ブロック機能 ある日彼の家にブロックが降ってきた

白鷺雨月

第1話 落ちてくるブロック

「あらまた秋吉君休んでるのね、優希」

 美穂は私の名前を呼ぶ、

 私の名前は夏川優希。花の女子高生、いわゆるJKだ。

 JKと言えば聞こえはいいが、私はよくて二軍ぎりぎりだ。

 スマートフォンから僅かに視線をずらして、友人の田沼美穂は窓ぎわの席を見る。

 美穂は丸顔の可愛らしい容姿をしている。

 美穂はクラスでも上位に入るぐらいには可愛らしい。私とは違い一軍女子だ。

 

 私は知っているが、あえてしらないふりをしてその席を見る。

 その席には本来いるべき秋吉彰人あきよしあきひと君はいない。

 秋吉君、ニックネームはアキアキ君は先週の金曜日から欠席している。

 そして今日は金曜日だ。

 つまり一週間は休んでいることになる。

「心配だね」

 ぜんぜん心配そうな空気を出さずに美穂は言う。

 美穂は口調とは裏腹にずっとスマートフォンでなにかをチェックしている。

 インフルエンサーを目指す美穂は暇があればずっとスマートフォンを見ている。

「そうだね」

 私は美穂に相槌を打つ。

 美穂はこれっぽっちも心配していないが、私は心臓が口から出るのではないかと思われるほど心配だ。

 何故なら、私は秋吉君のことが好きだからだ。

 これはまあ、公然の秘密となっている。

 私が秋吉君のことを好きなのを知るのは美穂ぐらいだ。

 美穂は派手な外見とは違い、意外と口は硬い。

 まあ二軍女子の私の恋愛なんて興味ないのだろうけど。


 秋吉君は私と同じゲーム大好き人間だ。

 ゲーマーという人種である。

 暇があればゲームをして、暇がなくてもゲームのことを考えている人種である。

 私が好きなのはテトリスやぷよぷよとかの落ちゲーだ。秋吉君はドラゴンクエストやファイナルファンタジーなんかのRPGがメインだ。

 二年に進級してすぐにスマートフォンでソシャゲのガチャを回している私に秋吉君が話しかけてきた。

「夏川もソシャゲやるのか」

 シンプルな質問だ。

 ガチャを回している時点でゲームをやっているので間違いない。

「うん」

 そう返事をした瞬間なんとSSRキャラをひいた。

「やばっチャールズ引いちゃった」

 私のスマートフォンの画面には、白い鎧を着た金髪イケメンが微笑んでいる。

 引き当て率0.01%のレアキャラを引き当ててしまった。

「うわっすげぇ」

 そう言い、秋吉君は私のスマートフォンをのぞき込む。男子に超接近されたのに何故か悪い気がしない。私のそんなに大きくもない胸が高鳴る。

 これはきっと恋だと確信した。

 秋吉君は私と同じゲームオタクであった。

 男子でこんなに話が合うのは初めてだ。

 きっとスタンド使い同士が引かれ合うようにオタクはオタク同士引かれ合うのだ。


 それから私と秋吉君は授業の休憩時間なんかでよく話をするようになった。

 つきあうとかそういうのじゃないけど、そのほんのわずかな時間は私にとって大切な時間だった。

 その私の片思いの相手である秋吉君が学校に来なくなった。

 彼はゲーマーだけど割と体格が良くて、健康優良児だ。こんなに長く病気で休むとは考えにくい。

 何かしらの理由があると思うが、その理由は私には分からない。

「家に行ってみれば」

 唐突に美穂が提案した。

 いやいやそれではストーカーではないか。

 いくら片思いの相手が一週間も学校に来ないからと言って、その家まで行くのはかなり頭がやばい。

 私が黙っていると美穂は言葉を続ける。

「私、同じ中学だから、だいたい家の場所知ってるよ」

 美穂がとんでもない誘惑をしてくる。

 そう言えば美穂は秋吉君と同じ中学だった。


 私が迷っていると無慈悲にもチャイムが鳴る。

 私はその後、ずっと迷い、ついに放課後になった。よし、と思い決断して、私は美穂に話しかける。

「ほれ、ここ」

 美穂はごてごてにデコレーションされたスマートフォンの画面を私に見せる。

 そこにはグーグルマップの画面が映し出されている。

 I市駅近くの住宅会社だ。

 私の通う高校を中心としたら、逆の方向だ。

 だけど私は秋吉君の家に行くことを決断した。

 この日だけはゲームをすることは後回しにしよう。

 一週間も休んでいる秋吉君のことが気になって仕方がない。昨日なんて玉井好きな唐揚げを三つしか食べられなかった。普段は倍の六つはたべるのにだ。

 私は美穂に今度スタバ奢ると言い、学校を出た。

 はやる気持ちを抑え、高校の最寄り駅に向かう。いつもとは真逆のホームに向かう。

 こちら側から電車に乗るのはかなり久しぶりなような気がする。

 春先の郊外学習で乗ったぶりだ。

 秋吉君の家は高校の最寄りから三つ目の駅だ。

 私は普通電車に飛び乗り、席はぜんぜん空いているのにつり革につかまり立っていた。

 落ち着いて座る気にはなれなかった。

 本当なら電車の中で走りたい気分だ。

 電車は二十分ほどで秋吉君が住む駅に着いた。

 私はグーグルマップを頼りに生まれて初めて訪れた住宅街を歩く。

 マップでは徒歩五分と記されているが、方向音痴の私はけっこう迷った。

 同じような家が並ぶこの住宅街が悪い。

 どうにかして私グーグルマップが指し示す秋吉君の家にたどり着いた。


 私はその家を見て、驚愕した。

 よくあるブロック塀に家全体が覆われていた。

 さらになんと空から灰色のブロックが降ってきて、その家のブロック塀に積み上げられていっている。

 私は思わず大声で「ええっ!!」と叫んだ。

 

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