第2話愛とは、脆いもの〜side陽輝〜

 病院からの帰り道。冷たくて強い北風が体温を奪うまま、僕は赤信号が変わるのを待っていた。


 少し熱を出し、もしもの事を考え、病院に行った。

 一応快叶にも連絡はして置いたが、気にも止めてくれなかった。分かりきっていた事とはいえ、辛いものは辛い。


 今の僕は誰からも愛されない。両親は蒸発し、兄弟も居ない。既に成人になっていた僕を引き取る親族もおらず、完全に剥がれた。友人もみんな離れていき、気づいたら1人だった。それでも快叶は隣にいてくれていた。


 愛していた。僕だけの快叶を。僕を人間にしてくれて、愛をくれる快叶を。


 でも、このままでいいのだろうか。僕にはもっと違う人生があって、もっと幸せに……なれたのかな。本当に、快叶以外で愛してくれる人はいないのだろうか。


 思えば、もうここに僕の居場所はない。どこか遠くに行って、新しい人生をやり直せるように。


 思い立てば即実行だ。幸い金は沢山ある。目的地は、フランスがいいな。パスポートもまだまだ期限切れは遠い。


 そのままフライトを予約し、荷物ももうまとめた。あとは、手紙は残して置くか。他には……タルトタタン作ろうかな。快叶が唯一食べてくれたケーキ。最初で最後に食べてくれた……


 何故だろうもうあなたから愛されることも、必要とされることすらないと言うのに、それでも願ってしまう。もう、届くことは無い。これが、僕の人生なら、あなたの温もりが消える前に、ここから出た新しい人生で、温もりを見つけていきたい。


 そうして、僕の恋は終わった。もう、ひとりで待つこともなく、苦しい思いをすることもない。僕は、自由になるんだ。


 ◆◇◆


 久しぶりに見る空港前の駅に、心が踊る。あとは信号を渡るだけだが、運悪く赤信号になってて、少し待った。


「そういえば、上の階から行けたような。」


 そのまま、近くの階段を上がり、ぱっと見渡すと、しっかりと渡り廊下があり、そこを使って空港に直行できるようになっていた。


 ありがたいな。これで、いいんだ。


 その時、携帯が鳴った。


「もしもし。」


『陽輝!どこにいる?!』


「落ち着いて、快叶。今は空港だよ。今からとある場所に行くんだ。それから手紙は読んでくれた?それが今の僕の想い。だから受け止めて。さようなら。」


『おい!まt』


 その言葉を待たずとして電話を切った。今まで、こんな人を待ち続けたんだ。やっぱりあの日々は無意味だった。これでいいんだよね。

 もう、苦しむ必要も無い。この飛行機に乗れば、僕は開放される。これが、僕の新しい人生の、スタートライン!


 ◆◇◆


 になれば良かったな。


 あの後、とりあえず、本場のスイーツを思いっきり楽しみたくて、色々なお店に行った。そこで、色々なスイーツを食べた。お金は本当に一生かけても使い切れないほどあるので問題はないし、好きにしていた。


 ふと牧場に行きたくなった。スイーツを作る上で最も重要な材料を作る所を、この目で見てみたいと思ったのだ。そうして、タクシーに乗り込み、山道を走っている時にそれは起こった。


 ガードレールのない山道を走り運転手さんもかなり気をつけていたと思う。しかし何故だろう。さっきから運転手さんの様子がおかしい。それに、車もどんどん速度を上げている。もうすぐ曲がり角。このまま行けば落ちる。


「なんで?」


 運転手さんのその声と共に車は宙に浮いて、ドゴンと音を立てて地と激突した。エアークッションはしっかり機能したものの、次は煙がたち始める。

 その時、無意識のうちに快叶に電話をしたが、やはり出ることは無かった。そして、やはり僕は快叶がいないと生きていけない。なら、もういいだろう。諦めても誰にも叱られはしないだろう。


 快叶は、あの手紙は読んでくれるだろうか、タルトタタンは食べてくれたのだろうか。その問いはもうわかっている。手紙もタルトタタンもきっとそのまま捨てられているだろう。


 あぁ最後に快叶、あなたに会いたかった。最期はあなたの腕の中にいたかったな。


 この願いはどこにも届かず、車の爆発と共に燃えてしまった。

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