうがかけてくる! セリフ:電話番号を変えてもムダじゃ!】
校長先生は、今日もお変わりなくヒートアップしている。全校集会でストレスを発散しないと、精神的病に陥ってしまう。イチ教師の時代から貫く、もはや芸術である。
これまたお気付きかもしれないが、上原は一流のストーカーだったりする。しかし、浮気をしない人間の鏡ともいえる。色々な意味で感動的なスピーチだ。続きをお聞きください。
「唐海の校長、下原さんに道子を奪われたあの日。ワシは気が付いたのだ。恋愛は何も生み出さない!」
当然こんな話など、生徒の大半、いや全員ミリも聞いていない。【別れと男と、辛き道しるべ】は47番まであり、微妙なバージョン違いで聞くものを魅了するはず。
だが、結論から申し上げると、ちっとも魅了していない。作者がぶっちゃけてしまうけど「47番まである」「聞くものを魅了する」と書けばそれでいいかなと。
しかし、一時中断。ここで冷静になり、上原校長は咳払いをした。
「えー。今学期から数学の先生が一人、天海女子高校にやってきました。では、高田クンこちらへ」
生徒はちょっと興味をもったのか、体育館は水を打つようになった。隆の脳内を解説します。
(深呼吸。人の印象は見た目で決まる。笑顔を意識しろ。低めの声でいけ。若干変化球な挨拶で行くぞ)
自分に言い聞かせると、隆は教師として最初の一言を決めた!
「この度、この高校に赴任しました、高田隆です」
変化球のカケラもない、極めて普通の挨拶。しかし意外にも、かなりの拍手が巻き起こった。第1ステップ、問題なし。異常は確認されませんでした。このヨコシマな心こそ、おおまかな教師人生を(残念ながら)決定づけた。
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「では、高田先生。あとはこちらの二人が、学校を案内しますので」
すると、顔がそっくりな、中年女性教師のコンビがやってきた。蛇足、という言葉をご存じだろうか。それの権化がこの二人である。
「小場です。ワタクシは詰まる所、オバサンだから小場です」
「加山です。ワタクシは詰まる所、カヤマサンだから加山です」
「……あの、どういう事ですか?」
「どういうことも、何も。ワタクシたち、あなたが目も当てられないと思った、この天海高校、たった二人の女性教師ですわ」
隆はその後も色々質問したが、何を聞いても、右にホクロがあるのが小場、という事以外分からない。おまけに最後、ホクロがない方に、ねっとり見つめられた。蛇に睨まれた蛙の気分だった。
小場「あなた、まあまあ『いい男』ね。ワタクシが、もう少し若かったら、うふ」
加山「まあとにかく。あなたが生徒に好かれるか、それともナメられるか。楽しみに
していますよ」
小場「加山さん、好かれるか、ナメられるか。どっちに賭けます? ワタクシは、ナ
メられる方に10万円」
加山「やめてください、小場さん。ワタクシもナメられる方に賭けたいわぁ」
どっちのセリフかは、RPG風にしなければ見分けがつかない。しかし、どっちのセリフか分かっても、それはどっちでもいいセリフである。
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お昼前の4時間目。2年2組の扉を開けると、騒がしかった教室がシーンとなった。隆はオールフォーワンを感じた……もう後には引けない。勇気を出さないで後悔するより、勇気を出して失敗する方が、まだマシだ! オレ、突撃!
「今度、この2年の数学を担当する、高田隆だ。言っておくが、厳しく指導をする。このご時世だが体罰もアリだ‼」
ところが、オールフォーワンは思っていたのと少し違った。10秒も経たず、勇気を出さないで後悔した方がいいと判明した。
「先生、そういうのが好きなんだ」
もう後には引けない。生徒が笑い始ると、隆は簡単に取り乱す。おかしい。この後、誕生日と血液型を聞かれるはずなのに。そして「血液型はガタガタでした」と爆笑を誘う場面なのに。
「こ、こら。バカにしちゃダメなんだぞ!」
だが、隆の「ダメなんだぞ!」なんかで、アリ地獄から抜け出せやしない。生徒の純粋な笑顔が見たい。かけがえのない教師人生の目標は、さっそく達成してしまった。笑顔、というより軽蔑した顔で次々と野次が飛ぶ。
「先生。あれこれ罰している彼女いるんですか?」
「そ、そんなワケないだろう! 言っておくが、先生に奥さんはいるんだ! お散歩デートだけのお付き合いなんだ!」
「あー。そこで希実のこと見た! 希実、そういう目で見られてるよ」
バンっ!
「みんな。静かにしてください!」
名前などは後で知ったが、クラス委員長の坂野緑が机を叩いた。清く正しく美しくをモットーとする、我がラノベのヒロインである。一点の濁りもない優等生として、周りの生徒を厳しく注意した。
「この学校は恋愛禁止なのよ。高田先生は異性とはいえ、私たちとは教師、生徒の関係なんだから、失礼のないようにしてください」
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「ナメられましたか」
「そうですか」
「そりゃあ、そうでしょうね」
放課後。教師用の下駄箱でいじける隆を、小場と加山はあざ笑い帰って行った。この10万円で、高級な寿司を食べるとのこと。貸してくださいと言ったがダメだった。くださいとも言ったがダメだった。今月も返済しなければならないのに……僕の何がいけないんだ。
そこへ英語の澤山淳一先生がやってきて、隆の肩をポンと叩いた。
「高田先生。あなたも僕と同じ、数少ない男です。僕なんかは、ほら」
そう言って、澤山が自分の下駄箱を開けると、中にはラブレターが。10通もある。この人、ひいき目に見てもカッコよくはないのに。失礼極まりなくボケーっとする隆に、澤山は立場に甘んじたナルシストぶりを見せた。
「ま、僕はこんなもんです。もっともらっている先生もいるし、老いも若きも、ね」
「おお、今日は4通も入っとる!」
あそこで喜んでいるのは上原校長……澤山は呆れながら続ける。
「意味はいろいろあります。ふしだらな先生にヒイキしてほしいとか。でも、あんなクソジジイよりは、君の下駄箱にもっとラブレターがあるだろうね。じゃあ、お先に」
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帰って行った澤山を見送ると、深呼吸をして、自分の下駄箱を隆は開ける。僕は……僕は普段の心がけなら模範的だ! ゲームでも数々のナントカ姫を助けてきたのだ! すると!
「やったあ、一通入ってる!」
いざ書いてある場所へ出陣! 髪を無理やり七三分けに。鏡で歯の白さをチェック……残念ながら髪は坊主頭で、歯もやや黄ばんでいたが、準備万端。とにかく向かったのだが、そこには見覚えのある女子が待っていた。運命が……狂い始めた(いまさらだが)
その女子を見ると、予習通りのはずなのに隆は慌てはじめた。
「き、君は。僕が最初に授業をした時『静かにしなさい!』って助けてくれた……」
「そうですよ。その坂野緑です」
今日、生徒にからかわれた隆を助けた、クラス委員長からのラブレターだった。ここまできて、自分の過ちに気が付いた。僕は趣味がクラッシック鑑賞という、爽やかさがウリだった。エリート教師に出世するための展開としてはマズイ。と、とにかく取り繕うんだ。
「坂野さんは、もっと節度のある生徒だと思っていたのに!」
「あれあれ? 高田先生こそ生徒の手紙を本気にする、節度のない先生じゃん」
一撃で勝負は決まった。い、いや。まだ切り札は残っている!
「お、大人をバカにしちゃダメなんだぞ!」
切り札は弱かった。バラエティーのかけらもない、ワンパターンな動揺をする隆。そんな彼に坂野は無理やり腕を組む。
「ね、先生。先生の家に遊びに行きたいなぁ」
「ば、バカ言うな! そんなことしてはイカン!」
「どうして? 私には借りがあるはずじゃない?」
どうもここまで計算して、坂野は隆を助けたようだ。この手の男などチョロいといった、涙目を浮かべる。潤んだ瞳……人の弱みに付け込まれてしまう(人がこんなに弱くては、たまったもんじゃないが)
「ひどい。見捨てるんですか? どうして……?」
「ど、どうしてって……世のため、人のためだ」
「じゃあ、人のためにお願いします。健気な女の子を見捨てないのが、人のためでしょ?」
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