SFあいうえお

新たな試みだ!

逸材だよ君は――。

嬉しいかい? 僕もだよ。

遠藤君も、きっと喜んでいる。

お疲れ様。未来は我々の手の中に!


改造の名残りで、四肢が少し痛む。

機械となった体で俺は、1人で佇む。

苦しさは無い。あるのは、虚無感だ。

結構な時間が経ったのか――。

この研究所は、もう見る影もない。


寒い――とすら感じない。

しんどい――とも感じない。

鋭くなった自身の腕は、刃物のよう。

戦場の兵器のような身体だ。

そうまるで――俺はサイボーグのようだ。


たちまち、俺はここを出ることにした。

丁度、この付近の地図を見つける。

積まれたバリケードを剥がし、外へと出る。

電灯やモニターはいずれも破壊され、壁は崩れ落ち、

都会だったはずの街並みは、見るも無残だった。


懐かしいあの頃を思い出す。

人間だった頃、山本さんと共に食べた卵料理。

温いスープを飲みながら、彼女の笑顔を眺めていた。

寝ても覚めても、彼女のことを想っていた――。

ノイズが走る――頭が割れそうだ――。


『晴れの大舞台。山本女史によるサイボーグ研究はついに実現へ』

『秘密の研究所では、なんと人体実験をしていたといいます』

『不幸な事故だったのです』女史はそう語る、同僚を改造した経緯を。

変な声が、頭の中で聞こえる。

『殆ど完成してたのに――封印しないといけないなんて』


「待ってくれ!」

みんな俺を置いて――どこかへ行ってしまった。

昔の、出来事だ……思い出した。

メモ――よく見れば、地図にメモ書きがあった。

『もうこれを見ているということは、私達人類は居なくなったかもしれません』


『優しい貴方をどうしても助けたかった』

『許して欲しい、なんて言わない。言う資格も無い』

『余命いくばくも無い、心臓病の貴方を救いたかった』


落雷に撃たれたような衝撃だった――。

両の目から、流れるはずのない涙が……。

坩堝のように金属で出来た身体。

礼を言いたい。彼女は、まだ生きているのだろうか。

ロボットとなった指で、最後の文を辿る。


『私は、貴方と共に』

ヲオォ――と胸の中で、何かを伝えるように機械音が鳴る。

「ん……くっ…ふっ」僕は、泣いた。



またいずれ、彼女と卵料理が食べたかった――。

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