第14話 『 新しい場所 』
カイの半生はなかなか恵まれたものだったと僕は今でも思うが、一つ可哀想だったのはやはり生まれ故郷の熊本・打越から無理矢理見ず知らずの佐賀・塩田に連れて来られたこと。そして母親の気まぐれと我儘に付き合わう羽目になってしまったことだ。
カイは猫だからもちろん人間のように表情を変えて自分の不満を表に出すことはない。元々ほとんど鳴きもしない性格だったが、こちらに来てからは「それではやっていけない」と思ったのか、以前よりも声を出してよく鳴くようになった。しかしそれよりもより顕著だったのは、あのデブ猫として超然としていたカイが激ヤセするようになってしまったことだ。更に自分の体毛(特に手足の部分)を噛んで抜くようになった。それは見ていてとても痛々しく、僕ら夫婦は自分たちの身勝手さをこれでもかと思い知ることになった。
カイは次第に以前ほどはあまり飛んだり跳ねたりしないようになり、僕らは彼の老いを日々少しずつ身近に感じるようになった。当初はあまり口には出さなかったが、やはりあまり遠くない将来、カイも死んで僕らの前からいなくなってしまうだろうと云うことは避けられない事実だった。
そう云えばカイは佐賀に来てから急に鼻水も出すようになった。おそらく免疫力が落ちてきたせいだろうが、ほぼ四六時中鼻水を垂れまくっていた。そしてその鼻水が床やカーペットの上に落ちるのを見ると、うちの母親はまるで地獄の沙汰であるかのように癇癪を起こし、さっきまで猫可愛がりしていた相手に怒声を上げるのだ。
そんな母親を特に気にするでもなく、カイは家の中で居心地の良いところを見つけてはゴロンとその身を横たえては眠っていた。もちろん口元を鼻水でカピカピにさせながら。そんなカイでも僕らにとっては、変わらず「愛しいオッサン猫」だった。
それから僕らは、一年また一年と、危うい積み木を重ねるようにして、カイとの日々を過ごすこととなる。
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