第3話 ゲームは終わらない

 秋吉君に思わず抱きついてしまった。

 秋吉君って男子なのに良い匂いがする。きっとシャンプーの匂いだ。すきっと爽やかな香りがした。

「本当にありがとう」 

 文字通り、秋吉君に涙ながらにお礼を言われた。

「せっかくだし、家に来なよ」

 秋吉君のせっかくだしの意味はよくわからなかったが、私は家にお邪魔することにした。

 秋吉君のお母さん(かなりの美人)が出迎えてくれた。

 私があのブロック塀をクリアしたと伝えると、跳びはねて喜んでくれた。

「これでようやく買い物に行けるわ」

 お母さんは私の手をとって喜んでくれた。

 お母さんに紹介されるということは結婚を前提としたつきあいもあり得るのではと妄想する。


 秋吉君のお母さんはせっかくだしと言い、パンケーキを焼いてくれた。

 この家のひとは「せっかくだし」が口癖なのかも知れない。

 私は秋吉君と一緒に彼のお母さんが焼いたパンケーキに舌鼓を打つ。

 思えば授業の合間の休憩時間以外で秋吉君と話すのは初めてかも知れない。

 私はチャイムに邪魔されない秋吉君との会話を思う存分に楽しんだ。

 我ながら私たちって気が合うんじゃないと思った。

 夕方になり、暗くなり始めたので、私は帰宅することにした。ゲーム以外でこんなに楽しい時間は初めてだった。

 秋吉君は私を駅まで送ってくれた。

 めちゃくちゃ優しい。

 しかも別れ際ラインのIDの交換までした。

 たった一日でこの前進はえぐい。

 これも全てあのブロック塀のゲームをクリアしたからだ。ゲーマーであって良かった。



 翌朝。

 私たちはさっそく学校最寄り駅で待ち合わせをして、登校することになった。

 これってもしかして、ほぼつきあっていると言っても過言ではないのではないか。

 私は学校までの約十分ぐらいの道のりをふわふわした気分で歩いた。

 これが夢心地というやつか。

「夏川あれ見てよ」

 秋吉君が学校の方向を指さす。

 秋吉君って男の子なのに指が綺麗だな。

 あれっ、秋吉君の指先震えてないか。

 おっと秋吉君の指に見惚れる場合ではない。

 私の耳にどかっどかっと、どこかで最近聞いた音がする。

 驚いたことに秋吉君の家を取り囲んでいたのと同じブロックが落ちて来て、学校を取り囲んでいた。


「優希、優希たいへんよ!!」

 美穂が駆け寄ってくる。

 美穂の手には古いコントローラーが握られていた。

「私じゃダメなの。優希お願い!!」

 必死の形相で美穂は私にコントローラーを手渡す。

「夏川、君だけが頼りだ」

 秋吉君に君だけなんて言われたら、やるしかない。

 私は学校を取り囲むブロックを消すためにゲームに挑戦したのであった。


終わり

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ブロック機能 ある日彼の家にブロックが降ってきた 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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