第2話 積み上げられたブロックは並べると消える

 空から振ってくるブロックは凸型をしていた。

 それが秋吉君の家を取り囲むブロック塀に落ちていく。まあまあの速さだ。

 そして積み上げられた。

 凸型のブロックが降ってきて、それが積み上げられた。

 そうするとどうだろうか、空のはるか上空からまたブロックが出現する。

 こんどは真四角のブロックであった。

 それが先程の凸型のブロックと同じように落ちてきて、ブロック塀に積み上げられる。

 

 私はぐるりと秋吉君の家を見渡す。

 見渡す限り、秋吉君の家はその灰色のブロックに囲まれていた。

 よく見るとブロックはところどころ隙間が空いている。

 それは形の合わないブロックがそのまま積み上げられたからだろう。

 私はその隙間から秋吉君の家を見る。

 そこには古いコントローラーを持った秋吉君が空を見あげていた。

「くそ、また失敗した」

 悔しそうに秋吉君は言う。


「秋吉君!!」

 私はブロックの隙間から秋吉君に声をかける。

 秋吉君は振り返り、ブロック塀にに近づく。

 私はブロック塀の隙間から秋吉君と目が合う。

 目があってこんなおかしな状態なのに、照れてしまう。頭の中がほんの少しだけ熱くなる。

「夏川か」

 秋吉君は私の名前を呼ぶ。

 呼ばれただけで嬉しい。

 おっと名前を呼ぼれて、舞い上がっている場合ではない。

 まずは状況確認だ。

「これ、どうなってるの?」

 私は当り前の質問をする。

 本当にこれはどうなっているのだろうか。

「学校に行きたくないなって思ってたら、メールが届いたんだ。そのURLリンクを開いたらこうなってしまったんだ」

 秋吉君は早口で言う。

 なるほど学校をさぼりたいと思ったら、ブロックが降ってきて、通学をブロックされたという理由か。

 ブロックでできたブロック機能か。

 そうこうしている間に、今度はまた凸型のブロックが落ちて来て、積み上げられる。

「うわ、またやられた」

 がくりと秋吉君は膝を落とす。


 壁はうず高くつまれ、ぱっと見ただけど私の身長の三倍はある。もうすぐ四倍に達するだろう。


 秋吉君はこのブロック塀に阻まれて、学校に行けなかったのか。


「夏川、このブロックはうまく並べたら消すことが出来るんだ。頼む、僕は落ちゲーが下手でこんな風になってしまった。おまえならこれを消せるはずただ」

 そう言うと秋吉君はブロック塀の隙間から、腕をだす。彼の白い手には何世代か前のコントローラーが握られていた。

 私はそのコントローラーを受け取る。

「頼んだぞ、夏川」

 私は頼まれた。

 片思いの秋吉君から頼まれたのなら、やるしかない。

 このままでは秋吉君はこのブロックから永遠に出られない。

 と言うことは秋吉君と休憩時間にゲームの話が出来ないということだ。

 私は頭を小さくふる。

 そんなのは嫌だ。

 休憩時間にするわずかな時間の秋吉君との会話が私にとっての生きる価値といっても過言ではない。


 私は五歩ほど下がる。

 秋吉君の家は長方形にブロック塀によってかこまれている。

 空から落ちるブロックはこの長方形の四辺のどこかに落ちる。

 2Dのゲームとは違うという理由だ。

 でも落ちゲーマニアの私にとってはそれぐらいはハンデではない。


 私はできるだけ俯瞰で空を見るように心がける。

 私から見て左手上空に縦一直線のブロックが落ちてくる。

 私は手に汗をにじませなごら、コントローラーを握る。

 十字キーを操作すると思うようにその縦一直線のブロックは動く。

 これはいける。

 私は心のなかで呟く。

 私は落とすべく所を探す。

 ブロックが三つほど凹んだところごある。

 私はその凹んだところめがけて、縦一直線のブロックを落とす。

 縦一直線ブロックはうまく凹んだところにはまる。

 そうするとそのはまった三個分横一列が消える。

「よし」

 私はガッツポーズをとる。

 

 次に上空からL字のブロックが出現する。

「くっ」

 私は思わずうめく。

 落ちてくるスピードが速くなっているのだ。

 落ちゲーでは当り前だけど、この切羽詰まった状況でやられるときつい。

 しかし、やるしかない。

 再び、秋吉君との時間を取り戻すにはこの理不尽なゲームをクリアするしかないのだ。


 私はコントローラーを握る手に力を込める。

 落ち着けと自分自身に言い聞かせる。

 落ちゲーは慌てたら負けだ。

 一つのミスがゲームオーバーにつながる。

 ゲームオーバーすなわち秋吉君と二度と会えないということだ。

 私は氷をイメージし、自分を落ち着かせる。

 そうしている間にもどんどんとL字ブロックは落ちてくる。

 私はコントローラーでL字ブロックを操作する。

 L字ブロックを操作し、向きを逆L字にして突き出ている部分を空いているブロックに落とす。

 見事横一列が消えた。


 よし、また一つ消えた。

 積まれているブロックはおよそ私の身長二倍になる。

 ゴールは遠いが、見えてきた。

 落ちてくるブロックのスピードは格段に上がる。

 私は反射神経の全てを注ぎ込み、ブロックを操作する。

 秒単位の操作を要求される。

 ほんのわずかなミスが致命傷になりかねない。

 私はブロックを操作して、積み上げては消し、消しては積み上げるを繰り返す。

 どうにかして私の身長ぐらいにブロックを減らすことに成功した。

 ちなみに私の身長は百六十三センチメートルだ。


 落ちてくるブロックのスピードはとんでもないものになっていく。

 瞬きすらも許されない状況が続く。

 こんなにも追いつめられた状態なのに、私は楽しいと感じた。

 私は根っからのゲーマーなのだとこの時、確信した。

 

 そしてついに、私は最後の凸字ブロックを逆向きに落とし、隙間にいれる。

 残されたブロックが一つ残らず消えた。

「やった!!」

 ブロック塀が消えたさきには秋吉君が立っていた。

「やったよ」

 私は思わず駆け出し、ダイブするように秋吉君に抱きついた。

 我ながらら思いきったことをした。

 きっとゲームをクリアした興奮がそうさせたのだろう。

「ありがとう夏川」

 涙を流して、秋吉君はお礼を行ってくれた。

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