水虫

霞 芯

第1話 靴職人

 大正 2年 東京


 村松邦夫は、13歳の少年。

 母は、靴職人で女手一人で〝一人っ子〟の邦夫を育てていた。

 もともと邦夫の亡くなった父は、草履職人ぞうりしょくにんであったが、明治から日本に入って来た〝靴〟に魅入られ靴職人となった。

 そんな父と母、村松とめは、夫婦二人三脚で、

靴屋を開いていた。

 そんな父も、邦夫が10歳の時には、他界していた。

 それ以来、母とめは、靴屋を切り盛りし、邦夫を育てた。

 靴 と言っても、当時は足のサイズに合わせるオーダーメイドであり、ハイカラな物であった。


 そんなある日、とめの店に〝イギリス人〟のグランと言う紳士が訪れた。

 グランは、とめの店の噂を聞いて靴を新調したく、訪れたのであった。

とめは、「いらっしゃい!おやまー異人さんかい!今日は、なんの用でいらっしゃいますか⁈」と気風のいい声で迎えいれた。

『クツガ、ホシイデス!ウワサキキマシタ!アナタノクツハ、スッバラシ』と身振り手振りで、とめを褒め称えた。

とめは、「そりゃまあ!邦夫!採寸手伝ってちょうだい!」と奥の座敷で勉強していた邦夫を呼び出した。

 邦夫は、高等小学校に通う学生で、卒業後は家業の靴屋を継ぐつもりで、時間の許す限り家業の靴屋を手伝っていたのである。

 邦夫は、急いで草履を履き、グランの足元の準備を始めた。

 グランは、支度する邦夫の右足に目がいった。

「ドウシタンデスカ⁈ソノアシ、アカクハレテマス!」としゃがみ込み邦夫をの右足を注視した。

 「あっ、お客様ごめんなさい‥実は僕〝水虫〟が酷くて‥」と申し訳無さそうに、右足を隠した。

 「カワイソウ!ワタシ、ワカリマス!ワタシモ〝ミズムシ〟」と真剣に同情した。

 「え?お客様も」と邦夫が返すとグランは、

「デモ、ワタシ、ナオリマシタ!イギリスニクスリデキマシタ!」と採寸の為に露わにした足を見せた。

邦夫は、「凄い、イギリスには、そんな薬があるんですか⁈」と驚いた。

「ソウデス、ワタシ、アナタニ、クスリアゲマス!アナタ、ナオリマス!」と鞄の中からクリームケースを出した。

「ハンブン、ノコッテマス、ナクナルマエ、アナタ、ナオリマス!」とクリームケースを邦夫に手渡した。

邦夫は、「いいんですか?こんな貴重なものを!」と少し驚いた。

「カマイマセン、オカアサン、テツダウ、アナタ、エライ!」グランは、そう言って顎鬚あごひげを撫でた。

「邦夫!ボヤボヤしないで、とっとと仕事しな!」と母、トメの声が響いた。


 そのことの顛末を店先で覗く、お喋りで有名な

豆腐屋の染太がいた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る