第15話 『 死んだマネ 』
前にも書いたかも知れないが、カイは佐賀に来てからほぼ一日じゅう寝て過ごすようになった。それは単純に心地良さからと云うより、やはり寝転がっている方が楽だったのだと思う。場所はその時々で変わったが、一番多かったのは仏間の座椅子か仏壇下の僅かな板間の上だった(冬場はこたつが一番の避難場所)。
カイはそれこそ死んだように寝ていた。いちいち僕らに気をつかうのも面倒臭いのか、近寄って触っても反応してくれないことすらあった。あまりにも無反応なカイに僕らは時々「こいつ本当に生きてるのか?」と不安になったりした。
ああ、こいつはこうやってだんだんとあの世に近くなっていくんだな、と僕らは思うようになった。カイはそれくらいむしろ眠りの世界を懐かしむかのようによく寝た。そして鼻水を垂れていた。「あれは多分脳みそが溶けてるんだよ、寝過ぎで」僕は冗談でそう言うことがあったが、それはあながち冗談だけでもなかった。
以前のように隆々たる体躯で家の内外を闊歩することがなくなったカイだが、僕が部屋で書き物をしていると不意にのっそりと部屋の中に入ってきたりした(或いは部屋の外で「開けろ」と鳴く)。そしてひたひたと近寄ってくるとその愛想の無い眼差しで僕を見上げる。僕は仕方なく抱き上げると自分の胸に抱く。要はお互いに寒さと温もりを共有するのだ。場合によってはカイを自分の上着の中に入れて、しばらく一緒に外の景色を眺めたりする。そして気がつくとカイはその状態で寝息を立て始めている。それこそ死んだマネでもするかのように。僕はそうやって以前より軽くなったカイの重みを、それでも満更ではない気持ちで支え続けた。
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