第4話この空の下、響く音は

「快叶!いるか?!」


 朝からうるさいな。誰だ?いや楓詩か。

 他に朝から僕を呼びに来るようなやつはいない。どうせまたカウンセリングに連れていかれるのだろう。もう何もしたくないとさんざん言ったのに、また来ては、無理やり連れていかれる。対抗する程の体力は無くなってしまい、腕を引かれてそのまま車に乗り、今日も、常磐井さんの所へと行く。


 それでも話す事は出来ない。話す気もない。

 話したところで陽輝が帰ってくる訳でもないし、僕は救われたくない。この泥沼の中にずっといたい。それが破滅への道でも迷わずに進む。陽輝を忘れたくないから。幻にしたくないから、常磐井さんの蜘蛛の糸は自ら切り、そこから動こうとも思わないし動けない。


 それからというもの、ただひたすらに同じような日々を繰り返し続けた。このままでは、本当に陽輝を忘れてしまうのではないのかと、どうしようもない焦燥感が蝕んでくる。そして完全に飲み込まれた時、爆発した。


「快叶!行くぞ!……どうした?早く行くぞ!」


「行かない。」


「何を言ってるんだ?まさか、話せないから行けないとか言う訳じゃないだろうな。そうだとしても、今日こそは話せるかもしれないだろ?」


「……っ!行かないって言ってるだろ?!もう放っておいてくれ!」


「行かないと治るものも治らないだろ?」


「治す気はないと言っているんだ…」


 気づいたら涙を流しながら座り込み俯いていた。


「僕から陽輝を奪わないでくれ……」


 この傷が癒えるのは陽輝を失うのと同じだ。そんな事させてたまるか。愛おしそうにこちらを見るあのアメジストの瞳を忘れしまうなら、このままでいい。このままがいい。


 それなのに、無理に連れ去るその姿はまるで死神だ。このままで、いや、このままがいいんだ。このままでなければいけないんだ。傍から見れば明るい天国に導く天使も、見方を変えれば肉体から魂を切り離す死神だ。


 僕の向かいたいところは天国や極楽浄土ではない。僕はこのまま、血の池でいさせて欲しいんだ。でもそれを世間は許さない。どうすればいい?このまま僕が救われれば陽輝はどうなる?


 嫌だ考えたくない。忘れたくない。

 愛せぬままいなくなってしまった陽輝とここにいたい。


「っ!!そうかよじゃあ好きにしろ!」


 これで、これでいいんだ……これで……いい………


 ◆◇◆(side楓詩)


 つくづく思う。

 この水瀬快叶という男の面倒くささといえばキリがない。昔から財閥の嫡子同士仲良くしていたが、欲しいものを何としてでも手に入れるその欲深さに嫌悪し、憧れ。いつかしかそれが恋情だと気づいた。


 彼を手に入れたい。その一心で手を伸ばし続けた。それなのに邪魔はいつまでも入ってくる。だから全て消してきた。黒澤陽輝も例外ではない。なのにあろう事か黒澤陽輝が死んでも、まだ想い続けるなんて、考えもしなかった。


 快叶は扉を開けたのに、鳥籠から出てこない鳥だ。なら無理やり連れ出せばいい。こっちを向くまで首を回せばいい。月が出るのを待つのはもう辞めた。

 

 それでもこっちを見ないのはなぜなんだ?お前には俺しかいないはずなのに。もう諦めろよ。


「俺から陽輝を奪わないでくれ……」


 なんだよ……それ……

 ふざけるなよ!まだ陽輝って言い続けるのか?ならもういい好きにするといい。俺も好きにする。今度こそ快叶を俺のものにしてやる。どの道もうやるしかない。

さぁせいぜい首を洗って待っとけ。水瀬快叶!

お前を幸せにするのは俺だ。

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2025年12月31日 09:00

愛を知りたくて @Rindo_hibiki

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