里中が教師になる日
朝。
四月。
校門。
里中は、
ネクタイを締め直していた。
鏡代わりの
スマホ画面。
「……似合わねぇ」
ヤンキー高校。
看板は、
少し新しくなっている。
でも。
校舎は、
変わらない。
職員室。
ざわつく声。
若い教師たち。
里中は、
一番端の席。
名札。
里中 恒一
(国語)
教頭が、
声を掛ける。
「……緊張してるか」
里中「はい」
即答。
「……怖いです」
教頭は、
少し笑う。
「それでいい」
廊下。
1年G組。
扉の前。
ざわざわ。
里中は、
深呼吸。
手が、
震える。
思い出す。
刑務所。
夜。
背中。
「選べ」
あの声。
扉を開ける。
生徒たちが
一斉に見る。
静まらない。
誰も、
話を聞かない。
生徒A「新しいセンコー?」
生徒B「弱そう」
笑い。
ざわめき。
里中は、
教壇に立つ。
黒板に
何も書かない。
ただ。
言う。
「……俺」
「殴れません」
教室が、
一瞬止まる。
里中「逃げます」
生徒C「は?」
「でも」
「立ちます」
「ここに」
ざわつく。
笑い声。
だが。
里中は、
続ける。
「俺は」
「最低になれない」
「だから」
「最低を
覚えてる」
黒板。
チョーク。
ゆっくり書く。
立て
一文字。
生徒の一人が
呟く。
「……なんだそれ」
里中は、
答える。
「選択だ」
教室の後ろ。
教頭が、
静かに見ている。
何も言わない。
授業後。
里中は、
椅子に座り込む。
汗だく。
足が、
震える。
教頭「……初日だ」
「上出来だ」
里中「……怖かったです」
教頭「それでいい」
放課後。
黒板。
誰かが、
小さく書き足している。
最低でも
里中は、
消さない。
帰り道。
夕焼け。
里中は、
空を見上げる。
「……先生」
誰に向けた
言葉かは、
分からない。
その夜。
刑務所。
独房。
スティーブンは、
夢を見る。
教室。
黒板。
一文字。
立て
朝。
目を開ける。
何も知らない。
それでいい。
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