第13話 『 猫可愛がり 』
僕の経験上、人に対して無遠慮でややもすると辛辣な態度を見せる人ほど、何故か猫には手放しの愛着を感じるようだ。その代表がうちの母親だと言ったら当人からこっぴどく叱られるだろうか。
僕の母親は昔から良くも悪くも厳しい人だった。我が子の甘えもどこ吹く風で、今なら即「虐待」と言われそうな罵詈雑言も平気で口にするところがあった(もちろん母親個人だけではなく地域性にもしっかりその原因はある)。それは自らが早くに父親を亡くし、六人きょうだいの長女として誰にも甘えられない環境で育ったことにも因るだろうが、彼女のむべもなさは齢七十を越えた今も全く健在なのだ。
当初カイについても母親の反応は実に冷ややかなものだった。理由は簡単だ。僕ら夫婦に子どもが無かったからだ。
「子は作らんで、猫どん(なんて)連れて来はたげて」
それが母親の言い分だった。確かにそう言われると僕らに返す言葉はなかった。僕ら自身がカイと一緒に暮らしたことで、随分夫婦の時間を削られたことは紛れもない事実だったからだ。しかし僕らには子どもができない理由がお互い或る程度分かっていたし、佐賀に戻ってきた頃にはカイとの暮らしは僕ら夫婦にとってごく当然のことになっていたのだ。
そんな当初はカイを「よそばしか(汚ない)色の猫」としか見ていなかった母親も、わすか数ヶ月で完全にカイとの生活に慣れ、もしくは僕ら以上にカイとの時間を持ちたがるようになった。例えば夜寝る時などは「ほら、寝るぞ」と当たり前のようにカイを自分の寝室に拉致していくし、カイの姿が見えないと「どこ行った?」と家じゅうを探し回るほどだった。
ところがそんな母親を当のカイは少なからずウザったく思っていたようで、無理矢理母親に抱き抱えられたりすると「ニャァ」と珍しく鳴き声を出して抗議していた。僕はその様子を見ながら「そりゃ、そんなに無理強いしたら嫌われるよ」と思ったが、母親はもともとの自己チューぶりを改める知性と柔軟性を持ち合わせてはおらず、時折カイから振られて一人すごすごと寝床に行く羽目となった。その後ろ姿に僕らは幾分憐れに思いながらも、「やれやれ」とカイを連れて二階に上がる。そして熊本では毎日そうだったように川の字で寝ることになった。
猫可愛がりも行き過ぎると「自分可愛がり」の枠から抜け出せずに、結局は猫自体から嫌われてしまうと云う道理だ。猫とは云え、相手も生き物。可愛がる以前の礼儀も当然あるはずなのだが…。
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