微笑みが呼ぶ悪魔
おむすび先輩
第1章「契約」
第1話「カラス召喚」
「——某を召喚したのは、其方であるか?」
カラスが足元からじっと僕を見上げている。黒く怪しく輝くその瞳は、僕の心の深淵までも覗こうとしているようだ。
「——ほう、これは……」
真っ白な封筒に入っていた真っ黒な手紙。それを手にした瞬間、あたりが眩しい光に包まれた。
思わず床に落とした手紙に描かれた不思議な紋様。その中心から湧き上がるように現れた一羽のカラス。そのカラスに上から目線で話しかけられている。
——僕の名前は、相葉耀。今年、三十一歳になるバツあり自称独身貴族。
「カラス?なんで?」
「某を召喚したのは、其方かと聞いておる」
「カラスが喋ったのか?」
「姿はカラスであるが、某は其方ら人間が悪魔と呼ぶ存在である」
「手紙の中からカラスの悪魔が出てきた?」
「其方、手紙と申したか……」
沈黙したカラスは、黒く光る瞳でじっと僕を見つめ続けている。
何が起こっているのか分からず、ただ呆然と立ち尽くす僕に、自称『悪魔のカラス』は再び話しかけてきた。
「其方は自らの意思なく、某を召喚したと申すのか?」
床に立ち、偉そうな口調で意味不明な話を続けるカラスに悪魔の威厳など全くなく、それはもはや滑稽でしかない。
「意思も何も、ただ手紙を開いただけだ」
「手紙などで、某が召喚されるわけがなかろう」
「カラスでなくても、手紙から出てくることはないと思う。どんなタネか分からないけど帰ってくれないかな?」
「それはできぬ。召喚者の願いを聞かねば、某が顕現した意味がなかろう」
理由は分からないが、カラスは終始斜め上の理屈で話を進めてくる。しかも、勝手に出てきて願いを言えとか。
僕はこの無意味な問答を終わらせたくて、「いや、僕は召喚しようなんて思っていなかった。だからさっきまで願いなんてなかったんだけど、今一番の願いは君に帰って欲しいことかな」と少し声を張った。
——ここは紛れもなく僕の家だ。居心地がいいわけではないが、『順調』とは言えない日々に、酒を飲んで寝るくらいの癒しは与えてくれる。
いわば最後の砦なのに、突然現れた自称悪魔のカラスに偉そうにされるなんて、どれだけついてない日なんだ。
「それはできぬと申したであろう」とカラスは僕に背を向け、小さな足音を響かせて少し距離を取り、ぴょんと跳ねて振り返った。
「其方の意思なく召喚するなど、あり得ぬ話である。さあ、願いを申せ」
「何なんだ、願いって……」状況が分からず、戸惑い、黙り込んだ僕を見て、自称悪魔のカラスは首を左右に振った。
「まあ良い、其方が望みを言わぬなら、某が其方の望みを探るまでである」
カラスが大きく羽ばたくと、黒い霧が吹き出し、僕の周りで音もなく渦を巻き始める。渦巻く霧に呑まれるように、意識が周りの空気に溶け込むような感覚に陥る。それは、疲れ果てて寝落ちする時に似た感覚だが、なぜか意識ははっきりしている。しかし身体は動かない。
簡単に避けられたはずのあの霧を、僕はなぜ避けなかったんだ……
——それは、数時間前の出来事。
「何を言ってるんだ。頼んだ内容と全然違うじゃないか」
元同僚の伝手で、やっと仕事にありつけた取引先の応接室に立っていた。そう、立っていたんだ。もう終わったはずなのに、なぜこんなところに僕は戻ってきたんだ……そうか、あの霧のせいか。
「いえ、そんなことはありません。頂いた契約どおりの……」
僕が数時間前の僕を見ている感覚……不思議だ。
「いつの話をしてるんだ?三日前に変更すると伝えただろう」
数時間前の僕を見下す喜多原部長の、粘りつくような声が響くたび、空気はじっとりと重くなっていく。
「その日には、もうほとんど完成していました。ですから、変更はお断りしたはずです」
「断るだ?お前に断れるわけないだろう。変更しなければ、使い道のないシステムになるだけだ。そんなことも理解できんのか?」
この、喜多原保という、背が低く小太りで、ハゲ散らかした頭の中年は、この会社で調達を牛耳っている。
元同僚が喜多原部長に僕を高く売り込み、業務システム再構築プロジェクトの仕事にねじ込んでくれた。
「そうは申されましても——では、どうすれば……」
「とりあえず、その出来損ないを引き渡してもらおう。あとは他の会社に頼む。後でお前の貢献度を私が評価して、それに応じた額を支払ってやろう」
「しかし……」あまりに理不尽な要求だが、僕ははっきりと断ることができなかった。
「つべこべ言わずに言われたとおりにしろ!いいや、言われたとおりにするしか、お前にはできないはずだが」
「では、変更に応じます……」
「納期は明日までだ。違約金を払う覚悟があるのならあと三日待とう」
「違約金?」
「そうだ。契約書に書いてあるだろう?契約どおりの仕事と言うなら、そのあたりもちゃんと理解しての発言だろ?」
たしかにそうかもしれないが、契約書の内容など覚えていない僕は反論することができなかった。
「お前に温情をかけて、出来損ないにいくらか払ってやろうと言ってるんだ」
恩着せがましく撫でるように言ったその言葉は、信用に値しない。口元には堪えきれなかったであろう、不敵な笑みが零れている。
「分かりました」
「分かったならさっさと引き渡す準備をしろ。明日中に引き渡さなければ、容赦はせんぞ」
僕は思わず、微笑んでしまった——そして、「そうですか」と一言だけ呟いた。
目の前の男が、趣味の悪いただの置物にしか思えなくなり、湧き上がりかけた感情がスッと消えていく……
「何を笑ってるんだ!気持ち悪い!分かったならさっさと帰って言われたとおりに進めろ!」
凄んでいるのか知らないが、声を張り上げる姿も滑稽に思える。こんな男なんか簡単に殺せる。そう、殺してしまえばいいがその価値はない。そんな思考と入れ替わるように、僕は深い闇に包まれる感覚に陥っていく。
「ああ、それと請求書は見積もりどおりの額で出してくれよ」
殺すまでもないくだらない男を無視して、部屋を出ようとする僕の背中にかけられたその言葉に、僕は振り返ることなく、微笑んで応じる。
「——分かりました」
——とりあえず逃げ出せた。
僕は嫌なことや、逃げたい気持ちが湧き上がると、つい微笑んでしまう。いや、『無意識に微笑んでしまう』と言った方が正しい。
これで多くの人に不快感を与えてきたことは自覚している。でもこれは、幼い頃からずっと僕を支配し続けている。
包まれていた闇から解放された僕は、「ダメだったか……」とため息をついた。
「もう少しコミュニケーションを取っていれば、こんなことにはならなかったのかな……」今さらな反省の言葉は誰にも届かない。
嫌なことは忘れようと、完成とは言い難い成果物を送りつけて、帰路についた僕は、暗くなった空を見上げた。
「あいつの伝手でありついた仕事も、このざまだもんな……」
今度は暗い空に吸い込まれそうな感覚に囚われる。
「——死ねるな」
そう呟いた瞬間、僕の周りの空気が重く澱んだような気がした。同時に僕は流されるような感覚に陥る……
——生まれつきなのか、育った環境のせいなのか、僕は人付き合いが苦手だった。
大学を卒業して、何とか就職できた会社でも、同僚、上司、取引先とも馴染めず、大した実績もないのに無駄に高い給料を、申し訳なくもらっている。
「ダメか……」受話器を置いた僕はため息をついた。
「なに落ち込んでんだよ」
デスクでうつむく僕に話しかけてくる男、会社で唯一、僕のことを気にかけてくれる、同期入社の袴田悠斗。
「悠斗も協力してくれた取引先への提案が、正式に不採用になったよ……」
性格も明るく、爽やかイケメンの悠斗は、エンジニアとして一流とも言える才能を持っていて、まさに『選ばれた男』と言える。今回の企画も『俺も手伝うから、後のことは気にせず決めてこいよ』なんて言ってくれていた。
「うそだろ……結構うまくいってるって言ってたよな?」
悠斗の言葉に、僕の心は悔しさと申し訳なさで満たされていく。
「ああ……そのはずだったけど、クライアントから断られたって……」
「でもよ。あれはクライアントと何度も打合せを重ねて、何度も修正してたし、採用は間違いなかっただろ。俺もいい企画だったと思うぜ」
「そうなんだよな……僕も自信を持ってた企画だった」
悠斗はしばらく黙って僕を見つめていたが、ふいに表情を引き締め、顔を少し近づけて「不採用は誰から伝えられた?」と小声で尋ねてきた。
「部長だよ」間近で見るその横顔は、イケメン過ぎて男の僕でさえ惚れてしまいそうだ。
「あの野郎……一言文句を言ってやるぜ!」そう吐き捨てて、悠斗は部屋を後にする。
「——いい奴だよな」その背中は頼りがいがある。だが、どこかで悠斗を信じられない自分もいる。
本心から僕のために声を荒げてくれる人なんて、今までどれだけいたのだろうか。僕は、微笑みを浮かべて悠斗を見送った。——僕の中にあった、悔しさも、心苦しさも、疑心の念すらすべてが消え去っていく。
そして、悠斗が部屋のドアを閉めると同時に、僕は再び流されるような感覚に陥る。それは一瞬、時間を遡るように流れる……抵抗することはできないだろうし、抵抗する気も起こらない。
——うだつの上がらない僕にも、好意を持ってくれる異性が現れた。
彼女の想いに流されるがままに結婚し、つらい事があっても、家に帰れば癒される幸せができた。
「お帰りなさい」と玄関まで出迎えてくれた妻が、僕のかばんを受け取ってくれる。そんな何気ないことすら幸せに思える。
「ただいま。知紗」
「ねえ、耀たん。一緒にお風呂入りましょうよ……」
知紗からのお風呂への誘いは、その後のベッドへの誘いも含んでいる。
「ああ。ご飯を食べたら一緒に入ろう」
「嬉しい……」頬を染める知紗を、なぜか不思議に思う自分がいた。
そんな生活を送りながら季節は巡り、半年が過ぎた頃、僕は知紗の言動に何か違和感を覚えるようになった。ほんの些細なことであるが……いや、この違和感は知紗と付き合い始めた頃から、ずっとあったような気もする。
「ただいま」玄関に入るとリビングから知紗が顔をのぞかせた。
「お帰り。今日は一緒にお風呂に入りましょう」僕を誘うその手にはスマホが握られている。
「いや、今日はシャワーだけで済ませたいんだ」
「それはダメよ。もう準備できてるんだから、一緒に入らなきゃダメ」
知紗は優しい笑顔を浮かべているが、その声は一瞬硬くなり、視線が鋭く僕を突き刺した。その僅かな変化で、僕の拒否は許されないことを理解した。
「分かったよ。一緒に入ろう」と微笑むと、心からあらゆるわだかまりが消え去り、目の前の妻が妻ではなく、ただの女性へと変わる。
知紗は新婚当初から、一緒にお風呂に入ると僕の身体を洗ってくれ、その間、僕は知紗の話を聞かされる。
「耀たんならもっとできると思うの」
「それは、高く買い過ぎだよ」
「ううん。絶対にもっと評価されるべきだと思うの」
近頃はこんな話が増えてきたような気がする。違和感の正体はこれだろうか。
「知紗が僕を贔屓目で見ているからだと思うよ。現に会社ではそんなに評価されてないし」
「違うの、耀たん。もっと自由にできる道があるんじゃないかな、って思って……独立しちゃうとかさ」
「独立?」思わず聞き返した僕の顔を、知紗は笑顔で見つめる。だが、その瞳は何かを探るようにも見えた。
知紗は僕の分身を優しく手で包み洗いながら「そうよ——ここだけじゃなくて、耀たんも立つときだと思うわ」と微笑んだ。
夫婦同士の親密な表現に過ぎないが、知紗の甘く優しく囁かれるような声とは裏腹に、一瞬僕を見た彼女の瞳の奥からは、得体の知れない威圧的なものを感じた。
『そうじゃない、知紗は会社で実績を残せず、苦しんでいる僕のために真剣に考えて逃げ道を作ってくれたんだ』
違和感を振り払うようにそう信じるが、無意識のうちに、僕は知紗に微笑んだ。すべての迷いと感情が消え去る……
「分かったよ。知紗も手伝ってくれるかい?」
「もちろんよ。私は勤めていた頃、経理をやってたんだから任せて」
お風呂から出た僕は、知紗に手を引かれ寝室へ向かう。
「お仕事、一緒に頑張るから、今夜は耀たんが頑張ってね」
僕の中では一人の女性と化した知紗に愛情など感じない。だが、知紗の言うとおりにしていれば、彼女から感じる違和感もいずれなくなるのではないだろうか……彼女の手に温かみなど感じなかった。
二ヶ月後、僕は知紗に催促されるように、会社を辞めて、フリーランスのエンジニアとして独立した。
知紗が「耀たん、通帳預かるわね」と三冊の通帳を掲げて僕に見せる。
「あぁ、でも、無理はしないでほしいんだ」
「大丈夫よ。それにこまめな記帳が利益を生むものなのよ」
「そうなのか、知紗はやっぱり詳しいな」
「うふふ……私に任せて!」
胸を張る知紗の頼もしさ——それを信頼し、全てを預けた。
元職場の伝手を使いつつ始めた営業活動が、思わぬ成果を生み、順調なスタートを切ることができた。
「耀たん。すごいわよ。今までの収入が嘘みたい」
僕の身体を洗いながら、知紗は喜んでいる。
「知紗がこまめに管理してくれてるからだよ」
「嬉しいわ。ついに耀たんの時代が来たって感じね!」
不思議だ……今の言葉は僕に向けられたものじゃない気がした。
独立して一年が過ぎる頃、当初の勢いは頭打ちになり始めた。
「売上げが下がってきたわね。最初が順調過ぎただけかしら?」
「ごめんな。僕はどうも人付き合いが苦手で、人を突き放してしまうようなことをしてしまってるのかもしれないんだ」
謝ってはみたものの、僕はこれが本来の実力だと割り切っている部分もある。
「そんな部分もあるのかもしれないわね」知紗は僕の背中を洗う手を止めた。
「ねえ耀たん、耀たんの苦手な部分を、丸投げしちゃうってのはどうかしら?」
「苦手な部分を?そんな事できる?」
「もちろんよ。でも、そのためには資金が必要だし、銀行から融資を受けない?」
「そんなにお金がかかるの?」
「手持ちの資金もあるけど、ちょっと不安だから……やっぱり借りたほうが安心できるかな」
知紗はいつも僕のことを見て、僕の欠点を補う方法を考えてくれていたのだろう。僕はそんな知紗に報いたい。それに、知紗のことだから、返済の計画も考えたうえで話してくれているのだと思う。——だが、胸につかえるものが残る。
「任せていいかい?」完全な本意ではないが、知紗が望んだ答えを返すと彼女は僕の背中から抱きついてきた。柔らかくも張りがあるものが、自然に僕の背中に押しつけられる。
「嬉しいわ。耀たんが私を頼りにしてくれて。一年目の売り上げがすごかったから、十分な融資を受けられるわよ」
翌週、僕は知紗に言われるがまま、融資関係の書類を記入した。
「——これで全部?」
「うん。あとは私が銀行に持っていくだけ」
書き終えた書類は、融資を受ける額の割に薄かった。
「あとは任せておいてね」
「頼んだよ」
「——やっとね……」
「——何が?」と聞き返した僕に、知紗は優しくキスをしてくれた。
「愛してるわ。耀たん」
——一ヶ月後、知紗は僕の前から姿を消した。融資を受けた分を含めて、全ての預金が引き出されていた。
「——どうして」と答えなど出るはずのない疑問をただ繰り返す、そんな無駄でしかない時間を過ごしているうちに、僕はひとつの結論を導き出した。「最後は一人になる……」
微笑みを浮かべた僕は、闇の世界へと吸い込まれていく感覚になる。何も聞こえない、何も見えない、誰もいない、ただ闇だけが続く世界……そこでは心地よさしか感じない。
三日後、知紗の代理人を名乗る弁護士から、『持ち出した現金は慰謝料とする——なお、これをもって今後一切の金銭的請求・接触を禁じるものとする』と書かれた手紙と、離婚届が届いた。
手紙の終わりには、彼女の名前すらなかった。到底納得できなかったが、僕は早く一人になるためだけに、知紗からの要求を全てのみ、離婚に応じた。
——それが僕のあるべき姿だから。
知紗が去った家には、微笑んだ僕が望んだとおり、一人だけが残った。
彼女の香りがまだ微かに残る寝室に座ってみた。
この家には、かつての幸せが染みついている。同時にその幸せが幻想に過ぎなかったことも、痛感させられる。
いや、本当はもっと早くに気づいていたんだ……目を逸らして、逃げていただけに過ぎない。
ぼんやりと思いに耽る僕の心には、憎しみや怒りはなく、少しの後悔と多くの安堵が混ざり合っている。そして、微笑む僕からは、その感情すら消えていく。
僕はこの家に特別な思い入れはない。街から遠く、買い物も不便な場所で、周囲は自然がとても多い。知紗が気に入って購入しただけだ。リフォームはしたが、田舎造りは変わらないままだ。
不便以外はいい環境に恵まれている……そう言い聞かせて、僕はこの家に暮らし続けることにした。本当は——引っ越すための資金がないだけ。与えられた貧しさと、残されたつらい記憶を一人抱きしめ、この広いだけの家に留まるしかない。そんなことを考えていると、また流されるような感覚に襲われる。
——ふいに、誰かに見られているような気がして視線を向けると、例のカラスが僕を見ていた。
「——何だったんだ」
嫌な記憶の世界を漂ったような……不愉快な感覚からやっと戻ったら、僕を見つめるしゃべるカラスか。
「カラスは賢いって言うしな。しゃべっても不思議ではないか」
普通であれば驚きのあまり、大声を出してもおかしくない状況。それなのに、冷静にカラスを観察している自分に少し驚いてしまう。
「見事であるな。人の身でここまでの力を澱ませ、それでもなお崩れぬとは……驚嘆に値する」
いつの間にかテーブルの上に移動した厨二カラスに、なぜか僕は褒められたらしいが、何のことやらさっぱり分からない。
「其方ほどの力は久しく感じておらん。面白いものを見せてもらった礼に、その喜多原とやらを、死をも超える絶望に貶めてやろう」
「それで、僕に何かいいことがあるとは思えないんだけど……」
「ならば元妻にでも……」そんなことをして何になるんだ?僕はこれ以上カラスの話に乗るのをやめた。
好き勝手なことを言い終えて満足したのか、それとも何か不満があるのか分からないが、カラスはじっと僕の方を見ている。
目をこっちに向けると、首を傾げるような仕草に見えて、ちょっと可愛らしく思えてきた。
「——望まぬのか?」でも、この口調だ——前言撤回。
「いや、別にいいし、終わったことを掘り起こす気もない。余計なことはしないで帰ってくれないかな。てか、帰れよ」
カラスは僕の声が聞こえなかったかのように、「まあ良い——いずれもいつかは果たすことゆえ、早いか遅いかの差であるな」と白々しく目を逸らした。
「いや、だから帰れよ」
なおも僕の言葉を無視するカラスは、テーブルの上に置きっぱなしにしていた、バーボンウイスキーの瓶に視線を向けた。最近、僕が好んで飲む安い銘柄のものだ。
「ところで、これは酒であるか?」
「ああ」たしかに酒だから肯定したが、僕にとっては数時間の記憶を消してくれ、眠りに誘う魔法のアイテム。
「某に飲ませてくれぬか?」
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