第4話 甲=乙
邦夫は、教頭の
「失礼します」と深々と頭を下げ、職員室に入ると権藤は、にこやかに邦夫の側に寄って来た。
「村松君!こっちにおいでなさい!」と邦夫を職員室の一角にある応接間に連れていった。
教頭の権藤は、まるで
応接間の上座に権藤は座すると、手で下座を指し、邦夫に「まあ、村松君!座りたまえ!」といつもカリカリしている様子とは異なり、やけに上機嫌である。
邦夫が「失礼します」と下座につくと、権藤は、「村松君!最近は、勉学に
どうだね?実業専門学校などへ進学するつもりは、あるかね?君が進みたいと言うなら、私から
推薦状を出そうかと思うがどうかね?」と邦夫の
全く想像してない話であった。
邦夫は、「ありがとうございます、褒めていただき光栄です。しかし、我が家はさほど裕福でもなく、進学は‥」と口を濁した。
権藤は、「なあに、無理に進学しろと言っている訳じゃない!君が進学したいなら、私が力になるぞ!と伝えたまでだ」と胸を叩いた。
「ありがとうございます」と邦夫は言ったものの、権藤の普段と違う様子が、薄気味悪かった。
「ところで、じゃ‥君は最近、イギリス人から
〝水虫〟の薬をもらったそうじゃかいか?
どうだ調子は?」と下心を出して来た。
邦夫は、内心、〝やっぱり〟と思ったが、「ああ、良くなりました」と返した。
権藤は、二つ咳払いをして、「その薬なんだが
残っていたら、私に分けてくれないか?いやいや
さっきの進学の話とは別だぞ、あれは、君が勉学に励んでいるから、私が感心した話で、水虫の薬の話は、また別の話じゃ!」とまた、二つ咳払いをした。
邦夫は、「薬は確かに残っていますが、ダメです、申し訳ありません‥あの、失礼ですが、進学の話は交換条件と言う意味でしょうか?」と恐る恐る尋ねると、権藤は、〝バン〟と机を叩き、
「失敬な!君は何を、言ってるんだ!」と怒りだした。
が、すぐに気をとりなおし、「村松君!頭の良い君なら分かるな、仮に進学の話を〝甲〟としよう、水虫の薬の話は、〝乙〟じゃ!甲と乙はまったく別の話じゃ!甲イコール乙では無いんだ!
分かるな‥」と最後は猫撫で声であった。
邦夫は、「甲イコール乙だと思いますか‥」と小声で言った。
「何か、言ったか?まあ、君が水虫の薬を分けられない理由が何かあるのかね?」と優しく権藤は問いかける。
邦夫は。「理由はあります!しかし、お話する事は出来ません」と言うと権藤はまた、〝バン〟と机を叩き、不満そうに、「まあ、それなら仕方ない」と言って窓の方を見た。
権藤は、「痒いんじゃよ」とボソッと呟いた。
少し間を置き「わかった!進学の話は、甲の話は別の話だ!気が変わったら遠慮なく相談に来なさい!、もう下がっていいぞ」と言うと、手で払う仕草をした。
邦夫は、「失礼しました」と席を立ち、深々と頭を下げ、職員室を後にした。
職員室を出て、校門に向かうとそこに、一台の車が止まっていた。
中から出てきたのは、三条時玲子であった。
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