第2話「悪魔の誘い」

ダイニングテーブルの上に留まり、僕とウイスキーと交互に視線を向ける厨二カラス。

その上、「酒など久しく飲んでおらぬのである」と斜め上から言われると、「カラスのくせに酒を飲むのかよ」とため息が出る。

「召喚者である其方の命あらば人の姿となれる」

「さっきは、僕の願いを聞く。とか言ってなかったか?」

「其方が望まぬのではないか。其方の願いなど後でよい。今は酒を飲ませてくれぬか?」

僕の中で『酒を飲ませれば帰るかもしれない』とわずかな希望が湧き上がった。

「はあ——人の姿になってくれ。それで、酒飲んだら帰れよ」


小さく羽ばたいて床に降りたカラスが、黒い霧になり小さな渦を巻き始める。それは静かに大きくなり、勢いを増し、やがて何かを包み込むように渦が育っていく。その渦巻く霧が突然晴れると、初老の男性が一人立っていた。

「マジかよ……」目の前の光景に、夢と現実の境界が曖昧になる感覚に陥り、緊張と不安で手に汗を握り固唾を呑んだ。

現れた男は、黒髪をオールバックに整え、黒いコートを羽織り、痩せてはいるが、僕と変わらない百八十五センチほどの長身。佇まいはどこか気品にあふれ、これが人間であれば、羨ましい歳の重ねかただと思った。

「人の姿になるのはいつぶりであるかな。其方に感謝する」

「感謝ついでに、酒を飲んだらさっさと帰れよ」

厨二カラスが変身した男に、緊張に震える手でグラスを差し出すと、彼は椅子に腰を下ろし、静かにグラスを受け取った。

いつまでも居座られても困るだけだ……早く飲ませて帰らせようと、ボトルを手にした僕を、男がじっと見つめていた。

「其方は何故腰掛けぬ」

「酒を飲みたいって言ったのはお前だろ」

「某の名はラウムである」

「はいはい」

どうせ酒を飲ませたら帰らせるんだし、名前なんてどうでもいい。

「まあよい。酒は語らいながら飲むのが美味いのである」

「僕は飲まないよ」

「ならば某は居座るのみ」——この男、僕の考えを見透かしているのか?


さっきの緊張はいつの間にか呆れに変わり、僕はため息をつきつつ、自分のグラスを手にする。ラウムの対面に腰掛け、そのまま黙ってボトルの封を切り、二つのグラスにウイスキーを注いだ。

「うむ、それでは飲むといたそう」どことなく声を弾ませたラウムに、僕は「それで、何の話をするんだよ」と問いかけた。

ラウムは、琥珀色のウイスキーが放つ新樽特有の香りを堪能するように、ゆっくりとグラスを揺らしながら言葉を紡ぐ。

「其方の過去を少し見せてもらった。浅いところだけではあるが、興味深いものであった」

「一瞬、何か嫌な感覚がしたのは、お前の仕業だったのか?」

グラスに氷を入れ忘れたことを少し後悔しつつ、僕はウイスキーを一口含む。

「然様、不快な思いをさせたのならすまぬ。それと某の名はラウムである」

鼻から抜けるクセのない香りが、低い声でゆっくりと単調に紡がれるラウムの言葉を、心地よく感じさせてくれる。

「ラウムって呼べってことね——」


——グラスに口を付けたラウムは、目の前の男の過去を振り返り思案し始める。

『この男はいったい何者なのか、某が探った過去は、目の前で酒を飲むこの男の過去なのであろうか……分からぬ——だが、まずは話の手綱を握れば誘導できよう……』


「うむ。少し気付いたことがあるのだが、話してもよいか?」

「そこまで思わせ振りに言ったなら、全部話してもいいんじゃないか?」

少しの沈黙のあと、ラウムはゆっくりと話し始めた。

「其方は他人に抱く感情を、飲み込んでおる」

それは何の根拠もなく、意味の理解にも苦しむような言葉なのに、僕は全てを見透かされたような気持ちになり、胸の鼓動が早まるのを感じた。

心を落ち着かせるかのように、グラスに口を付ける僕に、ラウムは話を続ける。

「某が過去を見るというのは、過去の出来事を見ると同時に、その者の抱いた感情を得ることが出来る。其方は元来感情の起伏が激しい」ラウムはグラスに目を落とした。

「其方は、他者に対して大人しく温厚な人間との印象を与えるが、実のところそうではない。些細なことでも、激しく怒り、恨み、嫌悪し、嫉妬し、軽蔑し、時に殺意を抱くことさえある」

ひとつずつ紡がれた言葉に反応するように、理解しえない何かが僕を支配していくような感覚に陥る。

グラスに落としていたラウムの目が、ゆっくりと僕に移り何かを窺っているようだ。

「其方は激しく湧き上がるそれらの感情を、瞬時に心の深淵とでもいうべきところに押し込めてしまい、他者に見せることはない」

僕にそんな器用なことはできない——いや、する必要がない、絶対にできない。だから、ラウムの話は絵空事でしかない。だが、その絵空事に激しい嫌悪感を抱いた。僕はそれを認めない……ずっと……

「何をいうかと思えば……」

乾いた口を潤そうと、グラスを一気に飲み干す。そして、その絵空事に対する反論を、知りえる限りの言葉の中から選び出す。

「馬鹿馬鹿しい……」

——これしか出てこなかった。幼稚で低俗な言葉だが、否定できないことを認める言葉にもなってしまった。


ラウムは何か確信を得たように、黒い瞳を怪しく輝かせ、さらに言葉を重ねる。

「其方は某に対する感情を全て飲み込み、こうして酒を酌み交わしておるではないか。人間から見れば明らかに異形の存在である某を、拒絶することなく受け入れることが、人間にとって容易でないことは理解できるであろう」

僕のグラスに酒を注ぐラウムに「——嫌なヤツだとは思ってるけどな」と視線を向ける。

「まあ、そう言うでない。人間は感情を抑える事はできても、消し去ることはできぬ。其方は抱いた感情を、某でもすぐには気付かぬほどに隠しておる。某が飲み込むと言ったのは、其方のやっていることを表現するに相応しいからである」

ラウムはグラスを飲み干し、催促するように僕にグラスを差し出した。

「飲み込んでしまった感情を、其方は出すことができぬ。自身さえ分からぬほど、巧妙に押し込めているからであろう」

——自分のことが分からないはずがない……僕は黙って差し出されたグラスにウイスキーを注ぐ。

「行き場を失った感情は、混ざり合ううちに、感情とは異なる何かとなり貯め込まれておる」

ラウムは探るような視線を僕に向けたまま、何かを引き出すような口調で話を続ける。

「その何かを、我ら悪魔は、力として使うことができる。その力の根源となる何かを、某たちは単に『力』と呼ぶが、其方ら人間は『魔力』と呼んでおる」

魔力と聞いて、僕は口を開きかけたが、やめた。口を挟んだところで、ラウムのペースに呑まれるだけのような気がしたからだ。

「そして其方はその魔力を、貯めるだけでなく其方の中で増幅しておるように見える」

何を意味の分からないことを言っているんだ——続きを遮ろうとする僕を阻むかのように、ラウムの言葉は続く。

「そのような存在である其方が、手紙に描かれていた、某を召喚する魔法陣に触れたとき、魔力が魔法陣に流れ込んだ。まるで、某を求めるかのように」

もう僕には何を言ってるのか理解できない。現実なのか夢なのか……ファンタジーの世界に迷い込んだのか……

ラウムはゆっくりグラスを傾け喉を潤し、「某はそうして召喚されたのであるな」と吐息のように呟いた。

「求めてなんていない……」

否定する僕に、ラウムは鋭い目を向けた。

「その言葉は是であるな。魔法陣は魔力を使う触媒となるゆえ、其方の意思は関係なかったのであろう」

「何なんだよいったい……」

「某が驚いたのは、魔法陣を使ったとはいえ、其方の意思に関係なく某が召喚されたからである。それほど其方の魔力は桁違いの量と質なのである」

「そんな力なんて認めない……」

続く言葉がもう出てこない……僕は黙り込んでグラスに揺れる琥珀色の液体を見つめた。


——その様子を見ながらラウムは、目の前にいる男の近い未来を探り、思案を重ねる。

『この者が認めぬ魔力は、この者に計り知れぬほど宿っておる。だが、同時に限界も近いようである。この者は彼奴が語っていた人間ではあるまいか。否、そうでなくとも、某がこの者に力を貸すことは利となるであろう』


ラウムが勧めるようにボトルを差し出すのを見て、僕はグラスを飲み干した。

「認める必要などない。それが其方という存在。それと、もうひとつ分かったことがある」

僕のグラスにウイスキーを注ぐラウムを「——また、つまらないことだろ」と睨みつける。

「然様、つまらぬ話だ」

ラウムは僕がグラスに口を付けるのを待って話し始めた。

「其方の魔力を生み出す根源は、其方自身に危害を及ぼすであろう」

「僕自身に危害?」この『危害』という言葉が具体的に何を示すか分からないが、僕の身体を損なう何かであることは理解できる。その言葉を信じるも信じないも、僕の考え次第だが、聞き捨てることはできない。

「然様、人間が己の許容を超えて魔力を溜めると、魔力は出口を探すかのように暴走する。その結果、其方は死する運命にある」


「……どういうこと?」——僕は思わず息を呑んだ。

「なに、某は過去を見るのと同じように、未来を見ることもできるゆえ——」

「僕の身体が魔力で爆発でもするのか?」

僕の不安など気にする様子も見せず、ラウムは抑揚のない単調な声で、僕の死を告げる。


「——自死である」


その一言が落ちた瞬間、僕の頭は真っ白になった。時が止まったかのように、静寂が支配し、早まった心臓の音だけが耳に響く。

冷酷無慈悲な言葉を突き付けたとは思えないほど、冷静な表情でグラスを傾けるラウムを見て、僕は微笑んだ。心に生まれた、澱んだ感情が全て消え去り、ただ冷静に言葉を振り返る。

「そうか、僕は自殺するんだ……」

言葉に出すことによって、今が現実だと認識できた。同時に夢の中にいるかのように、自分の声が他人のもののようにも聞こえた。

死は免れない。それは理解はしている。だが、死を知ることは恐怖となる。僕は乾いた口に一気にグラスを流し込んだ。


——ラウムが自死の未来を告げた男は、微笑みを浮かべていた。その柔らかい微笑みに似つかわしくない、輝きを失った瞳を興味深げに眺め、ラウムは考えを巡らせる。

『なるほど、この笑みであるか。もはや某では分からぬこと、この男を探り、彼奴の見解を聞くべきであるな』


「まあよい、其方の死は某にも都合が悪い」

ラウムは自らのグラスに並々とウイスキーを注ぐと、僕のグラスにもウイスキーを注ぎながら「其方、某に魔力を貸さぬか?」と顔を近づけてきた。

僕はラウムの存在を思い出し、深く深呼吸する。今の言葉に返事をするには、少しでも冷静でなければいけない気がした。

悪魔に魔力を貸すとは、どのような結果を生むのだろう?自ら悪魔を名乗るくらいだから、褒められた目的とは思えない。

「魔力を?何のために魔力を?」

「某はこの世界を、この目で見たい」

ラウムは静かな口調で話をつなぐ。

「其方に召喚された某は、召喚を解かぬ限り、この姿で人間の世界に顕現できる。そして、召喚者である其方が認めれば、其方の魔力を借りることもできる」

「世界を見る目的は?」

その問いかけに、ラウムは顎を右手で撫で、顔を少し上げて思案する。

「興味深きこと、確かめたきことがある——手に入れたきものもある」

ラウムの意外な目的に少し安心した。だが、結局は自らの関心事のために、僕の魔力を都合よく使うだけでしかない。

「僕に何のメリットがあるのさ」

「うむ、其方の望みを幾度でもきこう。其方の魔力を借りれば容易いことであるゆえ」

「それが僕の死と、どう関係があるんだ?」

「其方の望みを叶えることで、其方の自死を回避し得るゆえである」

「でも、僕は何も望まない」

「ささやかな望みであれば、近いうちに生まれよう」


ラウムがどこまで僕のことを把握しているのか、どんな意図で話を持ち掛けているのか分からない。だが、このまま駆け引きを続けるのは不利でしかない。無駄なやり取りを続けるくらいなら、一気に話を進めたほうがいいだろう。

僕は覚悟を決めて、伝家の宝刀を抜いた。

「——好きにしなよ」

ずっと無表情だったラウムが目を見開き、不気味な微笑みを浮かべた。

「その言葉、是と理解しよう」

ラウムの微笑みを見て、納刀できない刃に後悔し、付け焼刃的に条件を加える。

「僕が望まないことに、僕の魔力を使うことは許さない」

「確と誓おう」

ラウムは微笑みの消えた顔で、僕に酒を勧めながら話を続ける。

「だが、まずは其方の魔力が、其方の心を暴走させるのを防がねばならぬな」

「暴走?」

「其方に溜め込まれた魔力は、元を辿れば其方が抱いた感情であるゆえに、暴走すると、あらゆる感情が心に溢れ出るやもしれぬ」

「魔力が感情にもどるのか?」

「然様、其方は魔力の形を変えて使えぬゆえ」

「魔力の形を変える?」聞き返してはみたものの、もはや理解することはやめたほうが良さそうだ。そういうものだと理解しておこう。

「そうであるな……某ならば、その魔力を人の尊厳を貶めたり、財宝を探すために使える。古き時代の人間は、某たちの召喚や魔術として使ったはずである」

「でもさ、感情が魔力になって、魔力が感情に戻るだけで、僕が自殺する理由が分からないんだけど」

「其方の魔力は増幅されると申したであろう。其方が生んだ何十倍もの魔力が、あらゆる感情となり心の深淵から湧き上がってくる。それが心の中で濁流のように流れ渦巻き、其方の心が限界を迎えた時、其方は意思のないままに行動を起こす。その結果として自死を招く」

再び、ラウムは顎を撫でながら、何かを思案しているようだ。

「そうであるな……無意識で死に臨む……そう言えば理解できよう」


——その言葉は、まるで僕の心の奥底にある何かを見抜いているようだった。

時間が止まったような感覚に包まれて、自分のことを振り返る。そう、これまでに数えられないほど死に臨んだ。今日だってそうだ。

しかも、身体は無意識のうちに行動に移る。本当は、死を望んでなどいない。しかし、結果は望んだとしか思えない。

それを食い止めるためなのか、意識の届かないところでの本心なのか分からないが、その度に僕はくだらない願望を抱く。


——いい女と戯れたい。


その気持ちが湧き上がると、漠然と望む死を回避できる……だが、それは僕が意図した願望ではない。——この身体を生かす目的かもしれない。

考えを巡らせる僕に、ラウムは正に人間味のない表情で、さらに言葉を投げかけてくる。

「今のままでは最期に死を意識することすらないであろう」

その言葉に僕はさらに考えを巡らせる。そして、確定している死に対するひとつの疑念を生んだ。

「変えられるのか?」

「然様、そのために某が必要となる」

ラウムは表情ひとつ変えず、即答した。

「その根拠は?」

「某が其方の魔力を使えるからである」

理解ができないのは仕方がない。だが今の言葉を信じてもいいのだろうか。仮に僕の魔力をラウムが使えても、確定した死を回避する理由にはならない。

「本来、某は召喚者の命を代償に願いを叶えるのだが、これは互いに利のあることである。其方の生あるうちは某の顕現を維持し、某という存在が其方の生を守る。悪い話ではなかろう」

理解どころかもはや言っている意味すら分からない。だが、命を代償に願いを叶える存在が、僕を守る理由がどこにあるんだ。

「なぜそう思う?」

「其方は死を望んでおらぬ」

その言葉は素直に理解できた。生きる理由もないが、死を望んでもいない。

これだけ自信をもって返答してくるんだ、どうせ死が確定しているのなら、ラウムに協力するのも吝かではない。


——ラウムの話に懸けてみよう。

「僕の魔力とやらは……好きに使ってくれるといい……それで僕は何をすればいい?」

ラウムは「これまでどおりで良い——然らば、これを契約の証といたそう——」とグラスを掲げた。

何かを求められると思っていた僕には、拍子抜けするような言葉が返ってきた。

グラスを掲げ、チンと小さな音を立て、互いのグラスに残った酒を同時に飲み干す。

グラスに口をつける僕の目に、ラウムの不敵な笑みが映った……僕はとんでもないことをしてしまったのではないだろうか。

そして、それ以上の会話は途切れ、暗い話と酒がすすんだせいもあってか、静まり返った部屋で二人はウイスキーを飲み続ける。

二つのグラスがテーブルを叩く音だけが響く中、なるようになればいいさ……そう何度も心で繰り返していると、ふいにラウムが口を開いた。

「場が白けてしまったのであるな」

「ラウムのせいだろ」

「然様であるな」

再び会話が途切れた。酒の席は一度白けてしまうと取り返しがつかない。今夜は暗い酒で終わってしまいそうだ。

沈黙が続く中、『暗い酒を飲むなら、せめて女性に酌くらいして欲しいもんだ……』とぼんやり考えた直後、ラウムが「女であるな。しばし待て」と声を上げた。

ラウムの声に呼応するように、リビングに黒い霧が立ち込め、ゆっくりと渦巻きひとつに纏まると、そこに緑色に輝く何かが飛び込んだ。

「其方の魔力は、某と相性が良いようだ」

何を言っているのか分からないが、カラスが変身した悪魔と、相性が良くても嬉しくない。

何気なく眺めていた霧が晴れると、そこには人が立っていた。思いもよらなかった光景に、僕は息を呑んだ。目の前で起こったありえない現象もそうだが、現れた女性の美しさのほうが大きな理由だ。

「これは……」女性は小さく声を上げた。

「汝、名をなんと申す」

「——ジョアンナ」困惑の表情を浮かべた女性が僕を見る。——美しい。

淡くも健康的な色の肌に、清楚で整った顔立ち、困惑の表情と潤んだ瞳で僕を見つめてくる。

僕は緊張と恥ずかしさで、それ以上彼女を見ることができなかった。

「あなたは?」

「えっ、あっ……相葉……耀と言います……」

「ヨウさま——」

彼女は微風に乗って届くかのように柔らかく、それでいてどこか物悲しさを帯びた声で、僕の名を自らの心に刻み込むかのように呟いた。

「其方の名は耀と申すのか」

空気を読まずに、今さらな事を言い出したラウムを睨む。

「僕の過去を見たなら知ってるだろう。それと、この人はどういう事だ」

「其方の口から、名を聞いたのは初めてであろう。それに、其方が女を望んだのではないか。良い女であろう」

「勝手に心を読むなよ」

「其方が望むのを待っておったのだ。其方の思いを読まねば始まらぬであろう」

「どこから連れてきたんだよ」

ラウムは変わらぬ表情でグラスを傾けた。一方のジョアンナは胸元を押さえ、困ったように立ち尽くしている。

「こやつは夢魔と呼ばれる存在である。サキュバスと言えば理解できよう。彷徨っていた強い思念を持つ夢魔に、其方の魔力と某の術で肉体を与えたのである」

「与えたのである。じゃないだろ!帰ってもらえよ」

「戻る場所など持たぬゆえ、それはできぬ。仮初めの肉体とはいえ、人間のものと違わぬ身体の女を、其方は野に放つのであるか?」

突然現れた美しい女性ジョアンナを放置して、二人の問答は続く。

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