第2話 金目鯛

 数日後


 邦夫が座敷で勉強していると、店から母とめが

「邦夫!今日はあじでも食べるかい?

ちょっと魚屋行って来ておくれよ!」と大声が聞こえてきた。

 邦夫は、言われるがまま、勉強を中断し、店に出てとめから20銭預かると魚屋に向かった。


 魚屋 伊兵衛


 魚屋につくと、店主 中川伊兵衛に鯵は無いかと聞いた。

伊兵衛は、「おっ邦夫じゃねえか!いい鯵入ってんだよ!おメェはついてるじゃねぇか!」と新鮮な鯵を二匹用意してくれた。

ところが、伊兵衛は、奥から一匹の金目鯛を持ち出して来て、「金目もどうだい?煮物でも旨いぞ!」と邦夫の籠に入れようとした。

邦夫は、「待ってください!そんな銭ありませんよ!」と抵抗したが半ば無理矢理、伊兵衛は押し込み、「お代はいらねぇよ、とっときな!」と

何か訳ありの笑みを浮かべた。

「ところでよ、足見してくんな‥」と耳元で囁く。

「足?足がどうかしたんですか?」と返すと

伊兵衛は、声だかに「なんだよ!水くせな!聞いたよ、豆腐屋の染太から、なにやら、異人さんから〝水虫〟の薬貰ったそうじゃねぇか!ほれ、おっちゃんに、どれくらい良くなったか見せてくれ!」と問い詰める。

「やめて下さい!恥ずかしいじゃないですか!良くなりましたよ」と邦夫は右足を隠した。

伊兵衛は、無理矢理右足を手に取り、「ほ〜こりゃまた、随分とマシになったじゃねぇか?」

と顎に手を当て感心した。

「邦夫‥実はよ‥おっちゃんも〝水虫〟でよ痒いったらありゃしない!あのよ〜その薬、ちょいとばかし分けてくれねぇか?なあ、頼むよ!」と無心してきたが、邦夫は「だ、ダメですよ!ダメです!とにかく金目鯛はお返しします!」と籠から

金目鯛を返そうとした。

「いやっ!いやいいんだよ!別にそんなつもりで

金目やった訳じゃねぇんだ!とっときな!それでよ、薬もし余ったら、おっちゃんの事思い出してくれな!な!」そう言って伊兵衛は、邦夫の背中を押した。

 邦夫は、釈然としないまま、鯵二匹と金目鯛を

持ち帰った。


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