「初クエストで分かった。俺、どうやら規格外らしい」
異世界で迎える、初めての朝。
焚き火の残り香と、草の匂いで目が覚めた。
「……あ」
視界に入ったのは、すぐそばで眠る少女――アリエスの寝顔だった。
近い。
近すぎる。
昨夜は野営になり、警戒のため交代で見張りをするはずだったのに、気づけば同じ毛布に包まれていたらしい。
「……落ち着け、俺」
起こさないよう、そっと体を起こす。
その時。
「……アオイさん?」
ぱちり、とアリエスが目を開けた。
「お、おはよう」
「おはようございます!」
満面の笑み。
朝から破壊力が高い。
「昨日は、安心して眠れました」
「そ、そう?」
「はい。アオイさんがいてくれたので」
胸が、きゅっと鳴った。
……この距離感、慣れない。
◇◇◇
朝食を済ませ、俺たちは再び街へ向かった。
「今日は、簡単なクエストにしましょう」
アリエスは地図を広げながら言う。
「討伐じゃなくて、素材採取です。危険度も低いですし」
ギルドで目立ちすぎた反省もあり、俺も頷いた。
「それがいい。俺、まだ何も分かってないし」
クエスト内容は、森に生息する小型魔物の素材回収。
――だったはずなのに。
森に入って、十分もしないうちに。
「……え?」
アリエスが、硬直した。
彼女の視線の先。
そこにいたのは、明らかに“小型”ではない魔物。
全身を岩のような皮膚で覆った、二足歩行の巨体。
「ロックオーガ……!? こんなの、依頼書には……!」
地面が揺れる。
一歩踏み出すだけで、威圧感が桁違いだ。
「アオイさん、逃げましょう!」
アリエスが俺の腕を引く。
でも、俺は動かなかった。
――怖くない。
それが、一番の異常だった。
「大丈夫」
「え?」
「俺がやる」
前に出る。
ロックオーガが咆哮を上げ、拳を振り上げた。
正直、どう戦えばいいか分からない。
でも――
「……《風刃》」
思っただけで、魔法が発動した。
無数の風の刃が、オーガを切り裂く。
岩の皮膚が、紙のように裂けた。
「――《雷撃》」
追撃。
閃光と轟音。
ロックオーガは、そのまま崩れ落ちた。
……終わり?
「…………」
振り返ると、アリエスが口を開けたまま固まっていた。
「……アリエス?」
「ア、アオイさん……」
次の瞬間。
「す、すごすぎます!!」
勢いよく抱きつかれた。
「ちょ、ちょっと!?」
「ロックオーガを、あんな簡単に……! 私、ギルドで何年も冒険者やってますけど……!」
顔が近い。
近すぎる。
「アオイさん、やっぱり……すごい人です」
潤んだ瞳で、真っ直ぐ見つめられる。
……耐えろ、俺。
◇◇◇
クエストは、問題なく完了した。
むしろ、想定以上の素材が手に入り、報酬も倍。
ギルドでは、再び注目を浴びそうになったが、今回は何とか誤魔化せた。
その帰り道。
「……アオイさん」
アリエスが、少しだけ真剣な顔で言った。
「どうした?」
「私……最初は、助けてもらったから一緒にいたんです」
胸が、ざわつく。
「でも、今は……」
一度、言葉を切り、深呼吸。
「……一緒にいたいから、います」
直球だった。
逃げ場がない。
「強くて、優しくて……それなのに、自分のことは後回しで」
俺の手を、ぎゅっと握る。
「アオイさんのそばにいたいです」
完全に、デレていた。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
「……俺で、いいの?」
思わず、そんなことを聞いてしまう。
アリエスは、少し驚いた後、柔らかく微笑んだ。
「はい。アオイさんが、いいんです」
その言葉が、胸の奥に染み込んだ。
異世界での初クエスト。
初めての仲間。
そして――初めて、真っ直ぐ向けられる好意。
俺の人生は、確実に変わり始めている。
この先、どれだけの出会いと、試練が待っていようとも。
少なくとも今は。
この異世界で、
誰かに必要とされている。
その事実が、何よりも嬉しかった。
次の更新予定
俺をフッたあの娘は、転生した先で何故か敵軍のお姫様やってました。 時雨乱太郎 @genmu420
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺をフッたあの娘は、転生した先で何故か敵軍のお姫様やってました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます