第3話 元魔王とアイスを買いに深夜のコンビニに行く

 朝、俺はベッドで爆睡しているアリスティアをゆすった。


「おい、アリスティア。起きろ」


「……ん……理太郎……もう少し……」


 紫髪が銀のハイライトを散らして、シーツに埋もれてる。金色の瞳が半開きで、完全に拒否モード。仕方ないので腕を引っ張って起こす。

 

 華奢すぎて、軽く持ち上がる。


「わっ……!」


「おはよう。顔洗ってこい」


「うん……」


 洗面所から小さな声が聞こえた。


「冷たい……水、怖い……」


 まだ水怖いのかよ! ……まあ、もはやこれも毎朝のルーティンだけど。


 キッチンで朝食を準備してる間、アリスティアがふらふら寄ってきた。俺のロンTをパジャマ代わりに着て、手が袖に隠れてる。かわすぎてもはや罪深いレベルだ。


「理太郎……甘いもの……」


「お前、朝からチョコ食う気か?」


「うん……!」


 ため息をついて、冷蔵庫から試作品を取り出す。


 会社で昨日完成した新作「3種のブドウの濃厚チョコ」。 


 シャインマスカット、巨峰、デラウェアの3種ブドウエキスをブレンドした競合他社のフルーツチョコに対抗する一品だ。


 実はアリスティアのアドバイスを受けて、最新の試作品では甘酸っぱさをちょっと足していた。


 アリスティアに一つ渡すと、両手で大事そうに受け取って、ぱくり。


「ん……おいしい……! 魔界の果実みたいに甘酸っぱい!」



 頰が緩んで、金色の瞳がキラキラ。


 でも、すぐに首を傾げる。


「でも……実際の果実の歯ごたえが感じられれば、もっといいかも……」


「歯ごたえ?」


「うん……魔界の果実みたいに、噛んだらプチプチして……」


 ……いいアドバイスだ。


 今までの試作品は味とか滑らかな口溶けとかを重視してたけど、果肉を入れて食感を加えるアイデアは新鮮。


 元魔王の視点、侮れねえな。


「了解。会社で試してみる」


「ほんと……? 私の意見、役立つ……?」


「役立つ! 役立つ! つーか、すでに甘酸っぱさのアドバイスは採用させてもらってるし!」


 そう言って頭を撫でると、耳まで赤くなって、


「……えへへ……」


 なんて言ってる。


 くっ! かわいくすぎて、ずっと見ていたくなっちまうじゃねぇか!


 会社に着くと、早速試作室で調整。ブドウの果肉を乾燥させてチョコで包む形に。3種のブドウをミックスして、プチプチ食感を再現。


 試食したみんなの反応がヤバい。


「川越くん、これ神じゃん! 本物の果実噛んでるみたい! いや、本物の果実より噛み心地いいかも!」


「この食感クセになるわ~」


 上司が目を輝かせて、


「これで市場取れるぞ! 甘酸っぱさの案といい、一体どこで着想得てるんだ?」


「えっと……パートナーから」


「魔物のパートナーから!? ほんとかよ!」


 それで社内試食会でも大ウケ。


 マジで来週のプレゼンで正式採用されそう。


 ……アリスティア、ありがとうな。


 結局、残業して帰宅は23時半。


 また玄関を開けると、アリスティアがソファで膝を抱えて待ってた。


「おかえり……理太郎……遅いよ」


「ただいま。お前、今日何してた?」


「寝てた……あと、テレビ見てた……」


 夕飯を簡単に作って食べ終わると、アリスティアが俺の袖を引く。


「理太郎……アイス、食べたい……」


「わかった。コンビニ行こう」


「一緒に……?」


「ああ。お前、外出たくないって言ってたけど、ちょっとだけならいいだろ? 深夜だから人もあんまりいないだろうし」


 アリスティアの顔がぱっと輝く。金色の瞳がキラキラ。……あー、いちいちかわいすぎる。


 コンビニまで歩いて5分。


 アリスティアは俺の腕にしがみついて、キョロキョロしてる。


「人間界の夜……明るい……」


 コンビニ到着。


 アイスコーナーへ。


 スイートシンフォニーのアイスも置いてる。菓子メーカーだけど、アイス部門も強いんだよな。


「どれがいい?」


 アリスティアが棚をじーっと見て、指差す。


「これ……理太郎の会社のが……いい……」


「お前、どうしてわかったんだ?」


「匂い……理太郎の匂いがする……」


 んなわけねーだろ!


 アリスティアが選んだのは、スイート・シンフォニーの新商品「ユキノエルちゃんの雪結晶アイス」。


 パッケージに描かれた可愛い雪のエルフ少女「ユキノエルちゃん」の白銀の髪に小さなエルフ耳、雪の結晶の髪どめをしたイラストが目を引く。


 アイス本体は、ユキノエルちゃんの髪どめを模した雪の結晶形の棒アイス。


 シンプルなミルクバニラ味で、冬もアイスを食べる若者層狙いの新作。アリスティアがパッケージを凝視して、小さく呟く。


「……この子、私に似てる……」


「似てる?」


「うん……髪とか、瞳とか……エルフ耳も可愛い……」


 一瞬、金色の瞳が少し寂しそうに細まる。


 なんか気になったけど、あえてスルーした。


 レジで買って、帰宅。


 アリスティアが袋から取り出して、目を丸くする。


「髪どめの……雪の結晶……!」


「ああ。食ってみろ」


「うん……!」


 ぺろぺろ舐めて、にこにこ。金色の瞳がトロ~ンとして、幸せそう。


「冷たくて……おいしい……理太郎、ありがとう……」


「ああ」


 食べ終わると、棒を見て、さらに顔がぱっと輝く。


「あ……何……これ?」


 棒に小さな雪結晶マークと「アタリ」の文字。


「あたりだ! アリスティア! やったな! もう一本もらえるぞ!」


「わあ……! すごい! もう一本食べられる!」


 大喜びで飛び跳ねるアリスティア。華奢な体がぴょんぴょん。銀のハイライトが揺れてとんでもなくかわいい。


「よかったな。今日はもう遅いから明日交換しに行こう」


「うん……! 理太郎と一緒に……」


 アリスティアが俺の胸に軽く顔を埋めてくる。


 冷たい頰が雪みたいで心地いい。 


 ……担当したわけじゃないけど、このアイス、ヒットしたらいいな。



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完全デバフ済みの前時代の元魔王(美少女)が転がり込んできたんだが、いろんな意味で弱すぎるのでマジでそろそろ帰ってほしい 佐松奈琴 @samatumakoto

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