結論

それから4時間後彼らは大陸の反対側まで辿り着いた。後ろの大臣は長旅で大人しくなって久しい。その大臣が永遠に続くかと思った苦行の終わりが(物理的に)近づいて来た。

 それをレーダーで確認したメイヴェンは『ディザスター、エトワール。空戦だ。準備をしろ。』と命令して距離を取った。

 返答を返し、編隊を組む。それから、後ろを振り返っって、『では大臣、お待ちかねです。迎撃を排除して目標地点の攻撃に向かいます。』と死を宣告した。小さく聞こえた「は、早くして」という声を気にもとめず、挨拶のために無線の周波数を変更した。


『よーエトワール、元気か?』

 チャンネルを開くと威勢のいい声が聞こえてくる。

『ケイ、そちらも元気そうで。』

 通話に出たのは訓練生時代の同期のナージャ≪ケイマーダ≫シモセラフだった。事前に知っていたとはいえ、旧友との再開は心弾む。

『最初の流れは事前に決めていた通りだ。あとは流れて、やるぞ。』

『では、お手並み拝見。』

 ニーボードには4時間前には偽りの資料で隠されていた真の行動計画の資料がそこにあった。それに基づいて正対位置に遷移。

『では、大臣、お待たせしました。、ドッグファイトに入らせて頂きます。10,9,8…』

 マージまでのカウントダウンが始まる。その段階で仮死状態の大臣の心が復活し、「や、やめて!」という声をひねり出すがなんの意味もなかった。

『マージ、交戦開始!』

 すれ違う。その瞬間上に操縦桿を引く5Gぴったりで上昇。

(交戦規定は私だけ制限5G、一時超過も6Gまで……だったね。)

 みるみる速度を失う。垂直を越え、反転する。そのまま落下。

 後ろはついてこない。命令だ、大臣が乗っている。不慮の事故が起きないよう。無理せず離脱しろ。という。

 その敵を追ってピッチ・バックで斜め上を目指して上昇するエミリアと、それを追う敵とすれ違う。振り返ると、大臣が力無くシートにもたれ掛かっている。

(速度が出せないなら……旋回半径で)

 旋回継続、振り返る。向こうはあり余るエネルギーを上昇に預け、一気に降りてくる。

あっという間に後ろに、相手は近づいてくる。まだ、まだ、未だ遠い、いや、今だ。

 操縦桿根元のパドル・スイッチを引く。Gリミット解除、制御の軛を抜けた機体が垂直に立ちながら滑る。背後を魔力により再現された閃光が突き抜けていく。

『やるぅ~』ナージャがエンジンノズルを下から挑みながら暖降下する。一方、コブラをした私は機首の立ち上がりが鈍るなり進んで戻す。

『わ、わあああああ!』

 後ろにはマイナスGの浮遊感に取り乱す大臣。前には上昇中を捉えられるナージャ機体。彼女のガン・レティクル内。撃つ。目の前が実弾同様マズルフラッシュで見えなくなる。外れ。

『粗っぽいぞ!』私がどう足掻いても追い付けない急旋回をするナージャが美しくも理想的なエミリアのハイスピード・ヨーヨーにより、機動と共に押しやられる。一難は去った。だが、次は?

『ならば、こう。』

 スロットル分割解除。左旋回中に左エンジンを止め、ラダーを蹴る。間もなく、機体はフラットスピンに入る。

『パパぁ~パパぁ~ごめんなさい、僕が悪いの』回転の反動で一瞥する。身体はありもしない支えを探しているようだ。『大人しくするからもうぶたないで~』

(あ~あ、肘掛けか。)それに気付くと私はその様を馬鹿だなあと笑った。(落ちる時は肘掛けもいっしょに落ちるのに。)

 スロットルとラダーを逆に、操縦桿も逆に。やがて回転は遅くなり、水平にスピンしていた機体は一気に機首を下に向ける。

『今だ!貰い!』というナージャの声に『それはこっちの台詞』とエミリアが襲いかかる。

 スロットルをアイドル位置へ、機首を下げながら舵を更に切る。同じく螺旋を描いて突き抜けるナージャ、蛇のまぐあいの様に絡み合う一瞬の後、螺旋を書いてナージャが押し出される。

 ブレイク・ライト!

 指示と共にエミリアと距離を開く。

 更に後ろから、これを交わす。それから、新手の後ろの敵をバレルロールで間合いを調整したエミリアが食らいつく。その時だった。


『もう、だめ、ゆるじで……』

 その時、ついに大臣の心が限界に達した。

 一瞬気が向くノイズを私が無視した次の瞬間、『うわーん!パパぁ~』という声の後、キャノピーが吹き飛ぶ音と爆音が轟く。

 間髪入れず、『空戦中止!空戦中止!大臣が勝手に脱出した。』の宣言。

『な、なんだって!』と無線が騒ぎ立てるも、ダリアはいち早く立ち直り、『すぐに地上に連絡します……至急大臣を探さないと。』と無線の周波数を変えて指示を飛ばす。

『あのー私たちは……』

『降りる、しかないな。』エミリアの弱弱しい声にメイヴェンは『続行は無意味だ』と付け加えて結論を出す。こんな話し方をしたのは、彼女がなぜそんな事を聞いてきたのかを知っているからだった。

『え、えええええ……?終わり?終わるの?』エミリアの困惑する声が会話に割り込んでくる。『わ、私のベストガン……まだ本気を出していないのに。』

メイヴェンは『当然でしょう今日の主役は大臣で、それが勝手に脱出したんだから。』というも聞かない。

ううう、と嘆くエミリアは珍しく弱音を吐き始めた。

『……今キミの機動にはミドコロがあるかもしれないって私の秘められた力が認められて……』

『お話のところ申し訳ないが、所感を言おう。』幅を寄せてきたイクザム1こと敵役部隊の隊長機は流行りのアーケードゲームのリザルトの様な軽いノリで答えた。『うーん、失格!まったき・て・ね』

 どゆこと?と聞くエミリアに、彼はトーンを戻して解説する。曰く、おまえの飛び方は技ばかり見ている。最強になるために必要なのはそれじゃない。周囲の敵味方の位置の把握をする目だ。そこから天から垂れた1本の生の糸を探して引き抜いて縋る。そんな目がなければ行けない。と。

 うっ……と図星の矢が心臓に刺さったエミリアはなにも言い返せず固まった。精一杯アピールしようと技前ばかり意識してしまったのだ。

『技量を過信しすぎ、かつ頼りすぎだ。腕ではなく、生き延びる道を見つけることこそエースになる秘訣だ。まあ、これ以上はデブリの後にしよう。』

それでも尚諦めきれないエミリアは、唸るような声でと未練を垂れ流しつづける。

「帰るぞ。」メイヴェンは彼女のそんな心を無視して機体を翻し、私に続くよう求めた。


 大臣はその後、森の中で見つかった。

 自分達が駆けつけたとき、そこにあったのは、彼の無惨な姿であった。どうやら落ちた先にペガサスの一団がいたらしく、うち一頭に偶然にもに飛び乗る形となった大臣は半狂乱になりながらパラシュートの綱でその馬の首を締め上げてしまい、共に地上に墜落した。

 目と鼻の先には、自らの排泄と馬糞にまみれた一人と一頭が沼地でもがいている。捜索隊がピンクのペガサスを締め上げているパラシュートの綱を切り剥がすと、ペガサスはその、どうして、とでも言いたげだった目を怒りに変え、馬糞を大臣にぶちまけると、群れに合流すべく夜空にそのまま立ち去って行った。

「大臣……」うなだれうずくまり糞香る大臣にダリアは仁王立ちになり見下ろした。「彼、彼女ら航空兵は、日々かくのごとき任務が来た時のために訓練を積んでおります。どうか、そんな彼らへの手当ての減額については最善かつ最大限の熟慮を重ねてご検討お願いします。」

 うん、うん。と馬鹿みたいに首を振って返事をした大臣は涙を貯める間を置いて、駆けつけたリムジンに「パパぁ~」と叫びながら消えていった。微かに残る馬糞の臭いだけが今までそこに彼がいた事を証明していた。


「バーベナ、後席洗うからとっとと帰ってこいだってさ。」

 クローズSNS越しにポップし続ける怒りの抗議を横で見ながらストローを口に差し込む。甘いアルコールの香りがする半透明の液体が、空っぽだった胃と満たす。それから、膝と動かせない方の翼に突っ伏しているダリアの頭を静かに撫でる。ダリアからは「ふかふかの、羽毛のお布団……」という寝言が聞こえてくる。

「で、とんぼ返りする?」が酒を持って横に来るメイヴェンに「まさか……」と返す。二人は視線を隣のテーブルに動かした。その視線の先では醜い争いが繰り広げられていた。


「う、うおおおお!!早食い競争に勝てば、ベストガンに推薦するって本当か!!」

 エミリアである。彼女は大量のポテトを両手で口に押し込んでいる。

「ああそうさ〜、勝てるものなら勝ってみろ!!」

 対するナージャも一切の手加減をせずその蛇状の触手をフル稼働して口にポテトを詰め込んでいく。その様子に私は眉をひそませ、「まあ、これをほっといて帰るとか、無理。」と言い、メイヴェンを納得させた。

「うおおおおおお!!!ベストガンに、私はなる!!」

 エミリアの咆哮はお酒も入ってより強くなる。が、次の瞬間、二人は顔を青くしてその場に倒れた。

「うーん。無念なり〜」と「守りきったぜ!」の叫びとともに気絶した二人の前で私とメイヴェンはしばし沈黙し、それから救急車を呼ぶべくメイヴェンが立ち上がり、残された私の「はーっ」という溜息だけが残された。


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Aviators rhapsody 皆の(財布の)命運は私の両肩にかかっている件 森本 有樹 @296hikoutai

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