第5話 議会での悩み

 車から降り立った三条時玲子は、「村松くん、

ちょっとよろしいかしら?お時間おあり?」と邦夫に話かけてきた。

 邦夫は、驚いた。三条時さんが俺に?何のようだろう?と思い、咄嗟に出た言葉は、「少しなら」であった。

 玲子は、「ウチのお父様が貴方に会いたいとおっしゃっているの?車に乗ってくださる?」と

言ってきた。

 邦夫は、〝お父様?って議員さんの?〟と不思議になったが、「わかりました」と素直に応じた。

 邦夫は、初めて車に乗った。

車の後部座席に玲子と邦夫は並び、邦夫が玲子に話かける。

 「いったい、三条時議員が俺に何の用でしょうか?」玲子は「私にも解らないわ、只、靴屋の息子の村松君を連れて来てくれと、申しつけられただけなの、ご迷惑よね?」と申し訳なさそうに話す。邦夫は、「別に迷惑なんて‥」と下を向いた。

 邦夫は、玲子の腕が時折、車の揺れで触れてきて恥ずかしかった。


 三条時宅


 邦夫は、玲子に促され、三条時宅の玄関前に降り立った。

 三条時宅は、立派な、豪華な洋館で、門の外から覗いた事は一度あったが、門の中に入ると文字通り〝別世界〟であった。

 玲子の案内で、洋館に入り、玄関からさほど遠くない、応接室に招かれた。

 「どうぞ、お掛けになって」と見たこともないソファを勧められた。

 暫く待っていると、スーツ姿の整った髭の紳士、三条時議員が現れた。

 三条時議員は、「いやいや!すまんな村松君!良くおいでくださった!」と話しながら、邦夫の側まで来て握手を求めた。

邦夫は、すくっと立ち上がり、握手に応じた

 「村松君、私は回りくどいのは嫌いだ!単刀直入に言おう!君の持っている〝水虫〟の薬を分けてくれ!」そう言うと、テーブルに置いてあった葉巻を手にとり、ソファに座った。

「うん?何か分けられない理由でもあるかね?」

と葉巻に火をつけ、前屈みになった。

邦夫は、「申し訳ありません!あの薬はダメです!と頭を下げた」

三条時議員は、「まあ、待ちなさい、私の理由を話そう、水虫の薬を欲しがるのは、私が水虫だからだ!この水虫、大層厄介でな議会の最中も

こうムズムズと痒みが襲ってくる!議会の最中に

靴を脱いで掻きむしるわけにもいかん!本当に困ったものだ!議会にも集中できん!何とか分けてくれんか?頼む!」と頭を下げた。

 邦夫は、「すみません!お分けする事は出来ません!」と再び頭を下げた。

三条時議員は、そり返り、葉巻をふかし、頭に手をやり、しばし考えこんだ。

 「これならどうじゃ⁈村松君!君はウチの婿養子になりなさい!玲子と婚約して、時が来たら結婚だ!」と無茶な事を言い出した。

玲子がすかさず反応し、「お父様!あんまりです

私、村松君のことも良く知らないし、〝水虫の薬〟目当てで婚約だなんて!」と取り乱した。

三条時議員は、「うるさい!口をだすな!」と一喝して、「村松君、玲子と世帯を持ち、いずれワシの跡取りとして、議員になればいい、聞くところによると、君は成績優秀だそうじゃないか?

それに、君は親孝行と聞いておる、玲子と婚約すれは、ワシは君の〝父〟だ!父が水虫で困っていたら、君は助けるだろ?どうだこの話!」

と前屈みになった。

 邦夫は突然の話に唖然とした。

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