第3話詩を歌う愛
しばらくして病院から出たあと、楓詩に連れられてカウンセリングに来ていた。
話す気は無い、治す気もないと伝えたのにも関わらず、食事も睡眠もまともにしていなかった僕は、何も出来ずに連行されたのだ。
「初めまして、水瀬快叶さん。担当の
優しそうな眼差しでこっちを見てくるカウンセラーは、前々から楓詩が話をしていたらしく、僕のペースに合わせてくれたけど、話す事は出来なかった。陽輝の事を愛したかったのに、それすらもできなかったのに。やはり話す事はない。
そのまま、家に戻ると、陽輝が居る。手を伸ばせば触れられるはずだった。明るくて、いい匂いの|する部屋は陽輝と共に触れた瞬間に無機質で冷たい空間になった。
ふと携帯を見るとそこには常磐井楓の文字、強制的に追加させられたその連絡先を消す気にもなれず、陽輝を追い続けてしまう。そこにいるはずだった、愛したかった、もうどこにもいない君の脈と輝きが僕を僕のままにしてしまう。あぁ、あぁ、なんて愛おしいんだろう。
◆◇◆(side???)
これは、愛を探し、愛を知る物語。
一目見た時からわかってしまった。君が抱えた孤独も、君が犯した罪も、君自身も、全てが君を鳥かごに入れてしまう。
君を見たのは君が病院から出てきたところ。誰かに連れられて行く間、僕には気付かず、ただ「陽輝」と言い続け、自らを折に閉じ込めていた。
僕は消えてしまいそうなあなたを救うために詩を歌にして、叫び続ける。
だから僕は君を詩にする。名前も知らない君。その恋人の名前は陽輝。おそらくもう居ない君の恋人。それなら、君を君たらしめる詩を歌おう。君に届けるために。少し見ただけの君だが、弱々しく「陽輝」と呼び続けるその姿は、紛れもない愛だ。
だからこそ、その愛をこの声、この音、この詩に預けさせて貰うよ。
そうこの僕、
曲名は「タルト・タタン」少し甘く酸味のあるりんごのように、焦がしてしまったその愛を、タルト生地のように美味しく仕上げてみせよう。
◆◇◆
思い付くメロディをDOWソフトに入れていく。君のあの姿を思い出すだけで、どんどん湧き出てくる。今までにないくらいに早く仕上がった「タルト・タタン」は、6日で完成に至った。過去最速記録だ。それ程までに強烈で、鮮明な愛だった。
何があったかは分からないし、もうそこにはいない恋人を想うその美しい愛に見合う曲になったかも分からない。それに君に届くかもまだ分からない。
でも、それでも、届けたいこの想い。
君に届くまで歌う。
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