あいうえお短編集

夢野又座/ゆめのマタグラ

夫婦あいうえお


「愛しているっ。

いつも一緒にいてくれ!」

うん――私はそう頷いた。

笑顔で私達は夫婦になるのだと思っていた。

一昨年の出来事だった――。


書いて欲しいモノがあるの。

聞いて欲しいの!

苦しいのは、貴方だけじゃない。

結婚したあの頃は、輝いていた……。

今年の出来事だ。


寂しい日々は続く。

しょうがないと自分へ言い聞かせ。

素晴らしいと教わったレストランへ行ってみましょうか。

先日、予約していた近藤です。

そうです。1人での予約です。


卵料理ですか、美味しそうです。

知人にも「美味しい」と聞きました。

伝えておきます。いえ、大丈夫です。

手紙のやり取りは、今でもしてるんです。

とんでもない! 私こそすいません、変な話をして。


仲の良い友達でいましょうって言いました。

人間、早々変わったりしません。

ぬかるんだ泥にハマってしまったように感じてしまいます……。

ねぇ。本当に、良かったのかしら。

呑気な声で、電話口の叔母はこう言った。


「ハルちゃんは急ぎすぎなのよ」

「昼も夜も相手のことだけを考えてたら、疲れちゃうわ」

「夫婦なんてものは――」

変なスイッチでも入ったのか、叔母の話は数時間に渡った。

本当。夫婦ってなんだろう。


またあの日がやってきた。

みんなでお酒を飲んで楽しむ会。学生時代のクラスメイトも、そして彼も居る。

難しい顔をしていたのか、クラスメイトに笑われてしまった。

面倒な話になる前に、早めに帰ろうかしら。

元々、彼が来ると分かっていたら来なかったのに……。


やかましいくらい騒いでいるみんなを置いて

遊歩道を通り、私は駅へと歩く。

夜は私の心に影を落とす。


ラーメン屋の前に来た辺りで、

「料理は、どうだ?」と声をかけて来た。

「ルリって子と行ったら?」と振り返りざまに言ってやった。

「連絡はしてない――別れた」

「ろくでもない男ね、あなたは」


「忘れられないんだ――君のこと

 を思うたび、胸が締め付けられる」

「んー。じゃあまぁ、ラーメンでも奢って貰おうかしら」




 その次は、またあの卵料理を二人で――。

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