エミリーが見た兄の背中


成田空港。

到着ロビー。


エミリーは、

人混みの中で立ち止まった。


「……暑い」

日本は、

湿気が多い。

兄の国だ。


タクシー。


運転手「どちらまで?」


エミリー「……お墓」

英語混じりの日本語。


運転手は、

何も聞かない。


墓地。

小さな墓。

名前。

マイク


エミリーは、

しゃがむ。

花を置く。


「……兄ちゃん」

「日本で

何してたんだよ」

返事はない。


ポケットから

新聞の切り抜き。

《元教師、暴行事件で逮捕》

写真。

スティーブン。


相変わらず、

悪い顔。


エミリーは、

鼻で笑う。

「……変わってねえな」


回想。


子供の頃。

路地裏。


泣いてる子供。


殴られてる。


止めに入る兄。


殴られる兄。


それでも、

立つ。


「……最低」

エミリーは、

墓に言う。


「兄ちゃんも」

「先生も」

「みんな」


墓石に

指を当てる。


「でもさ」

「立ってたよ」

「最後まで」

刑務所。


面会室。


アクリル板。


スティーブンが

座っている。


「……久しぶりだな」

エミリー「老けた」

スティーブン「うるせぇ」


沈黙。


エミリーは、

切り出す。


「……マイクのこと」

スティーブンは、

視線を落とす。


「……俺が

止められなかった」

エミリー「知ってる」

即答。


「兄ちゃん」

「止めに行く人だった」

「死ぬまで」

スティーブンは、

拳を握る。


「……俺は」

「殺した」

エミリーは、

首を振る。


「違う」

「兄ちゃんは」

「選んだ」

エミリーは、

立ち上がる。


「ねえ」

「後悔してる?」

スティーブン「してる」

「じゃあ」

「立ってた?」

スティーブンは、

顔を上げる。


一瞬。


何も言えない。


エミリーは、

笑う。


「なら」

「いい」

「それで」

面会終了。


エミリーは、

振り返らない。

歩きながら

言う。


「……先生」

スティーブン「……」

「殴られすぎ」

刑務所の外。


空。


青い。


エミリーは、

空を見て言う。


「……兄ちゃん」

「最低な先生に

会えたよ」


夜。

独房。


スティーブンは、

横になる。


天井を見る。


初めて。


笑う。


小さく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る