『聖女ホタテ』にTS転生したので、優雅に海を旅しますわ ~お魚さんたちに辻ヒールして回る旅のつもりでしたのに、助けた魔物たちが勝手に『親衛隊』を結成してしまいましたわ~
第2話 その奇跡は虹色に輝く(※ただし自主規制)
第2話 その奇跡は虹色に輝く(※ただし自主規制)
『立てば芍薬、座れば牡丹』。
今の僕を形容するのに、これほど相応しい言葉はないだろう。
透き通るようなサファイアブルーの海中。僕の貝殻は優雅なリズムで開閉し、海水を蹴って身体を弾き飛ばす。
硬い貝殻の中に鎮座する僕は、たゆたう水流に合わせて青い長髪を片手でかき上げながら、真珠層の光沢に映る自分を観察した。
涼やかな流し目に、あでやかな笑み。大和撫子とは、まさにわたくしのことではございませんこと~?
現状には概ね満足しておりますけれど、強いて不満を挙げるとすれば、お着物が足りませんわね。海底の砂は白くて綺麗ですが、やはり絹の肌触りが恋しいところですわ。どこかで手に入りますかしら?
――おや。
あちらに、銀色に煌めく小魚の群れが見えますわ。ご挨拶に伺いましょうか。
「ごめんあそばせ~」
……なんて思ったのが運の尽き。
覚えたてのホタテ泳法――ジェット噴射による急加速――は制御が効かず、僕は魚群のど真ん中へ猛スピードで突っ込んでしまった。
バシュッ、と水泡が弾ける。
驚いた魚たちが巻き起こす乱流に揉まれ、キリキリ舞い目を回す僕。
上も下も分からずどうすることもできずにいたその時、一匹の勇敢な小魚が頭で僕の身体を支え、そっと海底の砂地まで運んでくれた。
「お助けいただいたのですか? 感謝いたしますわ!」
僕が砂の上で体勢を整え、深々と頭を下げると、魚はひらりと尾びれを振って珊瑚の陰へと消えていった。
いけませんわね、調子に乗りすぎました。猛省せねば。
スイミングスキルの熟練度をカンストさせてから、改めて皆様にご挨拶へ伺うとしよう。
気を取り直して、海底の散歩を再開しようと再び貝殻を開いた――その矢先。
近くの砂の上に、別のお方がぽつりと横たわっているのに気がついた。
渋い灰黒色の殻を持つ、先客だ。
もしかすると、あの殻の中にも僕のような美少女が眠っているのかもしれない。いや、あるいは麗しき殿方という可能性も。
ご近所付き合いは大切ですもの、これはご挨拶申し上げませんと!
僕はしとやかに貝殻を羽ばたかせ、水底を滑るように相手のもとへ近づく。
ノック代わりにコンコンと殻を叩こうとして、手を止めた。
……あちら様の
縁の部分がバキリと割れ、痛々しい亀裂が走っている。
「まさか、ホタテ強盗の仕業ですの!?」
ホタテ強盗ってなんやねん、とは思うものの、可能性は高い。嫌な予感が背筋(貝柱?)を走る。
中身が空っぽなら、ここには邪悪な強盗が潜んでいるかもしれん。ウチも狙われる! ここは逃げの一手か!
いや、待て。
もし中に、強盗に襲われて怪我をした美少女やイケメンがおったらどうする? 見捨てるんか?
覚悟を決め、僕は破れた殻にそっと手を添える。
自らの身を乗り出し、欠損部分から薄暗い中を覗き込んだ。
「ごめんくださいまし……」
そこにいたのは空っぽでもなく、美少女でもイケメンでもなく――極めて平凡な、ただの生身のホタテだった。
身を小さく縮こまらせており、同族のよしみか、ひどく衰弱しているのが伝わってくる。
怪我のせいだろうか。このままでは不味い。
何か手立ては……そうだ、さっき見たあの奇妙な文字列。
僕は再び、鏡代わりの貝殻内面に触れるようにして、ステータス画面を呼び出した。
【種族:ホタテ(姫種)/幼年期】
【装備スロット】
真珠:なし
【アクティブスキル】
『
【パッシブスキル】
『お嬢様マナー』『毒耐性』
『お嬢様マナー』がある時点で、これが僕のステータスなのは確定だ。
そして、『
成分を分泌して、それをカチカチに固める。いかにも修理に使ってくれと言わんばかりの組み合わせじゃないか。
どうすれば発動するのかと考えた瞬間、喉の奥から熱い衝動が込み上げてきた。
反射的に口を開く。
次の瞬間、僕の口から虹色に輝くキラキラしたものが、どろりと溢れ出したではないか。
鏡代わりの貝殻を見て、僕は戦慄した。
これ、アニメとかギャグ漫画でよく見る、
なんで美少女がこんなもん吐き出しとんねん!
こんな淑女がおってたまるか!
……と叫びたいところだが、『お嬢様マナー』の補正恐るべし。
虹色のエフェクトを盛大にリバースしている最中だというのに、傍目には口元を上品に押さえて「おほほ」と微笑んでいるようにしか見えない。なんてシュールな光景だ。
まさか、これが 『
自分の貝殻の底に溜まった、虹色の物体X。
触れるのは躊躇われたが、背に腹はかえられない。意を決して手を突っ込む。
不快な液体かと思いきや、掬い上げてみると意外にもしっとりとしていて、まるで上質な陶芸用粘土のような感触に変わった。
僕はすぐに理解した。これが『
こねくり回すと、自在に形が変わる。
これ、速乾コンクリみたいなもんか!?
成分的には『コンキオリン』なんだろうけど……長ったらしいし、舌を噛みそうだ。
よし。今日から君の呼び名は『コンクリ』に決定だ!
これならいけるかもしれない!
僕は溜まったコンクリを両手いっぱいに掬い上げ、相手の欠損箇所へあてがう。
優しく撫で付けるように伸ばしていくと、物質は瞬く間に硬化し、カチカチの固体へと変化した。
元々の渋い灰黒色とは対照的に、僕が直したパッチ部分は純白で、しかも虹色の光沢を放っている。
……まあ、最近はアシンメトリーが流行りやし、ええやろ!
作業に没頭していると、時間はあっという間に過ぎるものだ。
向こうも僕の意図を察したのか、微かに殻を開いたままじっとしていてくれたおかげもあり、修復は無事に完了した。
けれど、コンクリが少し余ってしまった。捨てるのも勿体ない。
「よろしければ、差し上げますわ」
僕は余った分を団子状に丸め、相手の殻の中へぐいっと押しやった。まあ、枕にでもしてくれればいい。
――そう思った、次の瞬間だった。
あちら様の本体がうねりと動き、虹色のコンクリをものすごい勢いで喰らい始めたではないか!
「ひえっ!?」
う、嘘やろ!?
それ、僕の口から出たアレやで!? 虹色に輝いてるとはいえ、ビジュアル的には完全にモザイク案件のアレやで!?
ドン引きする僕を他所に、相手は「ムシャムシャ」という擬音が聞こえてきそうな勢いで完食してしまった。カルシウム満点で美味しかったのだろうか……。
野生のたくましさに、僕は戦慄を禁じ得ない。
とはいえ食事(?)を終えた頃にはすっかり元気を取り戻したようで、僕の周りをパクパクしながら元気に泳ぎ回っている。
そのあられもない食事風景は忘れることにして……どうやら感謝してくれているらしい。嬉しそうで何よりだ、うん。
ひとしきり泳いだ後、そいつは僕の正面に着地して殻をパカリと開き、中からゴロリと灰黒色の真珠を差し出してきた。
「あら、よろしいのですか? このような高価なものを……」
辞退しようとしたが、野生のホタテは存外力が強い。
グイグイと押し付けられ、受け取らざるを得なかった。
真珠といえば指先サイズを想像していたが、渡されたそれは予想外に大きかった。両手でそっと包み込むと、ちょうど掌に収まるくらいのサイズ感だ。
けれど、すべすべとした手触りと、シックな輝き。宝石が人の心を惹きつける理由が、少し分かった気がする。
じっと見つめていると、なんだか水晶玉のようにも見えてきた。
これがあれば、占い館でも開けそうではないか?
もっとも、水晶玉が真っ黒だから、僕はさしずめ『闇の占い師』といったところだな!
そういえば、ステータス画面に『装備』という項目があったはずだ。ホタテにとって真珠は装備品らしい。これを付けるとどうなるのだろう?
僕はその真珠を片手で大事そうに捧げ持ち、空いたもう片方の手を、鏡面のように輝く自分の殻の内壁へと伸ばした。
そして再びステータスを開く。
【種族:ホタテ(姫種)/幼年期】
【装備スロット】
真珠:
▼灰黒 Lv.1
└ 効果:知性共有・微
【アクティブスキル】
『
【パッシブスキル】
『お嬢様マナー』『毒耐性』
素敵な装備品が手に入った上に、人助け(貝助け?)もできて、なんとも清々しい気分だ。
このまま善行を積んでいけば、竜宮城から表彰される日も近いのではなくて?
などと悦に入っていた、その時。不粋な音が響く。
『グゥウゥゥ~~……』
僕のお腹――正確には貝柱のあたり――が、悲鳴を上げたのだ。
……お腹が、空きましたわ。
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