このへんの敵・クラスメイト(陽キャ)
ようやく見えてきた街の明かりの中に、青い「A」の文字が浮かぶ
24時間営業のディスカウントスーパーの「バニティA」
店先は積み上げられた段ボールで埋まり、店内の棚は段ボール箱に入った状態で商品が立ち並ぶ。そこには生活の彩りも、店員の愛想も、未来への希望も詰まっていない。ただ「A」という青いネオンだけが、空虚な夜を照らしている。
「いらっしゃいませー‼︎」
こういう不本意な買い物の時はいつもましろはこの店を使う。そそくさと店の奥の生鮮食品スペース(外より気温が低い)からバランス卵のパックを手に取り、そそくさとレジに向かった。バニティAの支払いスペースはセルフから人がいる本来のレジまで無人であった。こういう場合は実は素人目にはわからない防犯システムがありそうなものだが、この店だと「窃盗されてもその分削減できる人件費の方が安いからOK」という、どこぞの牛丼屋みたいな経営方針を感じずにはいられない
「お支払いはこちらになりまーす! ……って、え、ましろん!?」
無機質なセルフレジに並ぼうとしたその時、元気すぎる声が静かな店内に響き渡った。
声の主は、クラスメイトの福圓陽奈。
瑞々しい茶髪のポニーテールと、対照的なバニティAの制服が綺麗なコントラクトとなり、無機質な店内を局地的に一気にポップに見える、要は客商売の理想系のような彼女が、品出しの手を止めてこちらに戻ってきたのでした。
「……あ……」
銀髪の隙間で、ましろの青い瞳がマグロのように激しく泳ぐ。
迎えうつましろはボサボサの頭、膝まで隠れるダボダボのネイビーのスウェット、そして手元には卵のパック。誰とも会わない想定のまま外に出てきた不審なパジャマ姿の女子高生に太刀打ちなどできるはずもない。
「なにその格好! 急に欲しいものでもできたの?」
陽奈はましろの動揺などお構いなしに、レジ袋を広げながらましろの「バランス卵」をスキャンする。ピッ、という無機質な音が、ましろには処刑宣告のカウントダウンのように聞こえた。
「……これ、……あ、朝ごはん……だから……」
「卵だけ? またそれ? ちゃんと野菜食べなよー、お肌カサカサになっちゃうよ?」
陽奈はレジ袋に卵を入れると、カウンターから身を乗り出して、ましろの銀髪の隙間からのぞく青い瞳を覗き込んだ。至近距離。陽奈からは、ましろが使っているはずのない柔軟剤の清潔な匂いがした。今更ですが、ましろはなんやかんやで昨日からお風呂に入っていないのもアウトです。
「余計な、お世話。……野菜は、栄養効率……悪いから」
「出た、ましろんの理屈! でもさ、その不健康そうな銀髪、あたしは結構好きだけどね」
陽奈は袋を差し出しながら、悪戯っぽくウィンクした。
ましろは、ひったくるように卵の入った袋を掴む。
「お釣り! お釣り忘れてるよ!」
「いらない!」
「ダメだよ! 消費税分でうまい棒買えるし! ほら、手出して」
無理やり手を引かれ、ダボダボの袖から白い手が引きずり出される。陽奈の温かい指先が触れた瞬間、ましろの心拍数は跳ね上がった。
「もう、行く!さようなら」
「あリがとうございましたー!」
陽奈の元気すぎる声が、段ボールの積まれた静かな店内に木霊する。ましろは返事もせず、電動自転車へ向かって脱兎のごとく駆け出した。
40分かけて帰る道のりは、行きよりもずっと遠く感じられた。
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